賞与増額の効果は無視できるほど小

今年の春闘で、自動車や電機などの大手メーカーの年間一時金(ボーナス)の増額回答が相次いだことが、大きく報道された。これがきっかけとなって、所得増と消費増の好循環が生じるとの見方もある。本当にそうなるのだろうか?

それを判断するには、ボーナス増額が経済に与える影響を、大きさと持続性の両面から正確に把握する必要がある。

まず大きさを見よう。増額の状況は、業種別・企業別にかなりの差がある。前年比で見ると、自動車業界では、トヨタ自動車が約15%増。日産自動車が3.9%増、ホンダが19%増となっている。電機業界は、日立製作所は1.5%増だが、三菱電機は8.7%減だ。パナソニックは、2013年度の賞与を2割カットする方針だ。

連合が発表した春闘の1回目の回答集計によると、正社員では、大手中心の402組合の引き上げ額は、昨年同時期より156円の減となった。

総じて言えば、ボーナスの大幅引き上げは、ほぼ大手自動車関連企業に限定された現象と考えてよいだろう。そこで、全体としての影響の大きさの見当をつけるため、次のような計算を行ってみよう。

法人企業統計によれば、自動車関連の資本金10億円以上の企業の12年の従業員賞与は、9273億円だ。仮にこれが5%増加すると、464億円増になる。

これは、12年のGDP(国内総生産)476兆円の0.01%弱であり、民間最終家計消費290兆円の0.016%だ。これは、ほとんど無視し得る大きさである。「誤差の範囲だ」と言ってもよい。12年度補正予算における緊急経済対策の事業規模約20兆円に比べると、1000分の2程度でしかない。

仮にボーナス増額分か全額支出されても、GDPにはほとんど影響がない。乗数効果を考えてもそうだ。実際には、後で述べる理由によって相当部分が貯蓄される可能性が強く、そうなれば、効果はもっと小さい。だから、ショーウィンドウ的な効果しかない。

なお、東証1部上場企業の資本金は200億円以上、2部上場企業の資本金は20億円以上が普通であることを考えても、「資本金10億円以上の企業」とは、かなり広範囲のものだ。だから、「これらの企業のすべてがボーナスを5%増額する」との想定は、過大である可能性が強い。

以上の結果は、「それほど広範囲の企業が賃上げしても、効果はこの程度しかない」と読むべきだ。

ボーナス増額は税金が財源今回だけで、今後はない

第2点は、増額が恒久的なものかどうかである。

引き上げの大半は、賞与であって、ベースアップではない。つまり一時的なものだ。状況が悪化すれば、所得は元に戻ってしまう。

なぜ一時的なのか? それは、ボーナス増を可能とした原因と関係がある。自動車の場合、「新興国などの販売拡大や円安進行によって業績が改善している」と報道されている。しかし、前回詳しく述べたように、日本の乗用車輸出は、増えているどころか、台数では尅削年比で減を続けている。

12年における利益の増加は、11年の落ち込みの反動と、9月までのエコカー補助金によるものだ。その証拠に、自動車・同付属品製造業の12年第1、2、3四半期の営業利益は各期4000億円を超えたが、補助金が終了した第4四半期には、2000億円程度と、半分以下に落ち込んでしまった。

つまり、「エコカー補助金に3000億円の税金をつぎ込んだ結果、自動車・同付属品製造業の利益が6000億円以上増え、そのうち500億円弱をボーナスとして従業員に配った」と解釈することができるわけだ。その解釈が正しいなら、今回のボーナス増額の原資は税金だということになる。それだからこそ、安倍内閣からの賃上げ要請を断れなかったのだろう。しかし、同じ手法はもう使えない。

賞与総額は営業利益とほぼ同額なので、賞与水準を今後も維持するには、営業利益の増加が必須の条件である。そうでないと、株主に配るべき利益が減ってしまう。

つまり、雇用者の所得が今後どうなるかは、企業の営業利益の動向に依存しているのである。したがって、「企業の利益が今後増えるかどうか」こそが、最大の問題なのである。

これについては、前回検討した。自動車の場合、エコカー補助金が終わったから、国内販売台数は増えない。そして、国内の販売減を輸出で取り戻すのは、難しい。乗用車輸出の対前年伸び率は、12年8月からマイナスが続いている。円安が顕著になった11月以降もこの傾向が続き、13年2月は14.9%の減少だ。対前年の減少率は、1月には低下したものの、2月で再び拡大した。

だから、今回のボーナス増額は、1回限りのものと認識されているだろう。よって、貯蓄されて消費されない可能性が高い。

電気機械器具製造業では、12年の4~9月期の営業利益が激減した。その結果、12年の営業利益は4210億円と、11年の8894億円の半分以下、10年の1兆2013億円の3分の1程度になった。これは、地デジ特需の終焉(11年7月でアナログ放送を停波)、エコポイントの終了などによるものだ。

日本電機工業会(JEMA)の大坪文雄会長(パナソニック会長)は、重電機器と白物家電を合わせた13年度の国内電気機器生産が、前年度比1.7%減になるとの見通しを発表した。

為替レートも輸出の動向も日本の政策では動かせない

「円安で輸出が増えている」と考えている人が多い。しかし、前回強調したように、このプロセスはまだ起こっていない。

もちろん、円安によって輸出が将来増えることはあり得る。ただし、そのためには、いくつかの条件が満たされなければならない。

第1に、円安が続く必要がある。為替レー卜は国際間の資金移動に左右されている。イタリアの政治事情やキプロスの事情で為替も株価も大きく動いた。今後も、薄氷の上を歩くような事態が続く。

第2に、外貨建て価格を引き下げる必要がある。それでも、輸出量が増えるかどうかはわからない。ましてや、輸出額はどうなるか、わからない。

このように、将来については、大きな不確実性がある。しかも、これら二つとも、主として外国の事情によって決まることに注意が必要だ。日本の経済政策で変えられることではないのである。

もう一つ重要なのは、外国での販売が増えても、現地生産で対応するだろうことだ。このことは、特に自動車について言える。そうなれば、国内生産が拡大することはない。

ところで、以上で述べたのは、大企業だ。しかし、サラリーマンの約7割が勤めるのは、中小企業だ。その春闘は、これからが本番だ。前回述べたように、中小企業は、営業利益がマイナスになっている業種が多い。とても賃上げの体力はないだろう。それどころか、倒産を回避するのが精いっぱいだろう。

日本の賃金下落は、根の深い問題である。それは、金融政策で対処できる問題ではない。ましてや、かけ声だけで変わるものではない。製造業の縮小は避けられないことなので、生産性の高い新しい産業が成長することが、賃金下落から抜け出すための不可欠の条件である。

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