円安・株高は海外投機家に利益を与えただけ

株価や為替レートが激しく乱高下している。株式市場における株価変動の度合いは、「ボラティリティ」という指標で表される。

東京証券取引所が計算する東証株価指数のボラティリティは、2012年末ごろまでは10%台だったが、13年1月末からは20%程度になり、さらに5月23日の週以降は40%程度にジャンプしている。ここで計算されているボラティリティは、東証株価指数の20日分の騰落率から算出したヒストリカルボラティリティである。ボラティリティとは、株価変化の標準偏差(分散の平方根)のことだ。極めて大ざっぱに言えば、最近の株価の変動幅は、12年末ごろに比べて4倍に拡大したと考えることができるわけだ。

ファイナンス理論において、ボラティリティは資産のリスクの程度を表す指標として用いられる(しばしば「恐怖指数」と呼ばれることがあるが、あまり適当な呼び方とは思えない)。

つまり、日本の株式は、この数カ月でリスクの高いものとなり、5月下旬以降は、さらにリスクが増したわけだ。

なぜこのように不安定性が増したのだろうか? そして、12年秋以来ほぼ一貫して上昇してきた株価が、なぜ13年5月になって変調したのだろうか?

それに対する一つの説明は、前々回にも示唆したように、「5月ごろで利益を確定する予定の投機が11月ごろから行われた」と考えることである。

投機を行う手段としては、先物取引と直物取引がある。これらは、(取引コストの差を無視すれば)本質的に同一のものである。

為替レートに関して言えば、円安投機を先物で行う場合には、11月時点で円売り、ドル買いの先物契約を結ぶ。これにより先物レートが円安になるが、それだけでなく、先物と直物の間で裁定が働いて直物レートが円安になる。そして、5月になって投機が手じまわれるときに、ドル売り、円買いの直物取引が行われて、急激に円高になる。

直物取引で投機が行われる場合には、11月時点で円売り、ドル買いの直物取引が行われて、直物レートが円安になる。そして、5月になって投機が手じまわれるときに、ドル売り、円買いの直物取引が行われて、急激に円高になる。株式の場合も、同様だ。

こう考えると、12年秋から円安と株高が生じ、13年5月で傾向が反転したという現実の価格の動向が説明できる。

金融緩和は投機を誘発する

ただし、データによって投機の存在を確認することは、難しい。

先物残高の存在が投機の証拠だと言われるが、投機は右に見たように、直物の為替や現物の株でもできる。だから、先物残高が少ないからといって投機がないとは言えない。また、先物の本来の機能は価格変動に対するヘッジである。外国為替の場合は特にそうだ。だから、先物取引が増えたからといって、必ずしも、投機が増えたとは言えない。

さらに、先物で投機が行われても直物で行われても、資金の流れやレートの推移は全く同一だ。したがって、投機が行われているかどうかは、傍証によって推測するしかないのである。

投機が存在した一つの傍証は、最初に述べた株価のボラティリティ増大だ。仮に、株価の上昇が、企業や経済の実体的要因の変化によって生じたのであれば、このようなボラティリティ増大は起こりにくい。

円安投機で株価が上昇したのだとすると、次の二つの理由でボラティリティが高くなる。

第1の理由は、輸出による利益の為替レート感応度は、極めて高いことだ。輸出から生じる利益は、円安によって大きく変動する。したがって、株価のボラティリティも高くなる。

第2の理由は、投機は期待に基づいており、そして、期待は小さなきっかけによっても急激に変化することである。

投機の存在が推測される第2の傍証は、金融緩和が行われたことだ。一般に、金利が下がると投機しやすくなるのである。

為替レートについて言えば、将来のレートの予想が、先物価格+リスクプレミアムより円安であれば、円安投機をする。

ところで、金利平価式によって、直物レートが所与のとき、日米金利差の絶対値が大きくなるほど、先物価格は円高になる。こうなるのは、日本の金利が低下するとき、あるいは、アメリカの金利が上昇するときである。したがって、日本の金利が下がるほど、投機の可能性は広がるわけだ。

安倍内閣は、金融緩和を行うことによって(あるいは、金融緩和を行うと宣言したことによって)、投機を誘発したことになる。

それだけではない。円安・株高投機を誘発するメッセージを発していた。

それは、「期待が好転すると、現実の経済活動が好転する」というメッセージだ。「円安・株高が望ましい」というメッセージが公式に発せられたものではないが、そうした意味合いが含意されていたことは明らかだ。

少なくとも、円安が輸入価格を引き上げて産業活動や国民生活を圧迫することに対する懸念は、表明されなかった。

また、6月7日には、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、国内債券の割合を減らし、株式の割合を高めると発表した。これも、政府が株高を望んでいることを示す一つの傍証だ(比率の見直しは、官邸の圧力によるものではないと公式には説明されているが、株価が下落し始めた時点になって発表されたことからも、株価支持が目的であった疑いは晴れない)。

円安・株高依存政策からの脱却を図るべきだ

「期待が経済を動かす」というメッセージは、確かに円安・株高投機を誘発した。そして、実際に円安と株高を実現した。

問題は、それが実体経済を動かさなかったことである。設備投資も、賃金も動かさなかった。

その意味で、「虚」の世界に限定された変化を引き起こしただけだった。期待で実体経済を動かそうとしても、機能しないことが明らかになった。

しかも、株価や為替レートの世界に限っても、投機によって動いただけだったので、簡単に崩壊してしまった。それが「虚」の世界だけのものであることを人々は知ってしまったので、今後仮に再び円安・株高が生じたとしても、実体経済を動かすことはできないだろう。

ここで述べた解釈(投機によって円安と株高が進行した)が正しいとすると、それは、結局のところ、外国のファンドに利益を与えただけの結果に終わってしまったことになる。

それだけでない。投機はゼロサムゲームであるから。一方で利益を得た人がいれば、他方では必ず損をした人がいる。損をしたのは、為替が円安になり、株価が上昇してから投機に参加した人だ。それが誰であるかはわからない。ただし、日本国内の投資家である可能性は高い。そうであれば、日本人が損をする半面で外国のファンドが利益を得たことになる。

いま本当に必要なことは、実体経済を変える地道な努力を続けることである。金融政策については、金融緩和が常に投機を誘引することを注意し、投機をおびき寄せないように注意することだ。

前回の最後にも強調したように、いまこそ、虚から実への転換が必要である。

Comments

comments

Powered by Facebook Comments