大震災後、円安は収益悪化要因に

円安は、素材型産業の収益を悪化させる。前回は、このことを個別企業について見た。この結論は、マクロ的にも確かめることができる。以下では、素材型産業の輸出額と、その産業が原料等で輸入している額の比較を行うことによって、円安の収益悪化効果を示すこととしよう。

まず、輸出を機械(一般機械、電気機械、輸送機械)とそれ以外(鉄鋼などの原材料製品、化学製品など)に分ける。ここで問題としたいのは、後者だ。これを以下では「素材型産業」と呼ぶことにする。この部門の輸出額は、2012年で24兆5093億円だ。

総輸出中の素材型産業の比率は、長らく30%程度であったが、経済危機後上昇し、09年以降は40%に近づいている。われわれは、日本の輸出の中心は自動車などの組み立て型産業だと思いがちだが、実際には逆になっている。そうなる原因は、第1には、自動車と電気機械の輸出が減少したことだ。第2は、組み立て型産業が安い賃金を求めて海外に移転したことだろう(それも輸出減少の原因である)。このように、輸出における素材型産業の比重は高まっているので、その動向を考えるのは重要だ。

これらの生産に使われている輸入はどの程度あるだろうか。まず、貿易統計における輸入品目中、原料品(鉄鉱石、非鉄金属鉱など)、化学製品、原材料製品(鉄鋼、非鉄金属など)は、それに該当する。鉱物性燃料のうち、原油とLNG(液化天然ガス)以外もそうであると考えられる。原油とLNGについては、すべてが発電に使用されると考えることにしよう。素材型産業から見れば、「電気代」という形でコストになるわけだ(自家発電される電力も含めて)。

では、電力のうち、素材型産業の利用はどの程度だろうか? 10年度について見ると、食料品、繊維、紙・パルプ、化学、石油・石炭製品、ゴム製品、窯業・土石、鉄鋼、非鉄金属による電力使用は、2328億キロワット時である(自家発電を含む)。これは、総電力使用量1兆0564億キロワット時(自家発電を含む)の22%だ。そこで、原油とLNGの22%が、電力という形で素材型産業によって使われると考える。

以上を合計したもの(以下「素材型産業輸入額」と呼ぶこととする)は、12年で26兆0568億円だ。

大震災で、円安の収益への影響が反転した

素材型産業輸出の素材型産業輸入に対する比率を時系列的に見ると、次のことが観察される。

1992年から07年までの期間では、1を超えていた。98年から04年ごろまでは、1,2~1,3程度の値だった。つまり、このころには、素材型産業の輸出が輸入をかなり上回っていたわけだ。したがって、為替レートの変化が輸出、輸入に同率の影響を与えるとすれば、円安が素材型産業の利益を増加させる要因だったことになる。

しかし、この比率は05年から1.1程度になった。つまり、円安の利益増大効果が低下した。その原因は、原油価格の上昇である。08年には原油価格が高騰したため、輸出・輸入比率は大きく悪化し、0.99となった。つまり、円安が収益悪化要因になり、円高が収益増加要因になったのである。

このことは、個別会社の計数でも確かめられる。すなわち、経済危機後に、製鉄会社の利益が円高によって上方修正されたのである。神戸製鋼所は、09年3月期の連結決算営業利益予想を、それまでの予想から200億円引き上げて2000億円とした。新日本製鐵は、経常利益を4500億円から5600億円に、JFEホールディングスは4500億円から5000億円に引き上げた。

素材型産業輸出の素材型産業輸入に対する比率は、その後回復して1を超えた。しかし、11年から再び1を割り込んだ。その原因は、原子力発電が停止して発電が火力にシフトしたため、燃料輸入が増えたことだ。11年には0.98、12年には0.94だ。つまり、いまや、円安が収益を減少させる要因になっているのである。

前回、住友化学と新日鐵住金について、円安が収益悪化要因になっていることを見た。これは、2社の特殊事情ではなく、素材型産業に共通する事態なのだ。

ここで、いくつかの点について注意が必要だ。第1に、輸出・輸入比率が1を下回ったところで、企業収益がただちに赤字になるわけではない。輸出以外に国内売り上げがあるし、費用の面でも、輸入品以外のものがあるからである。

第2に、現実の収益は、ドル建て原油価格の変動や輸出入数量の変動など、為替レート以外の要因によって影響される。12年においては、原油価格が低下し、LNG価格が上昇しないという幸運があった。しかし、仮に原油価格が今後上昇すれば、円安がコストを引き上げる効果はさらに強くなる。ここで述べたのは、それらの要因が所与であるとした場合の、為替レートのみの影響だ。

第3に注意すべき点は、輸出・輸入比率は、個々の企業によって、異なることだ。だから、素材型産業の平均で輸出・輸入比率が1を割ったとしても、1を超える企業は存在し得る。

エネルギー価格上昇が最大の原因

以上の計算の結果は、「素材型産業の生産に使われていると考えられる輸入」の範囲をどう取るかで、変わび得る(例えば、医薬品、木材などは除ぐべきかもしれない。他方で、機械の輸入の中には、素材型産業で用いられているものもあるかもしれない)。また、電力コストの見積もりいかんでも結果は変わる。したがって、ここで行った計算は、近似的な性格のものである。

しかし、どのような計算をしても、条件が悪化していることは間違いない。そして、04年ごろまで円安が収益増加要因であり、いまは悪化要因になっていることも、おそらく間違いない。「日本の素材型産業は、円安によって収益が減るような収益構造になった」という点が重要なのである。

こうなった大きな原因は、エネルギー価格の相対的な上昇である。原油価格は、80年代から90年代にかけて安定していた。しかし、90年代の末ごろから、その条件が失われたのだ。いまは、これに加えて、原発停止による火力シフトがある。

右で計算した「素材型産業における電力コストの、同産業の輸出に対する比率」は、04年ごろまでは10%未満だった。90年代の末には5%台にまで低下した(仮に売り上げのうち輸出の比率を5割とすると、これは売り上げの2.5%に相当する。他方、国民経済計算の「経済活動別財貨・サービス投入表」(U表)によると、産出額中の電気の投入は、2000年において、化学で4.6%、一次金属で4.1%だ。これと比較すると、ここの推計値は過小かもしれない)。しかし、その後上昇し、11年に13%を超え、12年には16%になった。

自家発電を除ぐ電力コストは、燃料費調整制度を通じて電気料金に反映されるまでにタイムラグがある。したがって、影響はすぐには表れない。しかし、今後素材型産業の利益を圧迫していくことは間違いない。

いまの日本では、円安が国益に反するようになっている。日本の株式市場は、東日本大震災以降、発電用燃料の輸入の比重が大きくなったこと、したがって円安がコストアップ、収益悪化要因になっていることを理解していないようだ。多くの企業にとって、円安は売り要因になったのである。

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