金融緩和で日本経済は海図なき航海に出る

総選挙は、自由民主党の圧勝に終わった。安倍晋三総裁が選挙前に金融緩和を標榜していたこともあり、これから大幅な金融緩和に向けての政策が取られるだろう。株式市場はこれを好感し、大幅に上昇した。

しかし、日本経済の実情は極めて厳しい。対中輸出の減少などを原因として、景気が落ち込んでいる。巨額の赤字に直面する家庭電器産業の問題も、なんら解決されていない。また、エコポイントやエコカー購入補助などの支援策を再開するのも困難だ。そして、製造業の海外移転も続く。これまでのような大企業だけでなく、部品メーカーをはじめとして中小企業も海外移転するだろう。このため、2013年においては、企業城下町での工場閉鎖が相次ぎ、失業率が高まる可能性が高い。

こうした状況に対して、本来必要なのは、経済構造を改革し、規制緩和を行って新しい雇用機会を創出することである。しかし、こうした政策は、すぐには効果をもたらさない。その半面で、退出しなければならない産業や企業は、失業などの大きな痛みを経験しなければならない。

金融緩和の場合は、当面の直接的なコストはゼロだ。したがって、政治的には最も取りやすい。

しかし、金融緩和するだけで経済の改革が実現できるはずはない。事実、これまで金融緩和が進められてきたにもかかわらず、実体経済には何の影響も及ぼさなかった。これは、緩和が不十分だったからではない。日本経済の低迷が続き、投資需要がないために資金需要がなく、したがって日本銀行がマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えなかったからだ。

金融緩和を期待して大幅に値にがりした株式市場が忘れているのは、まさにこのことだ。

財政規律はさらに弛緩する

他方で、財政再建の行方はまったく絶望的だ。消費税が増税されても、5%の引き上げでは、財政赤字を長期的に縮小する効果は期待できない。これは「焼け石に水」だ。本来総選挙の争点となるべきは、消費税の税率を今後どれだけ上げてゆくかであった。それにもかかわらず、代替財源の提示なしに、すでに決定された消費税増税反対が叫ばれた。これを見ても、これ以上の消費税率引き上げは、ほぼ不可能だ。相続税などでの増税は行われるだろうが、多額の税収を期待することはできない。

また、社会保障制度の抜本的改革は、高齢化が進む日本の最大の課題であるにもかかわらず、総選挙でほとんど争点にならなかった。日本の政治家は、社会保障制度の改革なしには日本が存続できないという問題意識を持っていない。

このため、今後も社会保障支出は増大を続け、他の歳出も膨張を続ける。日本の財政は、コントロールできない状況に陥っており、国債発行はとめどもなく膨張する。国債残高は、これまでのペースを上回る勢いで増加を続けるだろう。

こうした状況下で、日銀に対する国債購入の圧力はますます強まる。そして、毎年の新規国債発行額のすべてを日銀が購入するような事態になる。

しかし、日銀が現在方式での国債購入を際限なく続けることができるかどうかは、疑問だ。「札割れ」(応札額が買い入れ予定額に届かないこと)はすでに何回か生じている。これまでに深刻な問題が生じていないのは、ユーロ危機で南欧国債から逃避した資金が日本に流入しているからだ。

その結果、日本国債の外国人保有比率は高まってい金融緩和で日本経済は海図なき航海に出る

総選挙は、自由民主党の圧勝に終わった。安倍晋三総裁が選挙前に金融緩和を標榜していたこともあり、これから大幅な金融緩和に向けての政策が取られるだろう。株式市場はこれを好感し、大幅に上昇した。

しかし、日本経済の実情は極めて厳しい。対中輸出の減少などを原因として、景気が落ち込んでいる。巨額の赤字に直面する家庭電器産業の問題も、なんら解決されていない。また、エコポイントやエコカー購入補助などの支援策を再開するのも困難だ。そして、製造業の海外移転も続く。これまでのような大企業だけでなく、部品メーカーをはじめとして中小企業も海外移転するだろう。このため、2013年においては、企業城下町での工場閉鎖が相次ぎ、失業率が高まる可能性が高い。

こうした状況に対して、本来必要なのは、経済構造を改革し、規制緩和を行って新しい雇用機会を創出することである。しかし、こうした政策は、すぐには効果をもたらさない。その半面で、退出しなければならない産業や企業は、失業などの大きな痛みを経験しなければならない。

金融緩和の場合は、当面の直接的なコストはゼロだ。したがって、政治的には最も取りやすい。

しかし、金融緩和するだけで経済の改革が実現できるはずはない。事実、これまで金融緩和が進められてきたにもかかわらず、実体経済には何の影響も及ぼさなかった。これは、緩和が不十分だったからではない。日本経済の低迷が続き、投資需要がないために資金需要がなく、したがって日本銀行がマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えなかったからだ。

金融緩和を期待して大幅に値にがりした株式市場が忘れているのは、まさにこのことだ。

財政規律はさらに弛緩する

他方で、財政再建の行方はまったく絶望的だ。消費税が増税されても、5%の引き上げでは、財政赤字を長期的に縮小する効果は期待できない。これは「焼け石に水」だ。本来総選挙の争点となるべきは、消費税の税率を今後どれだけ上げてゆくかであった。それにもかかわらず、代替財源の提示なしに、すでに決定された消費税増税反対が叫ばれた。これを見ても、これ以上の消費税率引き上げは、ほぼ不可能だ。相続税などでの増税は行われるだろうが、多額の税収を期待することはできない。

また、社会保障制度の抜本的改革は、高齢化が進む日本の最大の課題であるにもかかわらず、総選挙でほとんど争点にならなかった。日本の政治家は、社会保障制度の改革なしには日本が存続できないという問題意識を持っていない。

このため、今後も社会保障支出は増大を続け、他の歳出も膨張を続ける。日本の財政は、コントロールできない状況に陥っており、国債発行はとめどもなく膨張する。国債残高は、これまでのペースを上回る勢いで増加を続けるだろう。

こうした状況下で、日銀に対する国債購入の圧力はますます強まる。そして、毎年の新規国債発行額のすべてを日銀が購入するような事態になる。

しかし、日銀が現在方式での国債購入を際限なく続けることができるかどうかは、疑問だ。「札割れ」(応札額が買い入れ予定額に届かないこと)はすでに何回か生じている。これまでに深刻な問題が生じていないのは、ユーロ危機で南欧国債から逃避した資金が日本に流入しているからだ。

その結果、日本国債の外国人保有比率は高まっている。何らかのきっかけでユーロ圏からの資金流入に変調が生じれば、長期金利が高騰する。現在の状況は「国債バブル」と呼んでよい状態なので、金利高騰は深刻な影響をもたらす。まず、現在方式での国債購入を進められなくなる。そればかりでなく、国債価格の暴落によって、銀行に巨額の損失が発生する。すでにメガバンクは、こうした事態の発生を予測して保有国債の短期化を図っている。しかし、地方銀行や生命保険会社は長期の国債保有が多いので、問題が生じる可能性がある。

この状態に対応するために、国債消化の究極の手段として、日銀引き受けが検討されるだろう。

日銀引き受けの道が開かれれば、国債発行に支障がなくなるので、財政規律はこれまでにも増して弛緩する。そして、財政赤字はさらに拡大し、国債発行額はとめどもなく増加するだろう。こうして、悪循環が発生するわけだ。

危惧される資本逃避による急激な円安とインフレ

日銀は現在、消費者物価上昇率について、当面1%を目指すとしている。しかし、従来方式の国債購入を続ける限り、この目標は達成できない。安倍政権は、選挙前から言及していた通り、これを2%にかさ上げするよう圧力を加えるだろう。もちろん、2%は達成できない。物価上昇率は金融政策とは無関係に決まっているからだ。

消費者物価上昇率が高まるとすれば、原油価格が上昇したときだが、そうした事態は、近い将来には起こりそうもない。だから、物価上昇率目標は、いつになっても達成できず、これまでもそうであったように、「国債購入を無制限に続ける」ことを正当化することになる。金融緩和の本当の目的は、物価上昇率を引き上げることでもなく、経済を活性化することでもなく、日銀が国債を購入することなのだ。

仮にそれが日銀引き受けにまで進んだ場合、憂慮されるのは、財政支出の歯止めがない拡大によってインフレが引き起こされると予想されるため、資本逃避が生じることだ。

すでに述べたように、日本の財政は破綻しており、これを立て直すことは不可能である。資本逃避が起きたイタリアより深刻な状態だ。だから、将来のインフレを予想した資本逃避は、いますぐ生じても不思議ではない。

現在これが生じていないのは、基本的には、いまの方式の金融緩和ではインフレが起こりにくいからだが、もう一つには、ユー口危機によって南欧国債からの資本流出が生じており、その資金が日本に流入しているためだ。また、アメリカが金融緩和を進めているために、アメリカへの資本流出が抑えられているためでもある。しかし、このいずれかが大きく変わると、事態は大きく変わる。

そして、このいずれについても、状況の変化はあり得る。例えば、ギリシヤのユーロ脱退によってユーロ問題が解決し、投資資金が日本から逃げ出してヨーロッパに還流することが考えられる。あるいは、アメリカの景気が回復し、金融緩和政策にピリオドが打たれることがあり得る。

こうした状況になれば、資本が流出して円安が進み、それによって輸入価格が高騰して、インフレが輸入される。インフレが起これば、国債の実質価値は減少する。実は、これが財政危機から脱出する唯一の方法である。ラインハートとロゴフは、財政赤字が一定限度を超えた国はほぼインフレを経験したと述べている。この予言は、日本でも実現する可能性が強い。

しかも、資本逃避は、いったん始まると加速するので、止められなくなる。11年以降、日本の証券市場には巨額の短期資金が流入しているので、このシナリオは現実的なものだ。

こうしたシナリオの実現をいかに未然に防ぐか? いま日本経済は、重大な岐路に立たされている。

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