安倍内閣の選挙後の課題は財政問題

参議院選挙後の安倍晋三内閣を待ち受けているのは、財政に関連する困難極まりない課題への対処である。

第1に、消費税率引き上げの最終的決断が必要だ。安倍内閣は経済は好転しつつあると主張しており、事実いくつかの経済指標は改善している。4~6月期のGDP成長率は、1月に編成された補正予算による公共事業の増加と、消費税率引き上げ前の住宅駆け込み需要の影響で、かなり高い成長率になる可能性が高い。したがって、景気を理由として税率引き上げを延期するのは難しいだろう。

消費税率を引き上げたところで、財政収支が目立つて改善するわけではない。しかし、日本政府が財政再建に取り組んでいることを世界に示すために、引き上げは必要だ。仮に引き上げを見送れば、日本国債の格付けは引き下げられ、金利が高騰する危険がある。

第2の課題は、社会保障制度の改革である。民主党政権時代に、自民党を含めた3党合意によって「社会保障・税一体改革」が閣議決定された。しかし、「一体改革」とはいうものの、実際に決めたのは消費税率の引き上げだけであり、社会保障制度にはほとんど手がつけられていない。しかし社会保障制度の改革こそ、税財政改革の中心課題だ。

まず、後期高齢者健康保険の自己負担率引き上げ問題がある。しかし、これはすでに決定されていることであり、本来であれば2008年度から実施すべきだったものである。いまさら議論する問題ではない。早期の実行が必要だ。

ただし、社会保障制度については、これ以外にも重要な問題が山積みだ。本当に必要とされるのは、基本的な社会保障制度、特に年金制度の見直しである。公的年金制度を維持するには、支給開始年齢の引き上げを含む制度の基本に関わる改革が必要だ。

第3の課題は、公共事業の扱いだ。先に、「経済指標が改善しつつある」と述べたが、これは、金融緩和政策の結果でも円安の結果でもなく、1月に編成された大型補正予算の執行によるところが大きい。つまり、アベノミクスの3本の矢のうちで、第2の矢だけが実体経済に影響を与えているのだ。

しかし、この効果は、今年の末ごろまでしか続かない。そして、補正予算の支出は、従来型の「ばらまき公共事業」であり、経済構造を変えるよすなものではない。これは、単純な需要追加策だ。しかも、消費税率を引き上げれば、住宅をはじめとする駆け込み需要が消滅し、総需要が激減することが明らかだ。したがって、公共事業を中心とする財政拡大を継続しなければ、経済は失速する。

ただし、そのためには財源手当てが必要だ。以下に述べる財政再建目標との関係で、この問題にどう対処するかが考えられなければならない。公共事業の増加を来年度の本予算で行うのか、それとも13年度予算の補正予算として行うのかの選択はあるが、この問題が出てくることは間違いない。

アベノミクスのリスクが世界の懸念要因に

安倍内閣が対処すべき第4の課題は、財政再建である。6月に閣議決定された「骨太方針」(経済財政運営と改革の基本方針)では、「国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の対GDP比を、15年度に10年度の水準から半減し、20年度に黒字化する」との目標が示されている。10年度の国と地方の基礎的財政収支は30.8兆円の赤字である(国は32.9兆円の赤字)。したがって、約15兆円の収支改善が必要だ。このほとんどは国の分だ(なお、経済再生諮問会議の計算によれば、13年度の基礎的財政収支は、約34兆円の赤字である)。

これを消費税率の引き上げだけで行おうとすれば、どの程度の税率引き上げが必要だろうか?

消費税率1%での税収は、2.5兆円程度と言われる。しかし、これから地方消費税分を除ぐと、国の収入となるのは2兆円程度だ。そのうち約3割は地方交付税交付金に充てられる。したがって、国が自由に使える額は1.4兆円程度でしかない。したがって、15兆円を捻出するには、11%程度の税率引き上げが必要になる。これを今後2年の間に実現するのは、とうてい不可能だろう。

しかし、右の目標は国際公約になってしまっている(10年のG20トロントサミットの共同声明で国際公約とされ、その後もG20等の会合で繰り返しコミットしている)。目標が達成できないと、日本政府に対する信頼は失墜する。

それは、単に日本国債の格付けを引き下げるだけでなく、日本国債からの資金の逃避を招ぐだろう。そうなれば、日本国債は暴落し、世界経済に対しても大きな影響を与える。

6月に開かれたG8において、日本は、「信頼できる中期的な財政計画が必要」との指摘を受けた。8月には「中期財政計画」がまとめられることとなっているが、ここで具体的な回答を示さなければならない。

「朝日新聞」の報道によると、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストで調査局長のオリビエ・ブランシヤール氏は、7月9日、世界経済見通しの発表会見で、世界経済のリスク要因として、中国の金融システム不安と成長鈍化、アペノミクス、米国の量的緩和縮小による世界経済の不安定化を挙げた。

IMFはこれまでアベノミクスに好意的な立場を取っていたが、今回は危険性を警告したわけだ。氏の指摘は、日本政府が財政の健全性強化を実行しないと、投資家が日本の財政の持続可能性に不安を抱き、日本の国債利回りが上昇しかねないということだ。

金利が高騰すれば、日本の財政は破綻する

プランシャール氏の指摘は、唐突なものでもないし、杞憂でもない。日本の財政の実情を知る者にとっては、ごく当然の常識的な見方だ。この連載においても、繰り返し指摘してきたところである。

そもそも、日本のような財政状況の国が、ドイツ、アメリカを下回る金利で資金を調達できるのは、どう考えてもおかしい。11年の末にイタリア10年国債利回りが7%に上昇したが、イタリアの財政状況は、どのような指標で見ても、日本より良好だ(例えば、基礎的財政収支は黒字である)。

日本の名目金利が低いのは、物価上昇率が低いからである。ところが、日本銀行は、2年以内に物価上昇率を2%に引き上げると宣言している。それが実現すれば、金利は少なくともドイツ、アメリカ並みになると考えざるを得ない。日本の財政状況は、ドイツ、アメリカとは比較にならないほど悪いので、金利もドイツ、アメリカより高くなると考えるのが自然だ。

名目金利が上昇すると、さまざまな問題が起きる。まず、国債を大量に保有している金融機関は、資産価値の下落に直面する。メガバンクはすでに、保有国債のデユレーションを短期化して、これに対処している。

最大の問題は、国が国債利子の支払いを続けられなくなってしまうことだ。これは、この連載ですでに何度も指摘したことである。

選挙後の安倍内閣は、こうした厳しい問題に正面から向き合わざるを得ない。財政問題は、どの問題も、解決のために痛みが伴う。しかし、これらは、避けて通れないものである。

まずは、消費税率引き上げや後期高齢者の自己負担率引き上げなど、決定済みの事項から着実に実行に移すことが必要だ。

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