無謀な金融緩和で国債リスクが増大

日本銀行の新しい金融緩和政策によって、これまでの日本の金融システムにあった安定性が攪乱された。株高と円安が進んでいるので、「市場は歓迎している」と一般には受け止められている。しかし、その裏で、巨大なリスクが膨らんでいるのだ。

これまでの日本の状況は、次のようなものであった。日本の長期国債の代表銘柄である10年債の場合を考えると、銀行が買って7年間程度保有し、日銀に売る。金利低下(国債の流通価格上昇)が続いていたため、安く買った国債を高く売ることになり、売買益が発生する。金融機関の利益のかなりが、これによる。この状態が健全かどうかは別として、ある種の均衡状態が形成されていたのは事実である。

ところが、今回の措置で国債購入額が拡大され、また購入国債の長期化がなされたため、この均衡が攪乱された。

まず規模の側面を見よう。今回の国債購入計画は、規模が大き過ぎる。年間国債発行額約120兆円の7割程度になる。120兆円は、借換債を含めたグロスの長期債市中発行総額である。ネットで見ると、年間50兆円程度とされているが、これは新規財源債発行額(2013年度は、42兆8510億円)より大きい。金融機関の側からすると、日銀買い入れにすべて応じれば、保有国債残高が減少してしまう。

これは、銀行の利子収入を減少させる。企業の資金需要が盛り上がらないので、企業向け貸し付けは増えない。1980年代中ごろにも、日本の金融機関は、資金運用難に陥った。このときは、不動産投機に手を出し、それが不動産バブルと不良債権の問題をもたらしたのだが、いまは不動産投機にのめり込むことはできないだろう。外債購入も一つの方法だが、全額はできない。そうなると、国債を保有し続ける可能性が高い。つまり、日銀が買うといっても、銀行が売らない可能性があるのだ。そうなると、購入目標は達成できない。

実質的日銀引き受けで財政インフレの危険

これまで残存期間3年以下だった購入対象国債が、今回の措置で長期化されることとなった。これは、意外に多くの問題を含んでいるのである。具体的には、次の通りだ。

第1に、銀行は、これまでのように購入後一定期間保有する必要はなくなり、すぐに売れる。つまり、金融機関が新規発行国債を購入し、右から左へ日銀に売ることができるわけだ。これは、日銀引き受けに限りなく近い形だ。

新発債はすべて日銀が買うのだから、財政赤字を気にする必要はなくなり、支出はいくらでも増やせる。したがって、財政規律がさらに弛緩して、財政破綻が進む。消費税増税をやめようという声さえ聞こえるくらいだ。

その結果、金利が高騰し、金融機関に損失が発生する。日本財政の持続可能性に対する信頼は完全に失われ、国債格付けが大きく引き下げられる可能性がある。

先に、「銀行の利子収入が減少するので保有国債を売らない」と言ったが、それは新規国債発行額が変わらない場合だ。国債の発行を増やせば、この問題はなくなる。しかし、これは、際限のない財政インフレへの道なのである。こうした状況を見越して外国人投資家が国債を売ると、雪崩的な資本逃避が起こる危険がある。これについては、後で再び述べる。

購入国債長期化がもたらす第2の問題は、金融緩和を止められなくなることである。

これまでの方式であれば、日銀は、購入国債を2、3年間保有していれば償還されるので、残高は自然にゼロになる。しかし、長期国債を保有するとなると、そうはいかない。売れば国債価格の暴落を引き起こすから、償還まで長期間保有し続けざるを得ない。

この問に金利高騰があれば、日銀に巨額の損失が発生する。金利高騰によるリスクを日銀が抱え込むことになる。物価上昇率目標は2年間で達成するというが、緩和政策の後遺症は、10年程度の期間にわたって日銀を束縛するわけだ。今回の緩和措置は、出口のない政策である。

これまで述べたのは、金利高騰のリスクだ。仮にこうした事態を回避でき、狙い通りに長期債利回りが順調に下がれば、今後は別の問題が生じる。

それは、生命保険が逆ザヤになってしまうことだ。これが第3の問題である。生保は外債投資などを増加せざるを得なくなる。かつての「ザ・セイホ」の再現になるのかどうかはわからないが、円安を加速するのは事実だ。

このように、金利の高騰と金利の下がり過ぎと、両極端の問題が発生し得るのである。日本の国債市場は、非常に不安定化した。

キャピタルフライトで円安雪崩が起こる危険

日本の国債は、これまで安全な投資対象と見なされていた。金融危機後に日本で金融機関の破綻がなかったことが評価され、セイフヘイブン(安全な港)と見なされていたのだ。その結果、ユーロ危機を逃れた投機資金が日本に避難してきた。日銀の資金循環統計によると、外国人の保有残高は、前年より1割増えて、総残高に占める比率は8.75%になっている。彼らの目的は、運用益でもなく売却益でもなく、一時的な避難先としての安全性だ。

ところが、今回の緩和策で、「日本国債は安全」という認識が変わった。それは、国債市場利回りが乱高下したことに表れている。債券取引者はプロであり、債券市場は日本の将来についてのプロの見方を反映している。株式市場がユーフォリアに酔っているのとは裏腹に、プロは将来の金利に関する不確実性の増大に戸惑っているのだ。

考えてみれば、破滅的な財政状況の国が、かくも低金利で資金調達できるというのは、どう考えてもおかしい。現在、円や株もバブルを起こしているが、国債は最を顕著にバブル状態だ。だから、金利高騰は、大いにあり得る事態なのである。

国際投機資金のセイフヘイブンとしては、アメリカやドイツのほうが、安全であり、収益率も高い。しかも、将来もさらに円安が続くなら、いま日本に投資をすることは、大きな為替リスクを意味する。些細なきっかけで外資が逃げ出すと、イタリアと同じ状況に陥る。いや、もっと深刻だ。イタリアは、ユーロという共通通貨に守られていたから、輸入インフレはなかった。しかし、日本では、円安が進展すると、輸入インフレがもたらされる。

こうした事態が予測されると、外資だけでなく、日本の金融機関や資産家などの国内資金もいっせいに流出する。つまり、キャピタルフライトが生じる危険がある。

「短期的には、日本はセイフヘイブンなので円高になる。しかし、日本経済は衰退しているので、いつかは日本売りで円安になる」とは、これまでも考えられていたことだ。今回の措置でセイフヘイブンの機能が失われると、以上で述べたプロセスで、円安が急速に進んでしまう危険が大きい。期待は、価格を上げるだけでなく、下げるほうにも作用する。バブルは徐々に形成されるが、崩壊は急激に起こるのだ。そうなれば、金融システムだけでなく、日本が壊れる。

今回の金融緩和は、「大胆な」というよりは、「無謀な」ものだ。日本はまさに「異次元の世界」に入ったと言わざるを得ない。

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