いまは歴史的な円安だが輸出は増えない

3月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)では、大企業製造業の業況判断DIがマイナス8となった。ところが、これを伝える新聞の見出しは、「改善」というものであった。

確かに数字は改善した。しかし、依然としてマイナスである。つまり、¬景気がこれから悪化する」と考えている企業のほうが多いのだ。虚心坦懐にこの数字を見れば、「見通しは依然暗い」ということだ。新聞の見出しは、極めてミスリーディングである。

実際、さまざまな数字は、実体経済の悪化を示している。2月の鉱工業生産指数(季節調整値)は89.0となり、1月の89.1より低下した。対前年比では5.7%の下落だ。2月の完全失業率(季節調整値)は4.3%で、前月に比べ0.1ポイント上昇した。

こうした現実をよそに、株価が上昇している。それは、「円安になれば企業の利益が増大する」という期待があるからだ。

しかし、この期待が実現するには、次の三つの条件が必要である。

第1に、円安が継続すること。第2に、輸出が増加すること。そして第3に企業の利益が増加することだ。しかし、実際にはこのいすれも達成が難しい。

第1は、円安が続くかどうかだ。実質実効レートは、半年足らすの間に2割円安になり、歴史的な円安になった。2月末の指数は83.06だが、これは、「超」円安期と考えられていた2007年秋ごろと同じだ。

多くの人は、名目レートだけを見て、「まだ07年ごろより円高だから、さらに円安になる余地がある」と考えている。しかし、そうではないのである。

為替レートの今後を考えるために、経済危機前の実質実効レート指数の推移を見ると、次の通りだ(2010年=100、数字が小さいほど円安)。2000年12月の122.06から01年12月の106.61へと約1割円安になり、さらに03年12月の104.75から07年12月の82.97へと約2割円安になった。

では、今後もこのときのように円安がさらに進むだろうか? それは、難しいと考えられる。なぜなら、当時とは状況が大きく違うからだ。

03年には日本が大規模な為替介入を行った。それに誘発されて、円キャリー取引(円で資金調達して、外貨建て資産で運用する取引)が起きた。内外金利差が大きかったためだ。これによつて、円安が加速された。

ところが、いまの金利差は、円キャリーを正当化するほど大きくない。少し円高に振れれば、金利差が吹き飛んでしまう。それに加え、「ユーロ危機」という大きな円高要因がある。

今後の為替レートは、ユーロ情勢の推移とアメリカの金融政策で決まる。日本はすでに金融緩和をし尽ぐしてしまったので、これ以上円安を進める政策手段がない。

経済危機前の輸出増は円安によるものではない

「円安によって輸出が順調に伸びている」といった解説が多く見られる。しかし、実態はまったく異なる。

輸出は増大していないのである。2月の輸出は、数量では対前年比で15.8%減だ。円安になったため価格指数は上昇したが、数量指数の減少で打ち消されて、輸出金額は2.9%減となった。乗用車も、前々回に詳しく述べたように、輸出数量が13.4%の減少だ。

ところで、「円安下で輸出が伸びないのは短期的な現象」という意見がある。確かに、経済危機前にも、似たことがあった。

01年に約1割円安になったとき、実質輸出は12%減少した。この原因は、ITバブル崩壊だ。アメリカの財輸入は、2000年の1兆2465億ドルから1兆1717億ドルに減少した。

ただし、その後さらに円安が進み、実質輸出は増えた。他方で実質輸入があまり増えなかったので、外需主導経済成長が実現した。実質輸出総額は、03年から07年にかけて5割増えた。最も顕著だったのが自動車だが、それだけでなく、原料別製品(鉄鋼など)、化学製品(プラスチックなど)、機械、電気機器も増加した。

では、このときの輸出増は、円安によるものだろうか? そうではないと考えられる。その証拠を以下に示そう。

ドル建て輸出額を輸出数量指数で除した値の推移を指数で見ると、03年87.7、05年100、07年105.5となっている。つまり、円安に伴って、日本の輸出のドル建て価格は、下落するのでなく、上昇したのだ。

同じことは、輸出価格指数と為替レートを比較しても言える。右の期間において、輸出価格指数は、92.7、100、113.2と推移した。他方、各年6月の円ドルレートは、1ドル=119.7円、110.8円、123.1円であった。指数で示せば、108、100、111だ。つまり、輸出価格指数は、円安に比例する以上に上昇したのである。これは、日本の輸出の現地価格建て価格が上昇したことを示している。

以上からわかるのは、「この期間において日本の輸出が増えたのは、現地価格建ての輸出価格が低下して日本製品の価格競争力が向上したためではない」ということである。

「自動車や電機製品などの最終消費財の末端価格は、簡単には変わらない。だから、為替レートに影響されない」ということは直感的にも納得できる。しかし、右の結果は、荷揚げの段階においても、為替レートが価格に影響しないことを示しているのである。為替レートの変化は、企業の利益が増減することで調整されたと考えられる。

日本の輸出が増えたのは米国の輸入が増えたため

経済危機前に日本の輸出が増えたのは、世界経済の回復のためである。特に、アメリカで住宅バブルが起こり、消費が急拡大したことの影響が大きかった。

アメリカの財輸入は、03年の1兆2893億ドルから05年の1兆7080億ドルへ、さらに07年の2兆0007億ドルへと急激に増えた。07年を03年と比べれば、実に55.2%増だ。

日本の財輸出は、同期間に4699億ドルから5982億ドルに、さらに7127億ドルになった。07年は03年の51.7%増だ。これは、アメリカの伸び率より低い。

つまり、日本の輸出が増えたのは、アメリカが輸入を急激に伸ばしたことの影響が大きかったのだ。実際、アメリカの財輸入に占める日本の比率は、この間に低下している(03年の9.4%から05年の8.9%に。さらに、07年の7.5%に)。

自動車の輸出が増えたのも、円安で日本車の競争力が上昇したことより、アメリカの自動車購入そのものの増加による。

今後についても、同じことが言えるだろう。輸出が増えるためには、世界経済の回復が必須の条件である。

では、輸出が増えれば、利益が増えるだろうか? これについても、03年当時と条件が大きく違っていることに注意が必要だ。このころは製造業の利益率は高かった。しかし、いま利益率は低下した。自動車産業や電機産業の利益が増加しないことを前回述べた。鉄鋼や石油化学では、円安で原材料費が上がるという問題がある。だから、仮に輸出額が増えて企業の売り上げが増えても、利益は増加しない。

日本の産業は内需産業中心になったのだ。そして、これらの産業の利益は円安で減る。「円安なら株高」という株式市場の判断は間違っている。

Comments

comments

Powered by Facebook Comments