実体経済から見れば株価は2割程度割高

株価が上昇を続けているが、実体経済面では厳しい状況が続いている。

最大の問題は、輸出数量が伸びないことだ。貿易統計によると、2月上中旬の輸出は、対前年比2.9%の減だ。2月中旬の為替レートは、この1年間に1ドル79.4円から93.4円にほぼ17.6%減価していることを考慮すると、輸出数量は、対前年比20%程度の減になっているはずである。1月には、輸出数量は5.9%の減、価格指数が13.1%の増で輸出額は6.4%の増になった。2月には、事態がそれより悪化しているわけだ。円安にもかかわらず、昨年秋以来の輸出の減に歯止めがかかっていないどころか、悪化している。

株価が上昇しているのは、「円安になれば日本の輸出が増えて国内生産が増える」という期待があるからだ。しかし、その期待は実現していない。

輸出数量の減少を反映して、国内生産も低迷を続けている。1月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比13.1%の減少となった。これは、2005年以降で2番目に大きな落ち込みだ。前年同月比では9.7%の減少だ。また、2月の工作機械の受注は、前年同月比21.5%の減となった。対前年比減は、10ヵ月連続している。

他方で輸入は増加している。2月上中旬の輸入は、尅則年比21.1%の増加だ。この増加率は、為替レートの減価率にほぼ等しい。このため、貿易赤字は空前の規模に達している。

円安は、輸入価格を上昇させる。ガソリン価格の上昇は、企業にとっての大きな負担増だし、生活にも影響する。発電用燃料の輸入増分はほぼ自動的に電気料金に転嫁されるので、この面からも生活が圧迫される。電気料金と原材料価格の上昇は、素材産業には大きなコストアップ要因だ。新日鐵住金は、高炉1基の休止を決定した。住友化学は、エチレンの国内生産から事実上、撤退すると発表した。内需型産業に対しても、電気料金の引き上げが無視し得ぬ影響をもたらす。

貿易赤字の拡大は、総需要を大きく押し下げる。これは、1~3月期のGDP統計にも影響するだろう。

これまで、¬日本産業が問題を抱えるのは、円高のためである」と言われてきた。2割も円安が進んだにもかかわらず、実体経済はなんら改善されていないのだ。日本経済の抱える本当の問題は円高ではないことがこれでわかる。

輸出と輸入の価格弾力性の和が1より大きいと、為替減価により実質貿易収支が改善することが知られている(マーシャル=ラーナしの条件)。そして、短期的にはこの条件が満たされず、為替減価によってかえって貿易収支が悪化する場合があることも知られている。これは、「Jカーブ効果」と言われるものだ。

しかし、いまの日本で生じているのは、Jカーブ効果ではない。貿易相手国(特に中国とEU)の国内事情によって、日本からの輸出数量が減少しているのである。そして、発電用燃料をはじめとする輸入の多くは、価格弾力性が低いため、円安になっても、日本の輸入が減らないのだ。

現在の状況から脱出するためには、輸出先国の状況が改善し、日本からの輸出が増えなければならない。仮にそうしたプロセスが起きれば、国内生産が回復するだろう。しかし、いまのところ、そうしたことが生じる兆候は見えない。

スタグフレーション下で余剰資金がバブルを起こす

国内生産が増えないから、設備投資も増えない。また、中小企業の受注も増えない。雇用情勢も好転しない。賃金も上昇しない。

その半面で、円安が進めば、輸入物価が上昇して、国内の物価上昇率が高まる可能性がある。賃金が上がらないので、実質賃金が低下する。これは、スタグフレーションだ。

他方で、金融はすでに緩和している。したがって、余裕資金が株式市場と不動産市場に流れ込む。こうして、資産市場でのバブルが進行する。金融緩和の本来の目的は投資支出を増やすことなのだが、そうはならず、株価と地価を上昇させるだけの結果に終わる。これは、典型的なバブルだ。

これまでの金融緩和は、マネーストックを増やさなかった。資産価格がバブルを起こしているので、マネーストックが増加する可能性はある。しかし、それは実体経済の回復ではない。

本当は、これ以上の円安の進行を食い止めるべきだ。為替レートも資産価格なので、バブルを起こしている可能性があるからだ。口先介入でもよいから、円安の進行に懸念を表明すべきだ。しかし、誰もそうしたことを言わない。言えば、株価が下落することを知っているからだ。それを裏返せば。いまの株価上昇は、漠然とした期待に支えられているだけのものであることが認識されている証拠だ。

日本は、1980年代の後半にバブルを経験し、90年代には、その後始末のために、多大のコストを払った。そうした経験があるにもかかわらず、教訓はまったく生かされていない。

営業利益はリーマン前から2割程度減少

株価は、リーマンショック前の水準を回復した。しかし、実体経済活動は、その当時の水準には戻っていない。いくつかの指標について、リーマン前と現在を比較すると、次の通りだ。

13年1月の鉱工業生産指数(季節調整済み)は89.7だが、これは、08年8月の103.5に比べて13.3%ほど低い。同期間中に、乗用車の生産指数も、118.4から96.3へと18.7%減少した。輸出は、13年1月には4.8兆円だが、08年1月には6.4兆円、8月には7.1兆円だった。1月を比べると、25.1%も減少している。12年10~12月期の民間設備投資額(年換算)は、08年の約8割の水準だ。

法人企業統計による全産業企業(金融・保険を除く)の08年4~6月期の営業利益は、12.4兆円だった。12年の4~6月期では10.3兆円であり、これより17.3%ほど低い(その後は、7~9月期9.1兆円、10~12月期10.6兆円と推移している)。売り上げは、08年4~6月期には358兆円だった。12年の4~6月期は313兆円であり、これより12.5%低い(7~9月期は316兆円、10~12月期は321兆円)。

このように、日本の経済活動水準は、大ざっぱに言えば、リーマンショック直前に比べて、1割から2割ほど低下している。営業利益は、2割近く減少しているのである。だから、株価も、それに見合っただけ低い水準にならざるを得ない。これは、アメリカ経済との違いだ。アメリカ企業の利益は、金融危機前よりも高い水準になっている。企業の営業利益が株価を決めるとの観点に立てば、そしてリーマンショック前の株価が正しいものと仮定すれば、現在の株価は17%ほど過大評価ということになる。

現在株式に投資をしている人の多くは、短期的な売買益を目的としているのだろう。したがって、企業利益などの実体的要因には興味を持っていないのだろう。せいぜい数ヵ月先、場合によっては数日程度先しか見ていないのかもしれない。

しかし、経済の実態を離れた株価が永遠に続くことはない。どこかで破綻し、損失を被る投資家が出る。バブルが最終段階に近づくと、個人投資家をターゲットとした売り込みが行われるものだ。バブルが崩壊するときにババをつかまされるのは、個人投資家である。今度も同じことが繰り返されるのだろう。

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