円安で原料価格が上昇企業利益が減少する

前々回、「円安は、輸入原材料の円建て価格を引き上げるという点で、輸出産業の利益を圧迫する」と述べた。そして、輸出額に対する輸入額の比率は、日本全体で平均すると半分程度であるが、素材装置産業ではもっと大きいだろうと述べた。つまり、こうした産業では、円安が収益圧迫要因になっている可能性がある。以下では、そのことを、個別企業について具体的に検証してみよう。まず、住友化学を取り上げる。同社は、日本経済団体連合会会長・米倉弘昌氏の出身企業であるが、そのために取り上げるのではない。日本の大企業を代表する存在であるからだ。

2月1日に発表された「平成25年3月期 第3四半期連結決算概要」によれば、同社の2013年3月期の予想営業利益は、500億円である。これは、12年3月期の607億円に比べて107億円の減少だ。原因は、売上高が221億円(率では1.1%)増加したにもかかわらず、売上原価が498億円(3.5%)増加したからだ(なお、売上原価は、4月1日から12月31日までの数字が公表されているので、そこにおける売上原価と売上高の比率が、通年の比率と同じであるものとして計算した)。

売上原価が増大した大きな原因は、円安によってナフサ(石油化学原料である粗製ガソリン)の円建て価格が上昇したことである(12年3月期から13年3月期への変化率は、為替レートの減価率が2.4%、ナフサ価格の上昇率が2%。なお、売上原価の中には、ナフサのような原材料のほか、賃金など、為替レートには影響を受けないものも含まれているので、増加のすべてが円安によるわけではない)。ナフサ価格はドル建てでは値下がりしているので、円建て価格の上昇は、ほぼ円安に起因するものである。

つまり、「円安は売り上げを増加させる効果はあったかもしれないが、それと同時に、原料の輸入価格を引き上げ、売上原価を売り上げより大きく増加させた。その結果、営業利益を減少させることとなった」と解釈できるのである。簡単に言えば、円安は同社の場合、利益減少要因なのだ。

新日鐵住金でも円安で利益減少

ナフサ価格は、上昇を続けている。12年10~12月期価格は、7~9月期に比べて12%高の1キロリットル5万5800円になったが、13年1~3月期の価格は、さらに6万2000円超に上昇する見込みだ。しかも、最近では、ドル建て価格を上昇している。

他方で、製品の輸出価格は上昇していない。貿易統計によって計算すると、キシレン、塩化ビニール樹脂、ポリエチレンなどの石油化学製品の輸出価格は、12年中ほとんど変わっていない。つまり、円安の影響は、輸出価格には及んでいないわけだ。

仮に今後も円安が続くとすれば、ナフサ価格はそれに比例する以上に上昇するだろう。他方で、円安が続いても、輸出価格は上昇しない。また、輸出数量は減少する可能性が強い。それは、輸入国が景気後退のために、輸入を増やさないからだ。したがって、輸出金額は増加することはないだろう。つまり、今後も円安が収益を圧迫し続ける可能性が大きいのである。

住友化学と同様の状況が、新日鐵住金についても観察される。合併前の新日本製鐵は、経団連会長を輩出した企業だ。ただし、同社を取り上げた理由はそれだけではなく、日本の大企業を代表する存在だからである。

新日鐵住金の「平成25年3月期 第3四半期決算短信」によって、11年4~12月と12年4~12月を比較すると、次の通りだ。営業利益は、822億円から60億円の赤字へと、882億円減少した。原因は、売上高が29億円(0.1%)増加したにもかかわらず、売上原価が633億円(2.3%)増加したからだ。売上原価の増加の大きな原因は、円安による原材料価格の上昇と考えられる。

つまり、この場合も、「円安は、売り上げをさほど増加させず、他方で原材料価格を増加させ、その結果営業利益が縮小する」ということになっている。これは、住友化学と同じ構図である。

両社とも、売上高は12年には11年より増加している。だから、日本全体が陥っている輸出減の影響はさほど強く受けていない。しかし、円安による原材料価格の上昇という影響は、強く受けているわけだ。

利益減少で株価が上昇する不思議

ところで、以上の状況は株価に影響しているだろうか? 常識的に考えれば、今後円安が進行すれば利益は減少するはずだから、株価は下落するはずである。ところが、現実に生じていることは、その正反対だ。

住友化学の株価は、12年の10、11月ごろには200円程度だったが、13年2月中旬には270円程度にまで値上がりしている。他方で、13年3月期営業利益の見通しは、12年10月31日発表の650億円から13年2月1日発表の500億円に下方修正されている。それにもかかわらず株価は上昇しているのだ。これは、まことに不思議な現象だ。あえて解釈すれば、株価は、将来の配当を想定したものではなく、株価の変化だけを想定したものだということになる。そうであれば、利益が株価に反映しなくても当然ということになるだろう。

新日鐵住金の株価上昇はもっと顕著だ。すなわち、12年10、11月ごろには170円程度だったものが、13年2月中旬には260円程度にまで値上がりしている。営業利益が赤字に転落したにもかかわらず株価がこのように上昇するのも、不思議な現象だ。これも、住友化学の場合と同じように考えるしか、解釈のしようがない。

ところで、円安による生産コストの上昇は、ナフサのような原材料の価格上昇を通じるものだけではない。重要なのは、電気料金の引き上げだ。発電用燃料のほとんどは輸入であるため、円安によって燃料費が上がる。それによって、電力会社の利益は減る。

東京電力は、2月4日、13年3月期の連結最終損益が、従来予想の450億円の赤字から拡大して、1200億円の赤字(前期は7816億円の赤字)になる見通しと発表した。この原因は、原子力発電の停止による代替火力発電の燃料費が円安で予想より増えるためだ。関西電力は4月から11.88%の、九州電力は4月から8.51%の電気料金値上げを申請している。

なお、電気料金には、燃料の仕入れ価格の変動を自動的に料金に反映する「燃料費調整制度」がある。この制度によれば、3ヵ月の燃料費の変動額の平均が、2ヵ月後の料金に反映される。したがって12年10~12月の変動分は、13年3月の料金に自動的に転嫁される。

東日本大震災前に比べて、この面からの円安コストアップ効果は強まっている。そして、これは、製造業だけでなく、サービス産業を含め、すべての経済活動に影響する。

日本経済全体としても、貿易収支は赤字だから、仮に円安によって円建ての輸出額と輸入額が同率だけ増加するとすれば、赤字は拡大する。これは、貿易収支が黒字だった時代との大きな違いである。それだけでなく、企業レベルでも輸入が輸出を上回り、そのため円安が収益悪化要因になり得るのだ。「円安で株価が上昇する」という時代は過ぎた。それにもかかわらず、円安が買い材料と見なされて株価が上昇している。奇妙な現象である。

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