政府支出に依存する従来型の景気回復

日本銀行は、7月11日の金融政策決定会合で、景気の基調判断を「緩やかに回復しつつある」とした。会合後の公表文では、景気の基調判断を前月の「持ち直している」から1段階引き上げた。個別項目では、生産を「緩やかに増加している」、輸出を「持ち直している」へそれぞれ上方修正した。設備投資も「持ち直しに向かう動きもみられている」へ引き上げた。黒田東彦総裁は、会合後の記者会見でも、国内景気は「緩やかに回復しつつある」との見方を繰り返した。基調判断を引き上げた理由は、国内景気が底堅く推移し、輸出が持ち直している中で、「所得から支出への前向きな循環メカニズムが働いている」ことだとした。

確かに、鉱工業生産指数は上昇を続けている。ただし、2005年基準値は、12年9月がボトムで、上昇はそれ以来のことである。この当時には、まだ円安への転換は始まっていなかったので、自律回復と考えるべきだろう。

ただし、水準は低い。4月は91.9で、10、11年の水準に及ばない(10年秋から11年初までが95程度。震災直前が97~98程度だった)。乗用車の生産も同じ傾向。ボトムは12年9月で、それ以降回復が続いているが、4月の指数は109.3で、12年4月の121.3と比べるとかなり低い。

鉱工業生産指数の水準が低い大きな理由は、輸出量が減少していることだ。5月の輸出額は前年同月比10.1%の増となったが、その原因は輸出価格指数が同15.7%伸びたことだ。輸出数量指数は同4.8%減で、88.2だ。12年6月に100.3とピークになってから、ほぼ傾向的に下落している。5月は、12年6月に比べると、12%程度の減だ。乗用車輸出も同様だ。5月の台数は、2~4月に比べて減少した。前年同月比で見ると、6.8%減だ。中期的に見ると、11年秋の月間47万~48万台からほぼ傾向的に減少しており、5月には40万台を割った。中国に対する輸出は、建設機械の輸出台数が5月に前年同月比7割強も減るなど大幅な減少が続いている。

日銀の基調判断では、輸出を「持ち直している」としている。確かに輸出額では持ち直しているが、円ベースでの手取りが円安によって増えているだけなのだ。

官需による機械受注が5月に急増している

前回述べたように、5月の機械受注民需(船艙・電力を除ぐ)は、前月比10.5%増となった。前年同月と比べても12.2%増となっている。以下では、機械受注の全体像をやや詳細に見ておこう。

まず、受注額合計の対前月比は12%増となった(対前年同月比は17.7%増)。需要者別受注額を見ると、外需が10.3%増の9066億円、民需が12.4%増の9455億円、官公需が44.8%増の3599億円となっている。このように、官公需の伸びが群を抜いている(対前年同月比は50.9%増)。これは、アベノミクスの第2の矢である大型補正予算の影響と考えられる。つまり、「公共事業を増加させて景気を回復させる」という従来型の政策が行われているわけだ。4~6月期のGDP統計においても、公共投資は高い伸びを示すだろう。

民需(船舶・電力を除く)の中身は、次の通りだ。まず、製造業の対前月比が3.8%にすぎないのに対して、非製造業は27%と大幅な増加を示している。増加率が大きかったのは、金融業・保険業が前月比106.3%増、運輸業・郵便業が同70.2%増、卸売業・小売業が同23.2%増などだ。このように、民需で大きく増加しようとしているのは、製造業の設備投資ではなく、非製造業の設備投資なのだ。

しかも、額で見ると、「船舶・電力を除く民需」の受注額7992億円のうち、製造業は2971億円にすぎないが、非製造業は5607億円だ。

このように、現在の日本では、額の面でも、非製造業のほうが大きいのである。

6月の日銀短観で全産業の設備投資計画は13年度上期に前年同期比9.6%増と大幅な上方修正となったが、控えていた設備の維持更新投資とみられている。実際、下期の計画は4.2%減だ。

非製造業の中の建設業は、公共事業増加の影響である可能性が高い。また、住宅投資が消費増税前の駆け込み需要で活況であることの影響もあるだろう。

消費主導経済成長が実現する可能性があるか?

以上で見たように、設備投資は今後増える可能性があるが、それは、政府支出に大きく依存するものだ。

しかし、経済対策は年末にかけて息切れするし、消費税増税が行われれば、住宅建設は落ち込む可能性が強い。

したがって、本来は、家計消費を中心とした内需による景気回復が目指されるべきだ。では、消費は増加しているだろうか?

株高を背景に、個人消費の好調が続いていると言われる。特に、宝飾品や高級腕時計の売れ行きが好調で、百貨店の高級品フロアが活況と言われる。

しかし、商業動態統計調査によると、5月の商業販売額は、前年同月比0.6%の増加にとどまっている。百貨店販売額も低調で、12月を別とすると、12年11月以降、減少を続けている。季節調整済みの伸び率で見ると、スーパー、百貨店では、ほぼゼロ成長が続いている。5月の大手スーパーなど57社の売上高は、既存店ベースで前年同月から1.2%減少した。5月の大手コンビニ10社の既存店売上高も、前年同月より1.2%減少した。このように、消費が増加している状況は統計で確認できない。

株高で消費が増えるといっても、ごく一部の人々のことだ。それに、株価が下がれば、逆転してしまう。本格的な消費主導経済成長が実現するためには、幅広い就業者層の実質所得の着実な増加が必要だ。

しかし、5月の現金給与総額指数(10年=100、季節調整値)は99.3であり、前月比で0.4ポイント低下した。そして、リーマンショック直前の水準(103.0)には程遠い状態だ。企業利益に連動する賞与は増えても、残業代を除いた基本給は増えないのである。

他方で、円安で輸入物価が上昇し、消費者物価は上昇を続けている。生鮮食品を除く消費者物価上昇率は、年末に向けて前年同月比で0.5%程度にまで高まる可能性がある。

このように、賃金が伸び悩み、物価が上昇して実質賃金が低下すれば、消費の増加は望み得ない。

政府は、6月に閣議決定した成長戦略で、1人当たり国民総所得を10年後までに150万円以上増やすとした。GNI(国民総所得)とは、日本人が国内外で得た所得の総額のことで、GDP(国内総生産)に、主に海外からの所得(現地法人の配当や海外投資からの利益、海外で就労した人の所得など)

の受け取ひを加えたものである。海外への投資からの所得は、すでに日本経済にとって重要な意味を持っている。国際収支では、貿易収支が赤字になったにもかかわらず、所得収支が巨額の黒字を実現しているために、経常収支が黒字を続けている。

しかし、海外からの所得は、国内では主として資産所得の形で実現する。つまり、国内で支払われる賃金には直接影響しないわけだ。したがって、GNIが増えても、国内消費が増える保証はない。賃金所得を中心とした生涯所得の上昇という観点から、成長戦略の内容を見直す必要がある。

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