消費増税延期より電気料金抑制が重要

円安によって輸出関連企業の利益が増加している。2013年4~6月期決算で、円安による利益増は、自動車産業大手7社で5000億円を超えた。上場企業全体の経常利益は、前年同期に比べて42%増加した。

自動車産業の計致は四半期のものなので、年間ベースでは約2兆円ということになる。また、東京証券取引所の上場企業(市場第1部・2部・マザーズ合計、連結、全産業)の経常利益は、13年3片期決算で23.5兆円だ。したがって、その42%は、ほぼ9.9兆円になる。

為替レートの減価率は、この1年間で約25%になる。自動車の年間輸出額は9.2兆円なので、この25%は約2.3兆円だ。これは、右記の額とほぼ照合する。また、12年の年間総輸出額は63.7兆円であり、その25%は15.9兆円だ。この額は、12年における法人税収9.8兆円の1.6倍になる。このかなりの部分が、上場企業経常利益増に寄与しているわけだ。

円安によって輸出企業の利益が大幅に増加するのは、円評価の売上高が増加する半面で、国内の生産コストは変わらないからである。もちろん、原価の中には輸入品も含まれており、その円評価額は上昇して、その分だけ企業利益は圧縮される。したがって、原価に占める輸入品の比率が低い産業ほど、円安による利益増加率が高くなるわけだ。自動車産業は、そのよすな産業の代表である。

円安によって輸入品の価格は上昇するのだから、円安による輸出産業の利益増は、国全体としてのネットの利益ではない。経済のある部門が負担を負い、他の部門の利益が増えるという「移転」にすぎない。

したがって、最初に述べた円安による利益増は、無条件で望ましいこととは言えない。むしろ、移転が引き起こすさまざまなひずみに対して、政策的な対応が必要である。

円安による輸入価額増は消費増税額より大きい

円安による輸入価格の上昇は、どの程度の規模のものであろうか。12年の日本の輸入総額は70.7兆円なので、この25%は、17.7兆円になる。

消費税の税率引き上げが経済に悪影響をもたらすと言われる。しかし、税率の5%ポイント引き上げによる増収額は12.5兆円程度だ。したがって、円安による負担増のほうが大きいわけである。清費税増税が景気に悪影響を与えると言いながら円安の負担増に目をつぶるのは、まったくおかしなことだ。

円安による輸入原材料価格の上昇は、企業利益を圧迫する。しかし、それを製品価格に転嫁できれば、企業利益の縮小は食い止められる。どの程度の転嫁が可能かは、製品市場における競争圧力がどの程度強いかに依存する。ガソリン代はすでに値上がりしており、秋には、原材料輸入価格上昇を理由とする食料品値上がりが続くだろう。これらが消費者物価指数を引き上げる要因となっている。6月の消費者物価上昇率がプラスになったことから、政府の8月の月例経済報告は「デフレ状態ではなくなりつつある」とした。しかし、実際に起こっているのは、右のような現象だ。

なお、製品価格に転嫁できない企業は、利益縮小を避けるために、賃金をカットする可能性も強い。この場合には、円安の負担は労働者が負担することになる。このように、円安によるコストアップがどのような形で最終的に負担されるかは、複雑だ。

円安による価格上昇の中で最も重要なのは、電気料金だ。なぜなら、第1に、電気料金の場合には、燃料コストの上昇は、自動的に電気料金に転嫁される制度になっている。第2に、電気料金はあらゆる経済活動に影響を与える。

12年度における電力10社の燃料費の合計額は7.1兆円である。これが25%増加すると、増加額は1.8兆円となる。他方で、同年度における10社計の電気料金総額(電灯料と電力料の計)は、15.3兆円だ。したがって、燃料費の増加がすべて電気料金に転嫁されれば、電気料金は11.6%上がることになる。

高い法人税率が日本企業を外国に追いやるという。しかし、以上の検討からわかるように、電気料金の値上げのほうが影響が大きい。法人税減税が必要だとの考えが、ごく一般的になっている。しかし、冷静に考えれば、対処が必要なのは、円安のコストアップなのである。電力料が企業の電気料金だと考えると、12年で8.9兆円なので、この10%増を抑えることは、企業にとって法人税減税よりはるかに大きな効果を及ぼす。

具体的には以下に述べるように、円安による利益に課税し、それを用いて、円安のコストアップに対処すべきである。日本企業の国際競争力の観点から、そうした措置が必要だ。

円安利益への課税は資源配分の観点からも必要

円安は、企業努力によって実現したものではない。個々の企業から見れば、天から降ってきたよ夕なものだ。これは、次の二つのことを意味する。

第1に、公平の観点から、円安に起因する利益に課税することが求められる。

しかも、輸出関連企業の法人税の負担は依然低い(具体的な数字は、『ダイヤモンド・オンライン』連載「日銀が引き金を引く日本崩壊」7月4日号を参照)。これは、過去の赤字の影響や海外所得の影響があるからだ。高収益を挙げている企業の法人税負担が非常に低い水準なのである。だから、国民感情から言っても、課税強化は当然だ。

第2に、為替レートは個々の企業がコントロールできる変数ではないから、それに起因する利益に課税をしても、企業のインセンティブが阻害されるような事態は生じない。つまり、これは、資源配分の攪乱効果を持たない課税である。

こうした議論に対して、「将来円高になったら法人税を減税するのか」との批判が生じるかもしれない。しかし円高のときに、すでに法人税減税をしているのである。法人税の基本税率は、それまでの30.0%から、12年に25.5%に引き下げられた。なお、これによって経済が活性化したり製造業の海外移転が食い止められるようなことはなかった。これは、法人税率引き下げが経済効果を持たないことを明白に示している。

他方で、内需の着実な拡大のためには、消費者の所得を増加させることが必要だ。最低限、円安によるコスト上昇を補填すべきだ。

そこで、円安利益に課税して、これを電気料金補助に使うことが考えられる。本来は円安による原材料費の上昇一般に対して補助策を講じるべきだが、その実行は技術的に困難なので、問題が最も大きい電気料金のみに対して行うのである。

一般には、価格を政策的に操作すると、資源配分がゆがむ。例えば、発電の火力シフトに伴う電気料金の値上がりを抑えると、電気の過剰使用が生じる。火力シフトという事態に対して電気使用を制限するには、電気料金の値上げが必要だ。

しかし、ここで考えているのは、経済の実体的要因に伴う価格変化でなく、為替レートの変化によって生じる価格変化だ。それを放置すれば、資源配分が攪乱されるので、政策で対応したほうがよい。円安が投機によって引き起こされたものである場合には、なおさらそうだ。

法人税の減税や消費税増税の延期が必要と言われる。しかし、必要なのは、内需の着実な拡大のための所得再分配なのである。

Comments

comments

Powered by Facebook Comments