トヨタ増益の主因は円安でなくエコカー

トヨタ自動車の2013年3月期の連結決算で、営業利益が前期比3.7倍の1兆3208億円となった。「これは円安のためである」と解説している報道が多い。しかし、円安は営業利益増加の主因ではない。

これは、トヨタ自身が述べていることである。すなわち、同社決算短信の中で、営業利益増加額9652億円のうち、「為替変動の影響による利益増」は、1500億円(増益総額の15.5%)でしかないとしている。大きな要因として挙げられているのは、「営業面の努力」(6500億円の増)と「原価改善」(4500億円の増)だ。

円安が利益増の主要因でないことは、営業利益の四半期別の推移を見てもわかる。すなわち、第1四半期(12年4~6月)および第2四半期(12年7~9月)の営業利益は、それぞれ3531億円と3406億円だった。

これは、東日本大震災とタイ洪水で受けた損傷からの回復と、エコカー補助金による。この水準の営業利益が続けば、それだけで年間1兆3000億円を超える営業利益が達成できたはずなのである。

ところが、営業利益は、第3四半期には1247億円へと大きく減少した。これは、エコカー補助金が12年9月で終了したためと考えられる。第1、2四半期と比べると、四半期ベースで2200億円程度落ち込んでいる。これを逆に言えば、エコカー補助金によって4400億円ほどの増益があったと解釈することができる。これは円安による効果の3倍近い。

第4四半期では、営業利益は再び増加して、5023億円になった。この主たる要因は、円表示の輸出売り上げが円安で増えたことと、海外における販売の増加によると考えられる。

円安が営業利益に与える影響は減少している

輸出売り上げに対する円安の効果は、次のように推計できる。台数で見ると。13年3月期では、トヨタの国内販売161万台、海外販売707万台に対して、輸出は192万台と、全体の18.1%だ。総売上高22兆円を台数比で配分すれば、輸出売上高は4兆円、四半期ベースで見ればL兆円だ。他方、円ドルレートは、12年10~12月の平均値1ドル=81.2円から、13年1~3月平均の92.3円まで13.7%円安になった。輸出数量が不変とすれば、これによって円建ての手取り額は1370億円増加したはずである。

次に、海外販売分に対する円安効果を推計しよう。13年3月期の営業利益1.3兆円のうち、海外販売によるものは、台数比(66.7%)で配分計算して、8670億円であるとしよう。四半期当たりでは2168億円だ。これが円安率13.7%だけ増加すると、増加額は297億円となる。これと前述の1370億円を合計すると、1667億円となる。これは、トヨタの言う数字(1500億円)とほぼ照合する。

では、円安が将来も続くとどうなるか。トヨタは、為替レー卜が13年3月期の1ドル=83円から14年3月期の90円になることを前提として、「14年3月期における為替変動による増収は4000億円」としている。

このことは、次のように確認できる。想定されている円安率は8.43%であるから、輸出台数が13年3月期と変わらないとして輸出額4兆円か8.43%だけ増加するとすれば、輸出売上高の増加額は3372億円になる。

次に、海外販売分に対する円安効果は、8670億円か8.43%増加するとすれば、増加額は731億円だ。これと輸出の3372億円との合計は4103億円となり、トヨタの言う数字とほぼ照合する。

以上の計算から、次のことがわかる。第1に、円安は輸出からの利益と海外販売からの利益の両方を増加させるが、前者が圧倒的に大きい。なぜなら、前者は、輸出額に円安率を掛けたものだが、後者は利益額に円安率を掛けたものだからだ。そして、営業利益は売上高の6%程度の小さな値だ。したがって、輸出額が海外販売の27%程度であっても、円安による海外販売の利益増加額は、輸出のそれの2割程度の額にしかならないのだ。

第2に、円安が増益に与える影響が一般的な印象ほど大きくないのは、輸出の比重が低下しているからである。いま述べたように円安の増益効果が著しいのは輸出なのだが、先に見たように、輸出は台数で見て全体の18%程度の比重でしかなくなっているのである。

トヨタは、他の大手メーカーに比べると海外生産の比率が低い。それでもこうなのだから、ホンダや日産自動車など海外生産比率が高いメーカーでは、円安の増益効果はさらに低まっている(事実、日産の13年3月期の営業利益は、前年比で減少した)。

円安は輸出を増やしていない

輸出量が増えず輸出売り上げの円建て額が増えるだけでは、国全体から見れば、移転にすぎない。国内の生産、雇用、部品発注が増えるためには、輸出量が増えなければならない。

では、円安によって輸出台数は増えているか?

データを見ると、そうした効果は認められない。円高期であった12年4~6月期におけるトヨタの乗用車輸出台数は47万台を超えていたが、円安になった13年1~3月期の輸出台数は43万台弱であり、1割強減少している。

もう少し期間を広げて見てもそうである。11年10月から12年6月までは円高期であったが、この期間の四半期当たり輸出台数は45万台を超えており、13年1~3月期よぴ多い。日本の全メーカーの輸出台数を見ても、11年10~12月期をピークとして、ほぼ傾向的に減少している。12年度第4四半期の輸出台数は、第3四半期より減っているのだ。

リーマンショック前と比べるとどうか。トヨタの輸出台数は、07年10月から08年6月までは、四半期当たり60万台を超えていた。リーマンショック後は、東日本大震災による変動をならして見れば、リーマンショック前の7割程度に減った。そして、12年11月以降の円安にもかかわらず、この傾向に大きな変化は生じていないのである。リーマンショック前に輸出台数が増えたのは、アメリカ住宅バブルによるものだ。これはもう再現しない。

日本の自動車輸出が将来増えるとすれば、それは円安によってではなく、世界経済が回復して海外の自動車需要が増えることによってである。

しかし、それへの対応は、国内生産と輸出という形ではなく、海外生産の増加という形で行われるだろう。トヨタ単独の海外生産比率は、合数ペースで60.7%だ。日本メーカー全体で見ると、11年の生産台数2178万台のうち、国内が840万台、海外が1338万台だ。

こうした事実を見て容易に想像されるように、自動車メーカーが、今後日本で設備投資を行ったり雇用を増やしたりすることはないだろう。円安の進行は、このトレントを変えないはずである。

それだけではない。海外子会社は、今後「関東軍化」していくだろう。すなわち、独立化し、さまざまな決定を独自に行い、現地生産で生じた利益を現地での再投資に向けて、日本に送ることを拒否するようになるだろう。つまり、成長による利益は、日本に還流しないことになるだろう。それこそが、真のグローバル企業が進む道である。

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