製造業においても「減反政策」が必要

政府は11日、事業規模20.2兆円の緊急経済対策を決定し、大型補正予算を編成することとした。

この政策の最大の問題点は、対症療法的な需要追加によっては、日本経済が抱える構造問題を解決できないことだ。それだけではない。需要追加方式は、持続可能性がないのだ。以下では、まずこの点について論じよう。そして、本来必要とされるのは、需要追加ではなく、供給能力削減であることを主張する。

現在の日本経済では、貿易赤字の拡大によって、総需要が著しく減少している。具体的には次の通りだ。2012年7~9月期の実質GDP(国内総生産)は、前期比年率換算で3.5%のマイナス成長となった。寄与度が最大の需要項目は輸出で、マイナス3.1%だった(輸入の寄与度0.3%を控除すると、純輸出の寄与度はマイナス2.8%となる)。

貿易統計で見る輸出の対前年同月比は、12年6月から毎月マイナスを続けており、最近ではマイナス5%程度の値になっている。12年の輸出輸入差は、2月と6月を除いて毎月赤字だ。しかも、10月が5546億円、11月が9548億円、12月上中旬では7514億円と、拡大を続けている。仮に12月下旬が上中旬と同じベースなら、12年の年間赤字額は7兆4000億円程度となる。サービス収支は年間2兆円近い赤字なので、国際収支上の貿易サービス収支は9兆~10兆円程度の赤字になる。07年における貿易サービス収支は。10兆円程度の黒字だった。それに比べると、黒字が20兆円近く減少したわけだ。

貿易サービス収支の赤字は、総需要を減少させる。したがって、日本経済の総需要は、これだけ減っていることになる。

これを反映して、鉱工業生産指数も低下を続けている。鉱工業生産指数は、震災後回復を続け、12年3月には95.6に達した。しかし、12年4月から低下し、H月には86.7になった。これは、震災直後の3月の82.5と比べて、そう変わらない値だ。

需要補填はいつまでも続けられない

このような貿易収支の変化は、一時的現象でなく、構造的なものである。その理由は次の通りだ。

輸出が減少しているのは、対中国輸出が減少しているからだ(11月の中国向け輸出の対前年同月比は、マイナス14.5%)。これは、景気刺激策終了によって、中国の投資支出の伸びが低下している(鉄道投資は減少している)ことによるものだ。したがって、対中輸出は、10年ごろの状態には戻らない。また、かつてのアメリカ向け自動車輸出は、アメリカの住宅バブルに乗つたものであったため、当時のような水準は再現できない。他方で、輸入では、発電用LNG(液化天然ガス)の輸入が増加した状態が続く。

また、どの要因も、為替レートが円安になったところで改善するものではない。LNGの輸入額は、円建てで見れば、むしろ円安によって増える。

今回の補正は、右で述べた07年ごろと比べての総需要の落ち込みにほぼ相当する。政府は、今回の経済対策は、GDPを2%押し上げ、60万人分の雇用を創出するとしている。しかし、それは、この政策だけを取り出した場合の効果だ。07年ごろと比べれば、落ち込んだ需要を元に戻すだけの効果しかない。

しかも、1回限りの補正予算による支出では、支出が終われば、総需要は元に戻ってしまう。エコカー補助やエコポイントと同じことである。新しい成長軌道に乗せる起爆剤になるのでなく、単に需要を補うだけなので、こうなるのだ。

外需減少が今後も続くとすれば、総需要を経済危機前の水準に維持するには、今回の補正と同程度の需要追加を、いつまでも続けなければならない。しかし、それは可能だろうか?

財源面で問題が生じることは明らかだ。財源は国債に頼らざるを得ないから、経済危機前に比べて年間国債発行額が20兆円ほど増加した水準が続くことになる。これによって、長期金利が上昇する可能性がある。

これまではユーロ危機の影響で資金が日本に流入していたので、財政赤字による金利上昇が顕在化しなかった。しかし、これがいつまでも続くわけではない。

金利が高騰すると、巨額の国債を保有する金融機関で損失が発生するので、深刻な問題になる。つまり、需要補填策は、永続性が保証されないのだ。

貿易赤字10兆円時代の経済構造に転換せよ

今回の対策の背後にある考えは、現在の供給能力を前提とし、「需要が減って供給過剰になったから、需要を追加する」というものだ。この考えの問題は、右のように永続できないということだが、それだけではない。温存されるのは古いタイプの供給能力であることが大きな問題だ。

一般に、競争力を喪失した産業に対する対策としては、二つのものがある。第1は補助を与えて生産を継続させることであり、第2は供給能力を切り捨てることである。

農業(米作)の場合、最初は第1の方向が取られた。戦後長期間にわたって、食糧管理制度の下で生産者米価を消費者米価より高く維持することにより米作を補助し、生産を維持してきた。しかし、米価の逆ザヤによって赤字が拡大し、1980年代には年間1兆円程度にも達するようになった。つまり、この方式は行き詰まったわけだ。87年に逆ザヤ解消のための生産者米価引き下げが行われ、生産維持のための補助は終わった。

他方で、70年代からは減反政策が始まっていた。これは、転作奨励金を支出して、米作からの転換を促す政策である。これは、生産能力の削減を目的とする第2の方向の政策だ。

製造業の場合には、これまで行われてきたのは、第1の方向のものであった。エコカー補助金、エコポイントがそれに当たる。また、雇用調整助成金も、対象は主として製造業なので、製造業が雇用を継続するための補助である。03年ごろからの円安政策も、広い意味での製造業補助政策だ。

しかし、それがいま行き詰まりつつあるのだ。農業の場合に米作生産維持ができなくなったのと似た状態になった。したがって、第2の方向に転換する必要がある。つまり、製造業においても、「生産継続補助方式」から「減反方式」に転換する必要がある。

これまでの日本の経済構造は、貿易サービス黒字10兆円に対応するものだった。それを転換して、赤字10兆円に適合したものに変えるのである。

政府は、公的資金によって工場を買い上げる計画を検討中という。これによって新しいタイプの生産を促すとされているので、一見したところ、転作奨励による減反政策のように見える。しかし、「転作」が行われる保証はない。なぜなら、買い上げた工場は廃棄するのではなく、企業にリースして生産を継続するとされているからだ。

これは形を変えた生産継続政策に他ならない。必要なのは、工場を廃棄して、古いタイプの供給能力を削減することなのだ。

もちろん、そうしたことを行えば、雇用は減少する。しかし、経済の他の部門で新しい供給能力が育てば、雇用は増える。新しい供給とは、新しい需要に対応するものだ。これまでの供給主体の枠内で雇用を維持するという発想からは、転換する必要がある。新しい酒は新しい革袋に入れなければならないのだ。

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