米国金融緩和終了で投機の時代は終わるか

来年1月に任期満了を迎えるアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)議長の後任人事が難航している。最有力候補だったローレンス・サマーズ元財務長官が指名を辞退し、本稿執筆時点では、その後の新しい人事提案はなされていない。

この人事に世界中の注目が集まるのは、言うまでもなく、アメリカの金融緩和政策の行方に関係しているからだ。緩和政策に懐疑的と言われるサマーズが辞退したことを受けて、ニューヨーク市場では株価が一時は上昇した。

後任人事が決まらない現時点で将来を予測するのは、早過ぎるかもしれない。ただ、日本経済にも大きな影響が及ぶ重要な問題なので、あり得るシナリオを考えてみることとしたい。

現在のアメリカの金融緩和政策は、雇用情勢の改善を目的として行われている。しかし、アメリカ企業の利益はすでにリーマンショック以前の水準を回復し、順調に増加を続けている。したがって、問題は企業の利益をいかに雇用や賃金に振り向けるかという分配上の問題である。これは税制や社会保障政策の役割であり、金融政策が有効か否かは、大いに疑問だ。

その半面で、金融緩和で投機が容易になり、アメリカから流出した投機資金が世界で次々にバブルを引き起こしていることは否定できない。

ユーロ危機は、アメリカサブプライム証券化商品から逃避した投機資金が、南欧国債や住宅投資に回ったために引き起こされたと考えることができる。また、中国は、リーマンショックによる経済の落ち込みを回避するために巨額の景気刺激策を行った。それが不動産バブルを引き起こした。したがって、中国の不動産バブルは、アメリカの不動産バブルを引き継いだものと見なすことができる。

マクロ的な対外バランスも老慮する必要がある。アメリカは巨額の経常収支赤字がいまに至るまで続いている(GDPの約3%の4700億ドル程度)。これは、資本収支でファイナンスされている。アメリカ経済の長期的な見通しが良好である限り、資本流入は続く。

ただし、それをファイナンスできる国の存在が必要だ。リーマンショック前には、中国、日本、産油国が主たる資本供給国だった。しかし、日本の経常収支黒字は、リーマンショックと東日本大震災を経て減少している。中国の貿易黒字も減少している。したがって、アメリカに対する資本流入がこれまでのように順調に続く保証はない。

以上の状況を考慮すると、誰がFRB議長になろうと、金融緩和政策をこれ以上継続することの是非は、検討課題にせざるを得ないのである。

投機が縮小すれば日本国債バブルが崩壊

仮にアメリカの緩和政策が終了した場合、日本にはどのような影響が及ぶだろうか? 一般には、アメリカの景気悪化で日本でも株価に悪影響と考えられることが多い。しかし、そうなるとは限らない。

緩和政策の終了は、アメリカの金利を上昇させるだろう。仮に日本の金利が上がらず日米金利差が拡大すれば、日本からアメリカへの資金移動が起こり、円安が進む。それによる株高を期待する向きがあるかもしれない。

しかし、事態はそれほど簡単でない。日本の金利が上昇しない保証はないからだ。金利上昇が起こるメカニズムは、いくつかある。

第1は、単にアメリカの金利に引かれて上昇することだ。実際、今年の春以降の日本の長期金利の上昇は、アメリカの金利上昇の影響と考えることができる。

第2の可能性は、全世界的な規模での投機の縮小だ。金融緩和の終了は、投機のための資金調達を困難にするし、また、資金コストも上昇するからである。

それによって、ユーロ圏から日本への資金流入が減少、または流出に転じることが考えられる。この資金は主として日本国債に投資されていたため、国債価格の低下を通じて、金利高騰を招く。また、アメリカから日本の株式市場に流入していた資金も逆流する。これらは、為替レートを円安方向に動かすが、同時に日本の景気に悪影響をもたらすだろう。

ここで大きな問題は、円安が進んでも輸出数量が増大しないことだ。実際、この1年の間に約25%もの円安が進んだにもかかわらず輸出数量は減少している。数量の代替指標としてドル建て輸出額を見ると、7月の前年同月比は、世界9.8%減、中国12.0%減、米国4.8%減、欧州7.9%減などとなっている。対中輸出の減少は、異常なほどだ。これは、時間がたてば自動的に回復するものではない。対欧輸出が回復する可能性はあっても、対中輸出が増えることは期待しにくい。

他方で、資金流出は円安をもたらし、国内物価を上昇させる。したがって、経済活動が停滞する半面で物価だけが上昇するというスタグフレーションに突入する危険がある。

では、これに対処する方策はあるだろうか? 前号で指摘したように、現在の日本経済は公共事業の著しい増大によって支えられている。これをさらに拡大すれば、金利の高騰を招くだろう。欧州からの投機資金の流入の減少を考えると。これまでのように金利に影響を与えずに有効需要のみを増大させることは難しい。

国債バブル崩壊の危機下で財政膨張

アメリカの金融緩和が住宅価格バブルを引き起こしたが、それが崩壊し、バブルは欧州と中国に移った。また金融緩和がアメリカをはじめとして世界の先進諸国で行われた。

2012年11月ごろ以降進行した円安と日本株価の高騰も、欧米のヘッジファンドなどによる投機の結果として生じた可能性が強い。このことは、国際収支における証券投資の動向を見ると、明らかである。12年秋からは、アメリカからの投資が株式市場に流入した。

アメリカの金融緩和が終了すれば、投機資金の調達は困難になり、世界的な投機の時代は終わりを告げるだろう。投機の時代が、アメリカの住宅価格上昇が顕著となった03年ごろから10年、リーマンショックから5年を経て、やっと終了するのかもしれない。

最後に残ったバブルは、日本国債のバブルである。財政状況が最悪であるにもかかわらず日本で歴史的な低金利が続いたのは、世界の投機資金が安全を求めて、日本国債に避難していたからだ。特に11年には、ヨーロッパから日本に対して巨額の証券投資の資金流入があった。これが、日本財政を破綻から守ってきた。

日本国債(10年債)の利回りは、リーマンショック前には1.5%程度だった。それが11年ごろかち顕著に低下し、いまは0.75%程度だ。仮にリーマン前の状態に戻るとすると、日本国債の利回りは急騰する。

そうなれば、巨額の国債を保有する金融機関に損失が発生するだけでなく、利払い費の急増によって財政が危機的な状況に陥る。それによって、これまで覆い隠されていた日本の財政の潜在的な問題が顕在化する恐れがある。

それにもかかわらず、消費税増税対策としての財政支出増、法人税の減税、公共事業の増額など、政治的圧力による財政拡大要因がめじろ押しだ。これらは、国債バブル崩壊の危険をまったく無視している。国際的な投機の縮小による国債バブルの崩壊は、差し迫った危険として認識する必要がある。

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