ムードだけでは不十分 今後の経済政策の課題

参議院選挙が終わり、今後の経済政策を中期的な観点から考える条件が整った。この機会に、安倍晋三内閣の経済政策であるアベノミクスについて評価しておこう。

アベノミクスの中心は、金融政策である。しかし、マネーストックをM2で見てもM3で見ても、対前月比増加額はマネタリーベース増加額に及ばない。つまり、異次元金融緩和措置で日本銀行による国債購入が増加し、銀行の日銀当座預金が増えたが、それだけに終わってしまって、貸し出しが増えていないのである。

異次元金融緩和の効果は、皮肉にも、金利が上昇したことだ。金利上昇は、アメリカ金融緩和終了予測の影響でもあるが、日銀がインフレ目標として2%という高い値を設定したためでもある(インフレ率が2%である経済では、名目金利は必ず2%以上になるため、現状からの大幅な金利上昇になる)。

長期金利の上昇は、経済にさまざまの悪影響をもたらす。最も憂慮されるのは、金利支払いの増加によって国債費の利払いが増加することだ。政府は基礎的財政収支(プライマリーバランス)の縮小を図るとしているが、それが実現できないだけでなく、財政赤字はさらに拡大する恐れがある。

現在の国債利払いが約10兆円、平均利回りは1.2%程度。基礎的財政収支は約34兆円の赤字、消費税収が約10兆円、社会保障関係費が約30兆円程度であること等を考えれば、利払い費の増加や基礎的財政収支目標の達成がいかに困難な課題かがわかる。安倍内閣は、この問題については、ほとんど手をつけていない。

円安は所得の移転をもたらしただけ日本経済は、円安によって、大きな影響を受けた。これに関して、次の2点に注意する必要がある。

第1に、円安はアベノミクスによって実現したことではない。主として、世界的な資金の流れの変化によって生じたものだ。アペノミクスとの関係があるとすれば、日本政府が円安を無条件で歓迎する姿勢を明らかにしたことによって、円安方向での投機に絶好のチャンスを与えたことだ。また、アメリカの金融政策の行方は、為替レートの動同に大きな影響を与える。QE3の終了はアメリカ金利の上昇要因であり、したがって円安要因だ。円安がさらに進めば、日本の株価も上昇するだろう。

しかし、それは日本経済を活性化させるものではない。これが、注意すべき第2点だ。円安がもたらしたものは、経済活動の実体的な変化ではなく、所得の移転にすぎないのである。

すなわち、輸出業者の売り上げが円建てで増加し、利益が大幅に増えた。しかし、他方では、輸入価格が上昇している。

輸入物価指数は、12年11月の106.6から13年1月の115.5に、さらに5月の125.5に上昇している。このかなりの部分は、企業の利益圧縮で吸収されるだろう。しかし、一部は消費者に転嫁される。最大のものは、電気料金の引き上げだ。

こうして、輸入原材料に依存する産業では、利益が減る。また、家計の実質所得が低下する。したがって、後者から前者に巨額の所得移転が発生しているわけである。

輸入物価の上昇による物価上昇は、しばしば、アベノミクスの「副作用」であるとされる。しかし、副作用ではなく、前記の所得移転こそが、円安の主要な効果である。

公的年金は物価スライドするので、ある程度の物価上昇には耐えられる。問題は賃金だ。賃金は上がらないので、実質所得は減少する。これは、長期的には消費を減らすだろう。

したがって、本来であれば、円安による所得移転を補正する経済政策が必要である。例えば、円安による利益に課税して、電気料金引き上げを抑制するような措置だ。しかし、現実には、飼料価格や漁船燃料の上昇などに対して、補助が行われるのみである。

設備投資、賃金を増やす期待変化はつくり出せず

輸出量は増えていない。5月の貿易統計では、対前年比で価格指数は15.7%の増となったが、数量指数は4.8%の減で、輸出額増加率は為替レートの減価率に及ばない10.1%となった。昨年6月以降続いている輸出数量の減少が、止まっていないわけだ。したがって、「輸出増が国内生産を増加させる」というプロセスは生じていない。

ただし、鉱工業生産指数は、12年9月をボトムにして徐々に回復してきている。これは、自律的な回復だろう。4月も、この傾向線上で増加した。

5月は、EU、中国だけでなく、対米輸出の数量指数も対前年比8.7%減になったことが注目される。

6月上中旬では、輸出額の尅圜年比が13.4%増なので、輸出数量の減少傾向は続いていると思われる。

円安にもかかわらず輸出量が増えないことを、短期的なものだといケ人もいるが、円安傾向が始まってすでに半年以上たつ。ユーロ諸国の混乱と中国など新興国の停滞が基本的な原因だ。これは、短期的なものではなく、今後かなりの期間にわたって継続する問題と考えられる。

機械受注を見ると、5月の民需(船舶・電力を除く)は、前月比10.5%、前年同月比で12.2%増となった。しかし、増えているのは非製造業である。製造業は4.0%の減だ。つまり、円安で製造業の利益が増加しても、設備投資に結びつかないわけである。

日銀短観(4~6月期)によれば、製造業の中小企業での設備投資意欲が高まっているように見えるが、これは、本格的な設備増強投資ではなく、先延ばしにしてきた更新投資であろうとみられている。

安倍内閣は、投資減税などの法人税減税を行い、これにより設備投資の増加を図りたいとしている。しかし、製造業の海外移転が既定路線になってしまっているいま、減税によって国内の設備投資を促進することは、極めて難しい。

景況感はまさに「まだら模様」だ。4~6月期の日銀短観では、製造業大企業の景況感DIはプラスに転じたが、中小企業のDIはマイナス14だった。これは、円安による利益増を実現しているのが大企業だけであることを示している。また、「業況がよい」との回答は15%しかないこと、残り85%は、「さほどよくない」「悪い」という回答であったことに注意が必要だ。

日銀は、7月の地域経済報告(さくらリポート)で全9地域中8地域の景気判断を上方修正した。しかし、公共投資増加の影響も大きく、賃金の増加が本格的な回復に必要との見方が示された。

内閣府が発表した5月の景気動向指数は、一致指数が前月比0.8ポイント上昇して105.9となり、6ヵ月連続で改善した。しかし、内閣府が発表した6月の景気ウォッチャー調査では、景気の現状判断DIが53.0で、前月比2.7ポイント低下し、3ヵ月連続の低下となった。企業動向関連、雇用関連、家計動向関連すべてが低下した。

設備投資、賃金などは、期待に影響される。しかし、これらを増やすほどの確実な期待変化を政府はつくり出すことができていない。「大胆な金融緩和」というようなムードだけでは不十分で、信頼できる見通しが必要なことを示している。ムードは、一本調子の株価上昇が終了したことですでに崩壊している。地に足の着いた政策、経済の実態に踏み込んだ政策が必要だ。

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