幻の輸出立国を追い円安を求め続ける愚

日本の貿易収支は、東日本大震災以来、若干の例外を除き月ベースで赤字になっている。

2012年1~10月は5.3兆円の赤字だ。これは、前年同期の赤字1.7兆円の3倍を超える。11年の貿易統計べースの赤字は2.6兆円だった。年中の1~10月の比重が変わらないとすると、12年の貿易収支は8.2兆円という巨額の赤字になる。

サービス収支の赤字を加えると、10兆円程度になる。所得収支の黒字は14兆円程度あると考えられるので、経常収支の黒字は維持できるだろう。しかし、震災前に比べて状況が大きく変化したことは間違いない。したがって、貿易赤字拡大の要因を把握することが重要である。

輪出は、12年6月以降対年比マイナスが続いている。格別の円高が進行していないのにこうなっていることが重要だ。相手国別に見ると、対中輸出の減が著しい。

対中輸出月額を前年同月比で見ると、10年においては、10~40%程度増と極めて高い値が続いた。しかし、11年4月ごろからマイナスの伸びも見られるようになり、12年6月からはマイナスが継続している。12年10月の対前年同月比は、12%の減だ。11年11月から12年10月までの輸出額は11.8兆円となった。これは1年前の同期間の13.2兆円に比べて、1割減だ。

対中輸出が減少している原因として一般には、ユーロ安のために中国の対EU輸出が伸び悩み、その影響で日本の対中輸出が減少していると言われる。中国の対EU輸出伸び悩みは事実であるし、中国の輸出総額も伸び悩んでいる。しかし、伸び率は依然としてプラスだ。それに対して、日本の対中輸出は減少している。だから、別の大きな要因があるはずだ。

この連載でもすでに述べたように、対中輸出のうち減少が激しいのは、建設機械や資材などである。他方、輸出産業向けの部品輸出はそれほど落ち込んでいない。したがって、原因は輸出でなく、投資支出の減少と考えられる。

中国のGDPでは、固定資本形成が50%近く、極めて高い比重を占めている。したがって、これが変動すると、GDPや輸入に大きな影響が及ぶ。中国は、経済危機後の08年から09年にかけて、高速鉄道や高速道路建設など、極めて大規模な投資増加策を取った。また金融緩和によって住宅建設も増加した(以上についての詳細は、ダイヤモンドーオンラインの「野口悠紀雄の中国経済統計『超』読解法」を参照されたい)。

そうした政策が終了したのである。鉄道建設投資額は、対前年比で減少しているほどだ。このため経済全体の投資額の伸びが低下し、その影響で日本からの輸入が減ったのである。つまり、09年から10年ごろの増加が異常だったのだ。これは一時的な現象で、再現されることはない。

円安は製造業の生産コストを高める

対米輸出はどうか。月額は、11年11月から対前年比で増加を続けている。この結果、11年11月から12年10月までは11.1兆円となった。これは1年前の同期間の10.0兆円の11.9%増だ。ただし、06年11月から07年10月までは17.1兆円だったので、それに比べれば大きく落ち込んだままだ。このころの異常な輸出増は、円安バブルとアメリカ住宅価格バブルによるものであり、もう再現することはないだろう。

こうして見ると、6月からの輸出の減少は、循環的なものではなく、構造的なものである。日本が貿易立国を続けるのは、極めて難しくなった。

この状況に対して、どう対応すべきだろうか? 一般に考えられているのは、円安政策で輸出の増加を期待することだ。新政権の政策も、この方向に沿ったものとなるだろう。

しかし、右で見たように、輸出減は構造的なものだから、この政策は成功しない。実際、円高が進まなかったにもかかわらず輸出が減っているのである。だから、さらに円安になったところで、輸出が増えることにはならない。

他方で、円安が進めば輸入額は増加する。このことは、特に発電用燃料において深刻な問題を引き起こす。

液化天然ガス(LNG)の輸入は、11年11月から12年10月までの1年間で、約6兆円になった。これは、同期間の鉱物性燃料の輸入額24兆円の約4分の1という巨額なものだ。しかも、輸入額の増加は著しい。同期間の輸入数量は、前年同期の13.9%増であるのに対して、金額では36.5%増(1.6兆円の増)にもなっている。

こうなった主要な要因はLNGの価格上昇だが、為替レート変化の影響も無視できない。11年11月から12年10月までの円ドルレート月末値の平均はIドル=79.0円だ。これは、11年9月のレート(76.7円)より3%ほど円安である。したがって、為替レー卜が11年9月当時の値のままであれば、右期間のLNGの輸入額は、1800億円ほど少なくなっていたはずである。

ところで、電気事業連合会によると、電灯料と電力料の10社合計は、11年度において14.5兆円だ。右で見たLNG輸入額の増加1.6兆円はほぼ自動的に電気料金に転嫁されるため、電気料金は11.1%ほど上昇せざるを得ない。そのうちの1.2%分程度は円安によるものだ。

なお、12年11月以降、顕著な円安が進んでいる。11月と12月の平均レー卜は84.5円であり、11年9月より10%安い。したがって、円安による電気料金引き上げ効果は、強まっているわけだ。

これは、あらゆる日本企業の生産コストを引き上げる。特に、電力多使用産業である製造業にとっては、利益を大きく圧迫する要因だ。発電の火力シフトも、LNG輸入の増加も、電気料金の値上げも、不可避なものである。しかし、電気料金上昇の一部分は、円安がなければ回避できたものである。

円安は貿易赤字を拡大させる

言うまでもないことだが、円安による輸入額増加は、LNGに限ったことではない。すべての輸入について言えることである。貿易収支が赤字とは輸入額が輸出額よひ多いことだから、円安は貿易赤字を拡大させる。円安は、企業の生産コストを引き上げて輸出競争力を低下させるだけでなく、マクロ経済にも問題をもたらすことになる。

これは、オイルショック後のイギリスと似た状態だ。ポンド安が輸出を増加させず、貿易赤字が拡大して、イギリス経済は疲弊したのである。

混在の日本でも、原料や燃料を輸入して国内で加工し、それを輸出するという輸出立国のモデルが、もはや成立しなくなっている。円安を追い求めれば、輸入金額は増える。他方で、輸出は増えない。こうして、ますます傷が深まるわけだ。

国際収支について言えば、輸出の増加を追求するのでなく、所得収支の黒字拡大を目指すべきだ。

これは、イギリスが実現したことである。イギリスの製造業はオイルショックによる痛手から回復できなかったが、それに代わって金融業が成長した。そして、1990年代にイギリスに大繁栄をもたらした。これを実現したのは、金融業における大幅な規制緩和である。とりわけ、外資に対して門戸を開いたことの効果が大きい。日本はいま、イギリスの経験から多くを学ぶべきだ。

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