食料価格高騰対策はコメの輸入拡大

食料価格の高騰が顕著だ。それを背景にして、「日本の食料自給率を高めなければならない」という意見が力をつけている。この考えは間違いであることを以下に述べたい。問題の性質は、作物によってかなり異なる。まずコメについてみよう(他の作物については、次回に論じる)。

コメの価格高騰は、他の作物より顕著だ。コメの国際価格は、2007年末まで1トン320ドル程度だったが、08年5月には1000ドルを突破した。

また、ベトナム、インド、カンボジアなどのコメ輸出国が輸出規制に踏み切った。タイではコメ泥棒や闇米問題が発生し、フィリピンでは軍隊が出動する騒ぎまで発生した。

このような断片的なニュースをつなぎ合わせると、不安に駆られる人が出てきても不思議ではない。そして、次のような主張が支配的になる。「コメは日本人の主食である。それが世界的に供給不足になって価格が暴騰し、コメ騒動まで発生している。これは大変なことだ。わが身を守るのは最後は自分だから、日本は国内のコメ生産体制を強化すべきだ。そのために補助金を増やす必要がある」。

しかし、この考えは誤りである。コメに関する限り、日本は世界の需給と切り離された鎖国体制にあるからだ。以下に論じるように、今日本で真剣に検討すべきは、コメの輸入をむしろ拡大することである。

まず、価格面を見よう。日本国内で卸売業者が農家から買い入れる価格は、標準米で1kg230円程度である。スーパーマーケットの安売りで1kg400円程度だ。これに対して、フィリピンがベトナムから買い付けた価格は1kg130円であり、日本の国内価格より遥かに安い。前記の国際価格をキロ当たりに直せば、100円程度だ。07年までは30円程度だったわけだから、日本の国内価格は国際価格の8倍程度だったことになる。

もちろん日本米(短粒米)は、国際的に取引されている長粒米と違うから、単純な比較はできない。しかし、その点を考慮しても、日本の価格が世界標準からかけ離れた高水準であることに変わりはない。実際、カリフォルニア産米の中粒米売り渡し価格は、籾米ベースで1kg30円程度である。総務省統計局のデータによると、コメ(長粒)1kgの小売価格は、アメリカ1.25ドルに対して日本3.37ドル(06年)である。

日本の国内価格が高いのは、日本の国内市場が国際市場から切り離されているからだ。1995年に食糧管理法が廃止されるまで、コメは輸入禁止であった。現在でも、きわめて高率の関税によって、輸入は事実上締め出されている。

こうした鎖国政策のため、完全な自給が成立している。それどころでなく、生産調整が依然として続いている。世界的な食糧需給タイと化のなかで、日本のコメは過剰生産なのだ。これは、ほとんどジョークとしか言えない状態である。

コメ輸入を拡大すれば日本人の食生活は向上する

次に品質面を見よう。多くの人は、日本米の質は、国際水準より遥かに高いと考えている。しかし、必ずしもそうではない。事実、90年代までは、アメリカ産のコメのほうがずっと品質が高かった。私は、アメリカ旅行の土産はコメと決めていた。カリフォルニア米は、日本米より遥かにうまかったからである。

食糧管理法の廃止以来、日本の国内でも市場原理が働くようになり、コメの品質は向上した。これは、われわれの日常経験から明らかなことだ。私も、アメリカ旅行の土産としてカリフォルニア米を持ち帰ることはなくなった。価格は依然として安かったが、「うまさ」の面でさほどの差がなくなったからである。

04年にカリフォルニアに1年間滞在してから帰国したとき、むしろ日本のコメのほうが味がよいと感じた。この20年間程度で、質の面では、日米の差は逆転したわけである。

ただし、その差はわずかなものだ。だから、仮に日本がコメの輸入関税を撤廃すれば、今でもカリフォルニア米が圧倒的な競争力を持っている。そして、小売価格は飛躍的に下がる。だから、日本人は、コメに対する支出を大幅に節約できるわけだ。

したがって、食料価格が一般的に値上がりするなかで食費支出を抑えようとするものであれば、すぐにでもできて確実に効果がある施策は、コメの輸入関税撤廃である。

長期的に見た効果はさらに大きい。仮に日本のコメ輸入が増加すれば、アメリカやオーストラリアなどでコメ生産が増加するだろう。また、日本人の嗜好に合わせた品種の生産が行なわれるだろう。したがって、長期的に見れば、価格面のみならず、質の面でも大きく改善され、日本人は豊かな食生活を享受できるわけだ。価格面でも質の面でも、日本の消費者は現在のコメ施策のために大きな犠牲を強いられているのである。

一般に穀物の国際市場は限界的だが、コメは極端であり、生産量のうち輸出されるものは6~7%程度にすぎない(大豆、小麦、トウモロコシなどは12~18%)。したがって、国内のわずかな需給変化が国際市場に大きな影響を与える。冒頭で述べたコメ騒動が起きたのは、このためだ。日本がコメ輸入を自由化すれば、コメは国際製品となり、需給は安定化する。

農家対策があるだけで農業政策はない

コメの輸入を増加すべきだという意見に対して、「そんなことをしたら、主食の供給を外国に握られてしまう。安全確保の観点から絶対にできない」という反論が出るのは目に見えている。しかし、この意見は間違いである。国内供給に頼ることこそ、安全的供給確保の観点から問題なのだ。

まず、国内でも不作はありうる。最近では、冷夏に見舞われた93年だ。生産量が背んねんの1057万トンから783万トンに激減し、260万トンの緊急輸入を余儀なくされた。農作物生産は、天候に左右される不確実性の高い活動だ。

したがって、安定供給確保のための最も確実な方策は、供給源を全世界に分散化することである。

長期的に見れば、日本の農業はもっと深刻な問題に直面している。すでに高齢化によって農業就業者は減少している。今後さらに高齢化が進み、就業人口はさらに減少する。

こうした事態を回避するには、農業を魅力的な21世紀型の産業に育て、若年就業者を引き付けることが必要だ。この必要性は今きわめて高くなっている。しかし、こうした観点からの議論は、ほとんど省みられない。

日本で米作農家が保護されているのは、コメの生産のためというより、兼業農家の保護のためである。コメの生産性向上が目的なら、集約化や大規模化、そして農業法人の導入や農地の売買自由化などが必要だ。しかし、そうしたことはなされていない。これまで続いてきた「片手間農業」「三チャン農業」の生活を保護することだけが目的である。

これは、社会政策であって農業政策ではない。この点は、自民党、民主党、共産党を通じてまったく変わりがない。実際、先般の参議院選で民主党は農家補助を訴えた。この点で、民主党は自民党以上に自民党的である。共産党も農家保護を訴えている。都市労働者階級のことなど、とっくに忘れてしまったわけだ。

「日本には農家対策があるのみで農業政策はない」と言わざるをえない。

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