投資依存経済成長はなぜ持続できないか

前回、現在の日本経済は公共事業で支えられていると述べた。このことは、GDP統計の4~6月期第2次速報において、極めて明確な形で示されている。

実質GDPの対前期増加率(年率換算値)は、第1次速報値の2.6%増から3.8%増に上方修正されたが、その大きな原因は、政府固定資本形成(公共投資)と民間企業設備投資が増えたことなのである。公共投資は、第1次速報値の1.8%増から3.0%増に上方修正された。設備投資は、第1次速報値の0.1%減から1.3%増に上方修正された。

前回述べたように、建設工事受注動態統計調査報告(国土交通省)によって元請受注高の推移を見ると、公共事業が著しい勢いで増加していることがわかる。

すなわち2013年3月までは対前年同月比1桁台の伸びだったが、4月以降は2桁の伸びが7月に至るまで続いている。

中でも、公共機関からの受注工事の伸びは著しく、5月51.7%、6月43.0%となった。これは、今年1月に編成された大型補正予算に盛り込まれた公共事業の影響だ。

「民間設備投資は民需だから、これが増えたことは、金融緩和によって好循環の歯車が回り始めていることの証拠だ」と考えられるかもしれない。

しかし、そうではない。実は、民間企業設備投資も、官需の影響で伸びているのである。つまり、設備投資も間接的に公共事業依存なのだ。

このことは、13年4~6月期の法人企業統計を見ると明らかだ。すなわち、金融・保険業を除く全産業の設備投資は、前年同期比0.016%増の8兆3106億円となり、3四半期ぶりに増加したのだが、設備投資が増加したのは、ほぼ建設業と不動産業に限られた現象だったのである(ただし、製造業の中で輸送用機械だけは15.2%増となった)。

すなわち、建設業が26.0%増、不動産業が20.1%増と大幅に伸びた。大型補正予算による公共工事が、こうした著しい設備投資増をもたらしたのだ。

「支出・生産・所得の好循環が動き始めており、これによって民需主導の持続的な経済成長が実現する」と言われる。しかし、実際に起きているのは、民需主導ではなく、官需主導の経済成長なのだ。

この成長メカニズムの問羝は、前回強調したように、財源の制約が厳しいために、持続性がないことだ。強行すれば金利が上昇する。

投資依存の傾向はオリンピックで増幅?

公共事業への依存は、東京オリンピックに向けての準備で加速されるだろうか? それを期待する向きもあるようだ。では、経済効果はどれくらいのものと期待されるだろうか?

東京都の試算によれば、13年から20年までの7年間の経済効果は、需要増加額が全国総計で約1兆2200億円だ。波及効果を含めた生産誘発額では、全国総計で約2兆9600億円と予測されている。

これは7年間の数字だから、年間でならして見れば、大きな額とは言えない。こうなるのは、競技施設は、既存施設の利用が中心で、追加投資はあまり行われないからだ。

ところで、この数字は、インフラ投資を含まない。これを機会に、インフラ整備を進めて「国土強靭化」を進めようという意見があるかもしれない。

しかし、人口が減少する経済で、一時的な需要のためにインフラを整備すれば、過剰になり、将来に向けて大きな負担となる。ホテル投資もそうだ。したがって、建設関係の投資額は、限定的なものとならざるを得ないだろう。

重要なのは、前回の束京オリンピックが行われた1960年代といまとでは、経済環境がまったく違うことだ。

64年の東京オリンピックの際には、それに向けて首都高速道路や東海道新幹線が建設され、競技施設も新しく建設された。東京中が建設ラッシュに沸き、「東京中の道路が掘り返された」と言われたほどだった。

当時と比べて特に大きな違いは、財政状況だ。当時の日本の一般会計予算は黒字であり、国債を発行していなかった。現在の状況とは比べものにならない。

成熟経済における成長戦略とは

現在の公共事業依存の経済成長も、将来に向かってのオリンピック関連の投資依存も、いずれも財源面での制約がある。

これに対して、「財源の制約は工夫すれば解決できる」との意見があるかもしれない。そして、例えば、PFI(Private Finance Initiative)という手法の活用が提案されるかもしれない。これは、民間資金を用いて公共事業を行うもので、80年代のイギリスで導入されたものだ。日本でも、関西国際空港に関連して用いられたことがある。

ただし、財源の問題とは、実は表面的なものであることに注意が必要だ。本当に重要なのは、その背後にある経済全体の貯蓄と投資のマクロ的なバランスなのである。

公共的な投資の財源には、さまざまなものがあり得る。道路財源のような税もあるし、国債もある。そして、PFIのような民間資金の活用もある。しかし、いかなる手段が使われるにせよ、投資が増大することが経済の諸条件との関係で齟齬を来せば、マクロ的なバランスで問題が生じる。

最も明らかなケースは、金利が上昇することだ。民間貯蓄を吸収するために他の手段が用いられても、限度を超えると問題が起こる。

2000年代中ごろのアメリカの住宅ブームでは、サブプライムモーゲッジと証券化の手法が導入された。中国でも、「理財商品」という形で富裕層の貯蓄が吸収され、地方政府による不動産開発で用いられた。しかし、いずれも問題を起こしている。

アメリカの場合には、消費が高水準で、貯蓄率が低かった。そこに住宅ブームが起きて投資が増えたので、破綻すべくして破綻したのだ。中国の貯蓄率は高いが、それでも投資増が限度を超えて、問題化している。

日本の場合、人口の高齢化により貯蓄率は著しく低下している。貿易収支は赤字化し、経常収支の黒字も縮小しつつある。高齢化による貯蓄率の低下(消費の増大)は不可避なので、投資をさらに拡大する余裕は経済的にないのである。

日本はすでに成熟経済に移行している。このような経済で、設備投資を70兆円に増やすことを成長戦略の柱にしたり、国土強靭化と言って公共投資をさらに拡大しようとするのは、基本的に誤った方向なのである。

必要なことは、消費が順調に拡大し得る経済環境を整え、それを成長戦略の柱にすることだ。製造業の設備投資が海外で行われるのは容認し、そこからの利益が国内に順調に還流する制度を整えるべきだ。

そして、社会資本については、必要不可欠なものだけを残して、全体のストックをうまく減少させる道を探るべきだ。

最後に、以上で述べたのとはまったく別のことを述べたい。

日本は、福島原発事故の処理という困難極まりない課題を抱えている。7年後でも収束には程遠いだろう。現場では、多くの人が放射能と戦っているはずだ。そして、故郷の家に戻れない人々も多数残っているだろう。こうした国で、なぜオリンピック開催がお祭り騒ぎになり得るのか、私は理解に苦しんでいる。

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