従来より強まった円安の物価上昇効果

消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の対前年比は、今年の5月からプラスの値が続いているが、9月も0.7%の上昇となった。これは、経済の好循環が始まったことの表れと評価されている。以下では、このような評価が正当化されるかどうかを検討する。

今回の消費者物価上昇は、円安によってもたらされたものだ。円安になると、消費者物価が高まる傾向がある。その限りにおいて、ここ数ヵ月の消費者物価の上昇は、不思議ではない。ただし、今回は、従来とは異なる要素が含まれていることに注意が必要だ。

9月の消費者物価上昇に寄与した主要な要因は、次の二つだ。

第1は、エネルギー関係費である。特に重要なのは、電気代(対前年比上昇率7.6%。寄与率は0.27%)と、ガソリン(同9.0%と0.23%)だ。都市ガス、プロパンガス、灯油を含めたエネルギー全体で見ると、対前年比上昇率は7.4%、寄与率は0.64%となった。

2008年にも、原油価格の高騰が消費者物価を引き上げた。それと今回のケースは似ているように見える。しかし、大きな違いがある。それは、電気料金の値上げが加わっていることだ。日本の発電は、東日本大震災以降、火力発電にシフトしている。日本の制度では、燃料価格の上昇が自動的に電気料金に反映する仕組みになっているため、円安でLNG(液化天然ガス)の輸入価格が上昇し、それが電気料金を引き上げるのだ。

電子製品は輸入超過テレビやPCの価格が高騰

消費者物価指数の対前年比プラスに貢献した第2の要因は、教養娯楽用耐久財の寄与率が0.00%になつたことだ。

教養娯楽用耐久財の下落率は、これまで20%程度と、極めて大きかった。この項目のウェイトは、1万分の171なので、消費者物価指数を0.3%程度引き下げていたことになる。ところが、下落率が減少し、13年8月に0となった。そして、9月に対前年比が0.48%の上昇になったのだ。

PC(パソコン)では、特にこの傾向が明確だ。ノートPCの場合、13年5月以降登別年比がプラスに転じ、9月では実に12.4%もの上昇となっている。PCの場合には、海外生産あるいは海外からのパーツ調達が多い。このため、円安の影響で価格が上昇しているのだ。テレビについても、同様の事態が発生していると考えられる。

これまで、日本の輸入の中で最終消費財はあまひ多くなかった。日本の輸入の主要品目は、鉱物性燃料と原材料だったのである。これらの価格は円安で上昇するが、企業が利益を減らして吸収すれば、生産物価格には影響しない。実際、輸入価格が上昇しても、消費者物価が上昇しないことが多かった。それは、企業が転嫁しなかったためだと考えられる。

リーマンショック前の円安期にも、このことが観察された。すなわち、04年ごろから原油価格が上昇し、かつ05年ごろから円安も進行したため、輸入価格もそれに合わせて上昇した。ところが、消費者物価はこれに合わせて上昇したわけではなかった。消費者物価指数は、若干の例外時点を除くと、101未満の水準で安定的に推移していたのである。また、リーマンショック後、原油価格も回復し、輸入物価も上昇した。しかし、消費者物価は下落を続けた(以上についての詳細なデータは、『ダイヤモンド・オンライン』に連載中の「日銀が引き金を引く日本崩壊」を参照されたい)。

現在でも、円安によって原材料価格は上昇しているが、それが顕著に消費者物価に影響しているようには見えない。つまり、企業は利益を圧縮することによって、原材料コストの上昇を吸収しているのだ。

これに対して、最終消費財の製品輸入の場合には、円安による輸入価格の上昇が、消費者物価に直接影響することとなる。ところが、現在の日本は、電子製品については、輸入国になっているのだ。拙著『製造業が日本を滅ぼす』(第2章の2)で述べたように、2000年以降、電算機類(周辺機器を含む)の輸入は輸出を上回っている。11年度では輸入は輸出の約4倍だつた。12年度では、輸出3369億円に対して輸入は1兆7085億円であり、輸入は輸出の約5倍となっている。

円安は国民を貧しくしつつある

以上で述べたように、今回の消費者物価上昇は、電気料金の引き上げと部品・製品の輸入価格上昇という、これまでにはなかった要因の影響を受けている。

これら二つの条件によって、円安が価格に反映されやすくなっているのである。リーマンショック前と最近を比較してみよう。

円ドルレートは、05年1月の1ドル=103.27円から07年6月の122.64円へと15.8%減価した。輸入物価指数は、この間に84.6から118.4へと40.0%上昇した。しかし、消費者物価指数は、100.5から100.6へと、ほとんど変化しなかったのである。

ところが、今回は、円ドルレートが12年9月の78.17円から13年9月の99.3円へと21.3%減価し、輸入物価指数は17.9%上昇した。そして、消費者物価指数が0.7%上昇したのである。

右に述べた要因の影響は、今後ますます強まる。まず、火力発電への依存が続く限り、電気料金の上昇は物価上昇の主要な要因として働き続けることになる。また、製造業の海外移転や、製品・部品の海外依存は、今後も継続する。したがって、為替レート変動の消費者物価への影響は強まったと考えるべきだ。

日本経済全体として見れば、いまや輸入が輸出より多いので、ネットで海外に課税されたのと同じことになる。つまり、円安によって、日本国民の富が産油国などに吸い上げられるわけだ。その額は、消費税の負担より大きい。円安は、日本経済にとって望ましいと考えられることが多いが、決してそうではないのだ。

特に問題なのは、実質賃金の低下が円安で拍車をかけられることだ。毎月勤労統計調査による8月の実質賃金指数は、前年比2%の下落となった(事業所規模5人以上、現金給与総額)。7月のマイナス1.0%より下落幅が拡大している。

これは、実質消費を落ち込ませ、実質GDPの成長に影響を与えることに注意が必要だ。リーマンショック以降、実質GDPが伸びたのは実質消費が伸びたからである。実質消費の中で特に伸びが顕著だったのは、教養娯楽であった。その伸び率が高かったのは、価格低下が顕著だったからだ。

円安が進んで教養娯楽用耐久財の価格が上昇すれば、実質消費の成長は阻害される。実際、4~6月期のGDP統計を見ると、実質消費の伸びは鈍化している。経済が好転しているのではなく、危機的な状態に陥りっつあることに注意が必要である。また、物価上昇は、名目金利を押し上げる可能性もある。

日本銀行は、物価上昇率2%を目的としている。現在程度の為替レート水準では、その実現は難しいだろう。しかし、今後さらに円安が進めば、これまで述べたメカニズムによって、エネルギー関連経費と、製品輸入率の大きな製品の価格上昇が進み、2%が実現される可能性はなくはない。しかし、それは、日本経済が回復したことを意味するわけでは決してないのだ。

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