デカップルしたのは米ハイテク企業

先日発表されたグーグルの2008年1~3月期の決算で、純利益は13億1000万ドルとなり、前年同期の10億ドルから31%の上昇を示した。アップルの純利益も35.7%増の10億4500万ドルとなり、売上高、純利益とも動機の過去最高を更新した。インテルの同四半期純利益は12%の減となったものの、08年の利益率目標を維持した。このように、アメリカのIT関連ハイテク企業の業績はきわめて良好である。サブプライムローン問題など、別世界の出来事のようだ。

言うまでもなく、アメリカ経済の景気後退はまぎれもない事実である。1~3月期の実質GDPの成長率は年率換算で前期比0.6%となったが、2四半期連続で1%を下回ったのは、1991年以来17年ぶりのことだ。

アメリカ企業の業績も全体では悪化しており、主要500社の1~3月期純利益は、前年同期比で15%の減だ。雇用も4カ月連続で減少している。しかもカリフォルニアは、今回の金融混乱の原因となった住宅ブームの中心地の1つだった。こうしたことを考えると、右の企業(いずれもカリフォルニアのシリコンバレーに本社がある)の好業績は、じつに意外に見える。

それだけではない。グーグルは広告業であるが、一般的に言えば広告業の収入は景気動向に敏感なはずだ。事実、グーグルの収益は落ち込むとの予測が多かったのである。株価暴落の危機もあるとさえ言われていた。アップルやインテルの製品も景気にはむしろ敏感なはずだ。こう考えると、右の事実はさらに意外である。

しばらく前に、「デカップリング(非連動性)」の可能性が言われた。アメリカが景気後退に見舞われても、中国等の新興諸国や欧州の成長に支えられて、世界経済の拡大が継続するという考えだ。この意味のデカップリングは実現しなかった。しかし、別の意味のデカップリングが実際に生じているわけだ。

切り離されたのは、中国やインドではなく、アメリカのハイテク企業である。「アメリカが落ち込んでも世界は成長する」というものがデカップリング論だが、現実に生じたのは「アメリカ全体がマクロ指標で落ち込んでも、一部のハイテク企業は成長する」ということだ。

「かつての力は失われ、アメリカは衰退する。したがって、アメリカ中心の世界は終焉した」という議論がよく聞かれる。しかし、実際には、そうはならなかったのである。

危機に直面しているのはむしろ日本

90年代後半に、「ニューエコノミー」の概念が提唱され、先進国経済は景気循環から自由になったと言われた。実際にはそうはならず、ITバブルの崩壊があった。ワールドコムが破綻し、膨大な光回線の設備が残された。しかし、それは不良設備になるのではなく、海外へのアウトソーシングに使われて、新しい経済を開いた。

今回も似たようなことが生じているようだ。それは、シリコンバレーのハイテク企業に限定されたものではない。金融でも、シティやメリルリンチが大きな損失を被る一方で、ゴールドマン・サックスはサブプライムローン関連金融商品の取引で、年間40億ドル近い巨額の利益を上げた。06年12月~07年11月の通気純利益は、前期比22%増の115億9900万ドルで、過去最高益となった。

アメリカ経済のこのような構造は、株価の推移にも表れている。ダウ平均株価の推移を見ると、3月初めのボトムから上昇し、3月下旬には今年初めの水準を回復した。そして、現在では若干上回っている(4月末の水準は1月初めより3.6%高い)。07年の初めに比べると、5.3%高い水準になっているのである。「大恐慌以来の金融危機」と言われた割には、株価への影響はさほどのものではなかったわけだ。

この状況は、日本と対照的である。日経平均株価が3月中旬から回復したことはダウ平均と同じだが、4月末のレベルは今年初めより若干低い。そして、07年初めに比べると18%ほど低くなっている。

アメリカの金融危機は山を越えたとの見方が多い。したがって、株価が今後大きく下落するとは考えにくい。それに対して、日本企業の業績悪化は、むしろこれから顕在化する可能性がある。なぜなら、ここ数年の好業績をもたらした異常な円安が復活するとは考えられないからだ。

それに加え、原料高や原油価格上昇の影響は、製造業の比率が高い日本のほうが深刻だろう。この連載でこれまで繰り返し述べたことだが、今深刻な問題に直面しているのは、アメリカ経済というよりはむしろ日本経済なのである。

インテルの業績とその見通しが、3月半ばからのアメリカ株価上昇だけでなく日経平均株価にも寄与したと報道されている。しかし、インテルは日本経済とは「デカップル」されていることに注意する必要がある。

皆と同じ動きをしないことにチャンスがある

20世紀型の経済活動では、すべての産業・企業が多かれ少なかれ同じ動きを示す。しかし、右で述べたことは、アメリカ経済には経済全体とは独自に動きうる産業・企業が現れたことを示している。

古典的な景気循環論が挑戦を受けるとすれば、むしろこの点であろう。すべての産業・企業が景気循環によって同じように動くのではなく、一部の企業はそれとは別の動きをする。不況を利用して発展する企業すらある。アメリカ経済はこのような段階に入ったと見るべきだ。

今回のアメリカ金融危機は日本のバブル崩壊と同じだという人がいる。しかし、現時点までの推移を見ても、まったく違うことがわかる。中央銀行が果敢に対応したのが危機回避に貢献していると言われるのだが、最大の違いは経済全体の構造である。

日本は、20世紀型の景気循環から逃れられない。今回は、それが典型的なかたちで表れている。日本は古い産業構造を維持したままで、異常な円安政策を実施し、輸出を増やした。それによって企業収益を増加させ、景気回復を図ってきた。しかし、このような20世紀型の景気政策の効果は長続きしなかった。

産業や企業が20世紀型のままであるだけではない。日本では、社会全体が同質だ。20世紀型の経済活動では、全員が組織人としての活動を要求され、軍隊のように動くことが要請されるから、同質性が強みだった。しかし、21世紀型の技術を前提にすると、それが最大の弱点になってしまっている。

もちろん、日本にも好成績を上げている企業がある。コマツや任天堂がその例だ。しかし、残念ながら、日本経済全体から見れば例外的でしかない。

先に見たゴールドマン・サックスの巨額の利益は教訓的だ。「どんな局面でも、激動はチャンスに転化しうる」と教えてくれるからだ。ただし、危機をチャンスに転化するためには、2つの条件がある。第一は、皆と同じことはしないこと(むしろ、必要に応じて逆方向に動くこと)。第二に、リスクの存在を認識し、それを評価することだ。

「みんなと一緒に渡れば怖くない」と考えるか、「みんなと同じことをしていてはチャンスはない」と考えるか。その差は大きい。それが経済パフォーマンスに与える影響は、ますます顕著になる。

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デカップルしたのは米ハイテク企業” への1件のコメント

  1. 初めて、コメント差し上げます。いつも、楽しく読ませていただいています。今回の、サブプライム問題が日本のバブル崩壊とは、異なるとのこと。ゴールドマンサックスなど、金融機関にも多額の利益をあげた企業があるとのこと。
    これは、日本では、もし同様にバブル崩壊時、多額の利益をあげた企業があった場合は、むしろ批判の対象となるのでは、ないでしょうか?
    実際、株価下落に際し、空売りで利益をあげた企業、投資家などは、悪者扱いされたと、記憶しておりますし、空売り防止策など、次々とうちだされました。
    また、アメリカの金融危機は山を越えたと見られているとのことですが、公的資金を幾らつぎ込もうと、住宅価格の下落が止まらない限り、危機は拡大していくのでは、ないでしょうか?
    とは言え、皆と同じことをしないことにチャンスがあるとのご指摘には、まったく同感です。
    これからも、ためになる情報の発信をよろしくお願いします。

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