円安下で激減する12年の製造業利益

「円安が日本企業の利益を増加させ、このため株価が上昇している」と報道されている。しかし、この説明は誤りである。前回、このように述べた。

自動車産業利益増の原因は、第1には2011年に東日本大震災で生産が大きく落ち込んだことからの回復であり、第2には12年4~9月のエコカー支援策によって売り上げが増加したことだ。円安が進んだ12年秋以降には、輸出、生産、売上高は落ち込んでいる。13年1~3月期の見通しについても、円安による売り上げ増大効果は認められない。前回は、このことを輸出や生産指数の動向を見て結論付けた。以下では、直接に利益の推移を見ることによって、同じ結論を導出しよう。

卜ヨタ自動車の13年3月期決算説明会プレゼンテーション資料によると、同社の13年3月期の通期営業利益予想額は、1兆1500億円になる。前年の3556億円に比べて、223.4%増という大幅増である。これは、円安によるものと報道されている。しかし、第2四半期決算時点ですでに1兆0500億円と見通されていたので、それ以降の円安による増加分は約1000億円にすぎない。これは全体の利益の8.7%でしかない。

1兆円を超える利益の大部分は、円安進行以前に見通されていたのである。より詳しく見ると次の通りだ。12年4~12月については、対前年比で販売台数が32.7%、売り上げが26%増えた。円ドルレートは、11年4~12月の1ドル79円から、12年4~12月の80円へと、円安になっている。しかし、台数や売り上げの増は、円安によるものではない。

そのことは、前記期間を4~9月と10~12月に分解してみると、よくわかる。販売台数は、4~9月では前年から実に49.2%増加した。しかし、10~12月では7.3%増にとどまっている。売り上げで見ると、4~9月には前年より36.1%増加したが、10~12月では9.3%の増にとどまる。円ドルレートは、4~9月の79円から10~12月の81円へと円安になったにもかかわらず、販売台数や売り上げの伸び率が低下したのである。

将来の円安で輸出や利益が増えるか?

では、今後円安がさらに進展して、売り上げが増加すると予測されているのだろうか?

トヨタ自動車の見通しによると、13年I~3月では、台数は前年比5.8%の減。売り上げは2.3%の減である(こうなる一つの原因は、今後の為替レートをあまり円安とみていないことだ。現状程度のレートが今後も続けば、今後上方修正される可能性もある)。

13年通期(12年4月~13年3月)で見ると、台数は約20%増え、売り上げは17.3%増える。

13年通期の営業利益には、リコール関連和解金支払いの影響があるので、前年との単純な比較が難しい(これがないとすると、13年の営業利益は1兆3900億円となり、対前年比290%増となる)。ただし、利益増加の主たる原因は、11年4~9月に大震災の影響でマイナス326億円だったのが、12年4~9月に6938億円になったことだ。

円安受益企業の代表のように言われるトヨタ自動車でさえ、こうした状況なのだ。ましてや、他の企業が12年に減益になっても、少しも不思議はない。実際、日産自動車は、12年4~12月期の営業利益が前年同期比18.4%減の3492億円になったと発表した。

もちろん、13年4月以降、これまでよりさらに円安が進み、それによって将来の利益が増大する可能性は否定できない。

しかし、次の諸点に留意が必要だ。第1に、為替レートの行方は不確定だ。日本の金利はすでに非常に低い水準になってしまっているので、日本がいかに金融緩和をしても、為替レートには影響を与えられない。今後の為替レートがどうなるかは、日本の政策ではなく、外国(特にユーロ圏とアメリカ)の政策に依存する。そして長期的に見れば、日本の物価上昇率が低いので、購買力平価が示すように、年率数パーセントの率で円高が継続するはずだ。

第2に、円安になっても生産は増えない。これは、右で述べた10~12月の実績、および1~3月の予測から推測できることだ。欧州や中国での景気後退による需要減が、為替レートが円安になる効果をはるかに上回っているのである。

留意すべき第3点は、円安のマイナス効果があることだ。特に重要なのは、発電用燃料の価格上昇が電気料金に転嫁されることだ。自動車産業も、これによるコスト増加から逃れることはできない。

自動車産業だけが例外的に12年に増益

「利益が11年に落ち込んだ」というのは、自動車産業に限らず、製造業一般について言えることである。しかし、12年の回復は、製造業全体では見られない。

法人企業統計で見ると、製造業の営業利益は10年には14兆7100億円だったが、11年には11兆2863億円と落ち込んだ。1~9月の期間を比較すると、10年が10兆5293億円11年が8兆2763億円、12年が8兆0561億円となっている。

このように、12年は11年より落ち込んでいる。これは、12年後半から輸出が落ち込んでいることの影響と考えられる。

業種別に経常利益の対前年比を見ると、製造業のほとんどの業種において、12年になってから大幅なマイナスが続いている。7~9月を見ると、鉄鋼85.8%減、電気機械66.9%減、化学42.2%減、業務用機械33.8%減などだ。

こうした中で、輸送用機械(主として自動車)だけがまったく例外的な動きを示しているのだ。経常利益の推移を見ると、11年7~9月期から12年7~9月期の間に、3182億円、5130億円、8286億円、9243億円、7279億円と推移している。対前年増加率は、12年4~6月期は1050.9%、7~9月期は128.8%という異常な高さだ。

しかし、これらの数字は、自動車産業の12年の利益が好調であることを示しているのではなく、11年の利益が少な過ぎたことを示している。11年の落ち込みが激しく、また12年の4~9月にエコカー補助があったために、12年の輸出の落ち込み効果を上回ったのだ。

このように、「円安で日本企業の利益が増加している」という事実はない。そして、これは、輸出や生産指数の観察から前回述べたことと一致している。

法人企業統計の数字は、現時点では12年9月までしかわからないのだが、製造業の利益が10月以降、円安で増えている可能性はあるだろうか?

前回見た輸出動同や生産動向からして、12年10~12月期が回復しているとは思えない。

それにもかかわらず、株価は上昇している。現在の日経平均株価は1万1000円を超えているが、11年9月ごろには9000円を割っていた。円安による利益増を期待してこうした株価上昇が生じているのだが、現実の利益の推移との差のあまりの大きさに、驚くほかはない。

なお、非製造業の利益は、製造業のように大きく増減はしておらず、徐々に増加している。1~9月の期間を比較すると、10年が21兆8571億円、11年が21兆8606億円、12年が23兆1625億円となっている。12年は11年より約6%の増加だ。非製造業は、震災や12年後半の輸出減の影響をあまり受けていないからだ。

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