12年利益増の原因は円安でなく震災要因

2012年12月期決算の利益が、対前期比で増加する企業が多いと報道されている。その原因は、円安であると説明されている。安倍晋三政権の金融緩和政策によって円安が進み、これが輸出関連企業の業績を好転させているというのだ。

しかし、この説明は誤りだ。12年の利益が増加するのは、11年において東日本大震災による輸出城とタイ洪水による工場浸水という特殊事情があったからだ。

その証拠に、利益が増加するのは自動車関連企業が中心である。11年の特殊要因で最も大きな影響を受けたのがこの分野だからだ。11年の特殊要因が12年には消滅したため、乗用車の輸出は、11年の6.9兆円から12年の7.8兆円へと11.9%増加した。ただし、これは、経済危機前の07年の12.7兆円に比べればもちろんのこと、10年の7.9兆円に比べても少ない。12年はこのようなレベルに戻っただけなのである。「円安で企業業績回復」とはやし立てている人は、11年に起こった特殊要因のことを忘れてしまったようだ。

しかも、乗用車にっいても、最近の円安による輸出増大効果は認められない。乗用車輸出額は12年前半にはほぼ一定だったが、8月に大きく落ち込んだ。その後回復したが、円安の始まった秋以降は、前半に比べれば減少している。数量ベースで見ると、減少は明白だ。6月の44.4万台から12月の40.1万台に約1割減少している。

乗用車の鉱工業生産指数も、輸出とほぼ同様の傾向を示している。すなわち、東日本大震災直後に大きく落ち込んだが、その後回復し、12年4月には121.3に達した。年平均で見ると、11年の84.5から12年の98.6へと16.7%上昇した。しかし、4月をピークとしてその後は低下し、11月には82.8になった(12月はやや持ち直して89.6になった)。つまり、生産指数で見ても、円安効果は見られないのである。

円安なのに輸出総額は減少している

製造業全体では、東日本大震災やタイ洪水の影響はあまり大きくなかった。このため、輸出総額は、11年から12年にかけて増加することはなかった。実際には、逆に、11年の65.5兆円から12年の63.7兆円へと1.8兆円減少したのである。率では2.8%減だ。なお、12年12月には増加しているが、これは季節要因の影響と考えられる。対前年比では、5.8%の減少だ(10、11年とも、12月は11月より増加している)。ドル建てで見ると、12年は11年に比べて2.4%減少している。12月は、対前年比11.2%の減少だ。

輸出減少が特に顕著なのは、一般機械であり、12年の輸出額は11年より7.0%減少している。その中でも、荷役機械(12.3%減)、ベアリング(10.4%減)などの減少が顕著だ。一般機械以外の項目でも、化学製品6.4%減、原材料製品3.9%減、電気機器1.7%減など、軒並み減少になっている。12年の輸出が11年より増えたのは、ほぼ自動車関連だけの特殊事情なのである。

輸出の減少に伴って、鉱工業生産指数も低下している。まず鉱工業全体を見ると、東日本大震災直後に大きく落ち込んだが、その後回復し、12年3月に95.6に達した。しかし、その後は低下し、11月には86.7になった(12月は88.9)。

年平均で見ると、11年の92.4から12年の91.5へと、約1%低下している。つまり、製造業全体で見ると、輸出についても生産にっいても、12年は11年より低下しているのである。したがって、12年の製造業全体の利益は、11年に比べて減少する可能性が高い。

国別に見ると、輸出の減少が特に顕著なのは対中国輸出だ。11年の12・9兆円から12年の11.5兆円へと、約10.8%減少している。中でも、一般機械の減少が顕著だ(23.7%減)。その中で、建設用・鉱山用機械は、57.4%減、荷役機械は45.1%減と、すさまじいばかりの減少を示している。

建設用・鉱山用機械の12年12月の輸出額は、10年から11年前半ごろに比べると、実に10分の1程度にまで落ち込んでいるのである。これは、経済危機後に中国で行われた公共事業の大拡張が一段落したことの影響と考えられる。

これまでは、円安になると輸出が増えるという効果が働いていた。株式市場が昨年11月以降の円安で株価を上げているのは、そうしたメカニズムがいまも働いていると考えられているからだろう。

しかし、現実には、そうなっていないのである。それは、現在の輸出減少が、中国の景気刺激策の終了や、欧州の経済混乱といった特殊要因によって引き起こされているからだ。そうした要因によって引き起こされる輸出減は、円安による効果をはるかに凌駕しているのである。

製造業のコストが上昇し総需要も減少する

「円安なのに輸出が伸びない」と言った。しかし、現在の日本では、円安はそれ以上の問題をもたらしている。それは、円安によって円建て輸入額が増大することである。

ガソリン価格への影響は、すでに生じている。発電用燃料の輸入額の増加は、当面は電力会社の収益を圧迫するだけだが、いずれ電気料金に自動的に転嫁される。そして、製造業のコストを上昇させることになる。

貿易赤字の増大は、マクロ的に見て、総需要を減少させる。つまり、GDP成長率を引き下げる。

四半期別に見ると、貿易統計ベースの赤字は、12年4~6月期が1.4兆円、7~9月期が1.85兆円、10~12月期が2.15兆円と、日を追って拡大している。

7~9月期における貿易赤字は、GDPマイナス成長の大きな原因となった(この期の年率換算実質GDP成長率はマイナス3.5%。財貨サービスの輸出の前期比がマイナス5.1%、財貨サービスの輸入がマイナス0.4%)。10~12月期の貿易赤字は7~9月期より拡大しているので、GDPマイナス成長の大きな要因となる可能性がある。

ただし、貿易統計の数字は名目値であるので、実質値でどうなるかはわからない(ドル建ての赤字が11月までは拡大していたことを考えると、実質値でも財貨サービス純輸出がマイナスになっている可能性が高い)。10~12月期GDP統計は、本稿執筆時点で速報値がまだ公表されていないのだが、7~9月期との比較でマイナス成長になっている可能性が高い。

以上をまとめれば、次の通りである。自動車を含めて、円安が輸出を増加させる効果は働いていない。他方で、円安は輸入価格を上昇させるので、コストアップ要因になる。また、総需要を減少させる。したがって、円安は日本経済にとってプラスではなく、マイナスに作用している。円安の進行は、日本経済の行く手に赤信号がともっていることを意味するのだ。

とりわけ、地方や中小企業の状況は厳しいものとなるだろう。製造業の就業者数は、16ヵ月連続で減少しており、昨年12月に半世紀ぶりに1000万人を切った。

仮に今後さらに円安が進んでも、事態は改善されないだろう。

なぜなら、現地通貨建ての価格は引き下げられないと考えられるからだ。そうであれば輸出数量は増えず、したがって実質GDPを増大させる効果はないだろう。また、国内生産が増えないので、下請けに対する注文が増大することもないと考えられる。

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