円安と株高の原因が投機である理由

昨年の秋以降に円安と株高が生じた。

しかし、前回述べたように、これは実体経済の変化によって生じたものではなく、投機によって生じたものとしか考えられない。その理由は、次の通りである。

仮に日本の成長可能性に対する期待が高まったのであれば、海外から日本に資金が流入して株式に投資される。この場合には、株価は上昇するが、円高になるはずだ。

他方、日本が金融緩和を行うとの予想が国際的な資金移動に影響したのであれば、資金が日本から流出する。この場合には、円安になるが、海外から日本株への投資が増えることはない。

このように、国際的な資金の自然の流れによっては、円安と株高が同時に進行したことを説明できないのである。

しかし、円安への投機と株高への投機が同時に生じることはあり得る。実際、円安になれば日本の輸出産業の利益が増えるので、それらの企業の株価は上昇するから、円安投機があれば、株高投機は行いやすくなる。

したがって、まず円安投機が起こり、それによって輸出産業の利益が増加すると見込んで株高投機が起こったと考えれば、円安と株高が同時に進行したことを説明できる。

しかも、2013年5月になってから生じた株価の下落は、投機の手じまいによる以外には説明ができないほど急激なものだった(5月23日の日経平均株価の下落幅1143円は、東日本大震災直後やリーマンショック後の暴落を超えるものだった)。経済の実体的要因のみによっては、このような急激な下落は生じにくい。

この下落を契機に、昨年秋からの一本調子の株価上昇は終わった。しかし、これでバブルが崩壊したとは限らない。円安と株高のバブルが再燃する可能性は、十分ある。特に、アメリカの金融政策との関係で、大いにあり得ることだ。

アメリカの金融緩和策終了は、一般に円高、株安要因と考えられている。しかし、これは、日米金利差の拡大を意味し、したがって、為替レートは円安になるはずだ。そうなれば、株価は再び上昇する。

一度挫折したバブルを再燃させるのは、一般には難しい。特に問題は、仮に円安・株高が進行するにしても、それが永続するものではないと認識されてしまったことだ。

しかし、日本が円安・株高バブルを歓迎する体質を持っていることに変わりはない。投機者は、昨年秋からの経験を通じて、多くを学んだに違いない。

日本の大企業は輸出に依存している場合が多いので、円安になれば、利益が高い伸び率を示す。だから、簡単に株高が進む。したがって、日本ではかなり容易にバブルを起こし得、投機から多額の利益を得ることができることがわかった。そして、円安によって原材料費が上昇し電気料金が値上げされても、円安反対が政治的に大きな声にならないこともわかった。## ボラティリティ増大は経済活動を阻害する

前回述べたように、ボラティリティの高まりは、投機に翻弄されている市場の特徴である。

株価のボラティリティが高まっても、経済活動に直接の影響を与えることは少ない。しかし、為替レートや金利はそうではない。

これらは、さまざまの経済活動に直接の影響を与えるので、これらが投機の対象となってボラティリティが高まると、経済活動の阻害要因になる。原因が投機であっても、結果はリアルな経済活動に影響するのである。

輸出産業にとって、ボラティリティの高まりは問題だ。想定為替レートをどう設定するか、国内生産と海外生産のウェイトをどうするか等の問題について、判断しにくくなるからである。食料品産業など内需向けの産業でも、為替レートのボラティリティが高まると、原材料コストの見通しがつかないため、販売価格の設定が難しくなる。

金利の変動幅拡大の影響が及ぶ範囲も広い。見通しが不確定だと、投資の決定ができなくなる。また、金融機関や年金積立金などの運用方針が定まらなくなる。

デリバティブは、本来はこうしたリスクをヘッジするための手段である。為替については、為替予約が昔からその役割を果たしてきた。金利の変動に対しても、デリバティブによって対処することが可能だ。

しかし、日本でデリバティブというと、投機のための手段だと思っている人が多い。こうした偏見もあって、日本ではデリバティブが未発達だ。資産価格のボラティリティ増大に対処する手段としての意義が、見直されなければならない。

懸念される日本国債売り投機

資産価格に対する投機にはさまざまなものがあり、さまざまな方向のものがあび得る。円安・株高とは逆方向の投機もあり得る。

現在の日本で最も懸念されるのは、日本国債に対する売り投機だ。

現在の日本国債の利回りは、日本財政の実情から考えると、異常なほど低い。これは、投機によって生じたバブルではなく、ユーロ危機の高まりなどによってリスクを回避した投機資金が安全資産として滞留しているためだ。しかし、実体経済と大きくかけ離れた価格になっていることは疑いなく、その意味ではバブルである。したがって、バブル崩壊による国債価格暴落・金利高騰は、十分にあり得る事態だ。

したがって、将来の金利高騰を狙っての国債売り投機があり得る。ただし、こうした投機は、これまで何度も仕掛けられながら、一度も成功しなかった。

その大きな理由は、これは、上で述べたのとは正反対の投機であることだ。この投機が成功して金利が上昇すれば、円高・株安になる。これは、日本の政策当局が望まない事態だ。こうした事情もあり、また、日本国債の多くが金融機関によって安定的に保有されていることもあり、国債売り投機はことごとく失敗してきたのである。

しかし、いま、条件は大きく変わっている。

見通しが定かでないためにボラティリティが高まった市場で、国債が品薄になっている。これは、投機によって価格を容易に変化させ得る市場だ。

こうしたことになった基本的な原因は、日本銀行の異常な金融政策にある。あまりに巨額の国債買い入れを行うこととしているので、市場での安定的な価格形成が阻害されているのだ。しかも日本銀行は、2年以内に消費者物価上昇率を2%に引き上げるとしている。これは、2年以内に金利をいまより2%以上高い水準にするというメッセージだ。異次元緩和政策がもたらした最大の問題は、国債売り投機の環境を整備してしまったことなのである。

金利が数パーセント上昇した場合、日本経済に与える影響は、株価変動など比較にならないほど甚大だ。金融機関の保有資産の減価が生じるし、国債の利払い負担も増える。後者は、財政状況を急速に悪化させ、国債暴落を加速する。

メガバンクはしばらく前からこうした事態を予測し、保有国債の期限短縮化を図っている。最近では、地方銀行も保有国債を減らして外債投資を増やしていると報道されている。

しかし、財政の負担増には、対応策がない。増え続ける債務残高をかろうじて支えているのは、異常な低金利である。それが崩れれば、日本が崩れてしまう。

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