円安による消費抑制への対処が現下の最重要課題

消費税増税の可否をめぐる議論は、次の2点を中心になされている。①消費支出への影響を重視して延期する。②延期すれば日本財政の再建可能性に対する信頼が失われて日本国債の格付けが下がり、金利が上昇して景気が悪化することを重視し、予定通り増税する。

これが重要な論点であることは間違いない。ただし、景気抑制効果を持つのは、消費税だけではないことに注意が必要だ。より重要なものとして、円安によるコストアップがある。

前回指摘したように、景気に対する潜在効果は、こちらのほうが大きい。結論を繰り返すと、次の通りだ。

消費税の税収は、税率1%当たり2.5兆円程度なので、税率を5%ポイント引き上げることによる増収額は、約12.5兆円である。これは消費や住宅投資を減少させるだろう。

他方、この1年間ですでに25%程度の円安が進んでいる。2012年の輸入額は70.7兆円なので、円安による輸入額の増加は、17.7兆円ということになる。これは、消費税増税額よりはるかに大きい。発電のための燃料費増加だけでも、1.8兆円になる。

したがって、消費税増税による景気抑制効果を心配しながら円安の影響を無視するのは、まったくおかしい。仮に景気に対する悪影響を心配するなら、何よりも先に、規模が大きい円安の影響に対処すべきだ。前回は、このための具体的な手段として、円安による企業利益に課税し、これを電気料金の抑制に用いることを提案した。

円安は、実質消費を抑制しつつある

円安のコストアップ効果は、すでに消費に悪影響を及ぼし始めている可能性がある。

それを見るために、GDP統計における実質消費支出のこれまでの動向を見ると、次の通りだ(詳細は、『ダイヤモンド・オンライン』連載「日銀が引き金を引く日本崩壊」第17、18回を参照)。

実質家計消費支出は、リーマンショック後に落ち込んだものの、実質GDPほどの大きな落ち込みではなく、10年7~9月期にリーマン前のピークを回復した。最近では、リーマン前ピークより5%ほど高い水準であり、最近に至るまで増加を続けている。リーマン後の対前年伸び率は、3~4%程度であることが多い。

ところが、名目家計消費支出の動向は、実質値とはかなり異なる。すなわち、いまだにリーマン前のピークより低い水準なのである。最近増加しているのは事実だが、これは東日本大震災による落ち込みからの回復にすぎないと考えられる。対前年伸び率も、おおむねゼロが続いていた(ただし、最近時点では2%を超えている)。

こうなる理由は、消費デフレーターの低下が著しいことにある。このため、名目値で増加しなくとも、実質値で顕著な伸びを示すことになるのだ。

これは、家計消費を目的別に見ても確認されることだ。各項目の中で実質伸び率が最も高いのは「娯楽・レジャー・文化」なのだが、これは、同項目の名目値の伸び率が高いからではなく、デフレーターの低下が著しいためなのである。

以上からわかるように、実質消費額の動向に大きな影響を与えているのは、デフレーターの動向である。

ところが、先般発表された4~6月期のGDP速報では、家計消費の対前期比増加率は、名目でも実質でも1~3月期に比べて低下した。すなわち、家計最終消費支出(実質季節調整系列)の対前期比増加率(年率)は、1~3月期の3.4%から、4~6月期には3.1%に低下した。これは、実質GDPの伸び率が3.8%から2.6%に低下した一つの要因になった。

また、名目値での増加率は、2.7%から2.4%に低下した。

右に述べた過去の推移を勘案すると、これは、円安による物価高で引き起こされた可能性が強い。つまり、円安によって消費者物価が上昇し、これが名目の消費の増加を抑制し、さらに実質消費の増加をも抑制した可能性が高い。

ところで、円安による消費者物価上昇は、まだ始まったばかりである。円安による輸入物価上昇のかなりの部分は、企業が利益を減少させることによって吸収しており、製品価格には転嫁されていないからだ。しかし、時間がたてば、徐々に転嫁が進む。

03年から08年ごろまでの経験を振り返ると、円安による輸入価格上昇に対する消費者物価上昇の弾性値は、20分の1程度と考えられる。したがって、25%の円安によって、最終的には消費者物価が1.25%程度上昇する可能性がある。そうなれば、実質消費に与える影響はさらに大きなものとなるだろう。

「デフレ脱却」すれば実質成長率は低下する

消費動向についての詳細は、家計調査によって見ることができる。

消費支出の対前年同期比は、実質で見ても名目で見ても、4~6月期に低下した。対前年同期比は、実質で見ると、1~3月期の平均が2.8%だったのに対して、4~6月期には▲0.2%だ。名目では、1~3月期が2.1%であったのに対して、4~6月期が▲0.4%だ。これは、円安による物価高で引き起こされた可能性が強い。

名目値の動向と実質値の動向の関係は、費目によって異なる。

電気代の場合には、名目値での対前年同期比はプラスでほぼ一定だが、実質値ではマイナスであり、しかもマイナス幅が拡大している。すなわち、名目値での対前年同期比は、13年1~3月期の平均が2.4%、4~6月期が2.0%だが、実質値では、それぞれ、▲0.7%と▲6.6%になっている。

実質値でマイナスとなるのは、電気料金引き上げの結果である。料金引き上げが続くために、マイナス幅が拡大しているのだ。

これに対して、名目値の動向と実質値の動向かあまり変わらない費目もある。例えば、交通通信費の対前年同期比は、実質値で見ると、1~3月期平均の6.7%から、4~6月期には▲1.9%に低下した。また、名目値では、同期間で、7.3%から▲1.7%に低下している。

8月の月例経済報告は、「デフレから脱却しつつある」と述べた。消費者物価がプラスの伸び率に転じたからだが、それは、ガソリン代など、エネルギー関連の価格が円安によって上昇したことが大きな要因だ。

そして、それは、実質消費支出の伸びを抑制する働きをしているわけだ。品目によっては、名目の消費支出を抑制している。

つまり、物価上昇は、実質成長率を高めるのではなく、低下させているのである。今後企業が電気料金の上昇を製品価格に転嫁すれば、消費はさらに減少するだろう。

前回述べたように、この状況は、円安利益に課税し、その税収を用いて電気料金を抑制することによって対処できる。そうした政策は、公平の観点からも、資源配分の観点からも必要なものである。

円安で利益を得た企業が、それを賃金引き上げに使わずに内部留保を増やすことにのみ使うことに対して批判がある。だからといって、企業に賃上げを要請するのでは、経済政策にはならない。政府は、こうした事態に対処できるために課税権を与えられているのだ。

消費税増税を延期するか否かを議論する前に必要なのは、こうした政策である。

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