成長戦略に欠けている流通業の構造改革政策

政府が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」に欠けているのは、産業構造の方向づけだ。縮小する製造業に代わって日本産業の中心となる産業をどうするのか、という視点がない。成長戦略は、依然として製造業を中心とする発想から脱却していない。

製造業の縮小を必然として認め、それに代わる新しい産業を考えることが必要だ。その際中心となるのは、流通業などを含む広義のサービス産業だ。

成長戦略には、薬のインターネット販売自由化が唐突に出てくる。それは確かに重要な問題だろうが、孤立した話として終わっている。単発的な取り上げ方でなく、もっと広く、流通業全般の構造改革の問題として捉えるべきだ。

まず、経済全体の中でのウエイトを見ておこう。GDP(国内総生産)での付加価値の比重を見ると、2011年において、製造業が18.5%であるのに対して、卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、運輸業、情報通信業、サービス業の合計(以下「広義のサービス業」と呼ぶ)は60.7%だ。つまり、広義のサービス業は、GDPの過半を占める。卸売・小売業は14.2%である。

他方、就業者の比率で見ると、製造業が16.3%、広義のサービス業が60.2%だ。卸売・小売業は16.4%である。

付加価値と就業者の比率が、広義のサービス業はほぼ同じであり、製造業は付加価値のほうが高く、卸売・小売業は付加価値のほうが低い。相対的に見ると、製造業の生産性が高く、卸売・小売業が低いわけだ。

したがって、製造業が縮小すれば、経済全体の生産性は低下し、所得も低下する。製造業を縮小させつつ経済全体の所得を高めるには、流通分野の生産性向上が必要だ。

日本のサービス産業は、国際競争力も低い。国際収支のサービス収支は恒常的に赤字だ。貿易収支が赤字化したいま、国際収支の観点からもサービス産業の生産性向上が求められる。

なお、農業林業は付加価値のウエイトでは1.2%であり、就業者のウエイトは3.8%だ。つまり、他分野に比べて生産性が極めて低い。成長戦略は「農業の6次産業化を目指す」としているが、それは、現在存在する農業とはまったく異質のものと考えざるを得ない。仮にそれが実現するとしても、規模の点から見て、経済全体に対する影響は限界的なものだろう。

いま再び必要とされる条件変化への対応

1960年ごろ、林周二『流通革命』(中公新書)がベストセラーとなった。ここで紹介されたスーパーマーケットをはじめとした大型商業店舗が、60年代後半から日本でも成長した。これに対して、地元商店街からは、反対運動が生じた。また、日本独特の形態とも言えるコンビエエンスストアも誕生した。経済全体が成長し、人口の都市化が進む中で、小売業の形態も大きく変化したわけだ。

いま、60年代と同じように大きな条件変化が起きている。これに対応する構造変化が必要だ。大きな条件変化として、次の2点が挙げられる。

第1は、人口構造の変化だ。高齢化によって、買い物難民などの問題がすでに生じている。また、買い物の内容が変化する。それは、「消費の成熟化」と言える現象だ。若年者とは違って、ニーズが多様化する。人と違うものを求めるようになり、自分の欲しいものなら、出費を厭わない。こうした変化にいかに対応できるかが重要だ。個性的な店が人気を集める一方で、伝統的な百貨店は、このような消費構造の変化に対応できず、業績が低下する。

第2は、IT革命だ。90年代以降、情報通信分野で大きな技術革新が起きた。アメリカで登場した、アマソン・ドット・コム、eBay、Yahoo!などは、それまで存在しなかったまったく新しいビジネスモデル(eコマース)を確立した。これは、「ロングテール」と言われる需要への対応も可能とした。

IT革命がもたらしたものは、eコマースだけではない。顧客情報や販売データの効率的な管理・分析が可能となり、計画的な商品発注や効率的な店舗運営が可能になった。これによって既存の流通業の生産性が向上した。消費者の潜在二Iズの把握は、流通業にとって今後さらに重要な課題となるだろう。

90年代のアメリカで産業の競争力が回復し、経済の大発展が起きたのは、ITを活用する経営手法によって生産性が向上したことの影響が大きい。流通業も、大規模なIT投資を行って近代化を推し進め、アメリカ経済の成長を牽引する重要な一因となった。

最近では、クラウドの利用によって、可能性が広かっている。

クラウドのシステムは、従来のコンピュータシステムよりコストが安く、専門的な知識なしでも利用することができる。これは、小規模事業者が多い流通業では重要な技術だ。

スーパーマーケットを中心とする60年代の「流通革命」は、大規模化、省力化によって生産性を高めたのだが、90年代からのIT革命は、それとは別の方同での生産性向上を可能としたわけだ。

規制緩和が重要な意味を持つ流通業

先に見たように、卸売・小売業の生産性は低い。この原因は、個人営業的な伝統的な小売りが多いことだ。それを保護するための規制も多い。

流通分野は「暗黒大陸」と呼ばれてきたが、そう言わざるを得ない状況は、いまでも残っている。公的な規制だけでなく、業界の慣行もある。これらが、新しい技術の採用や新しいビジネスモデルの導入を阻害し、低生産性が続く大きな原因になっている。したがって、規制緩和を言うのであれば、真っ先に検討すべきは、この分野だ。

大規模小売店舗立地法(大店立地法)は、それま’での大店法に代わって、2000年6月にまちづくり3法の一部として作られた。こうした規制の是非が論じられるべきだ。しかし、参議院選挙を前に、この分野の規制緩和には踏み込めなかった。地元商店街を中心とする伝統的な流通業は、どの政党にとっても重要な支持基盤だからである。

大胆な規制改革等を実行するための突破口として、「日本再興戦略」は「国家戦略特区」を創設することとした。しかし、流通は地域を限定できない。全国津々浦々の問題だ。特区は、中国が工業化に当たって採用した手法であり、特定地域で規制を緩和して、新しいタイプの製造業の発展を図るものだ。

これは、製造業だから可能な方法だ。しかし、流通は特区の手法になじまない。実際、地域を限定した特区は、すでに空港の免税店という形で存在している。しかし、それが国全体の流通に影響を与えることはできない。

ところで、伝統的流通業、スーパーマーケットやスーパーストアなどの大規模店舗、そしてeコマースは、必ずしも競合関係にあるわけではない。この3者の共存共栄は可能だ。とりわけ、既存商店街との共存は可能だ。ただし、そのためには、伝統的な姿のままでよいわけではない。新しい需要(特に成熟型需要)に対応し、ITによって効率化を図ることが必要だ。規制によって伝統的形態を保護するのでなく、規制緩和による競争状態の中で新しい共存関係を積極的に探っていくべきだろう。

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