閉塞感は強まるがチャンスはいくらでも

2013年の経済環境は、これまでの事業を継続しようとする人や企業にとっては、ますます厳しいものになるだろう。

しかし、それは、チャンスがないことを意味するものではない。新しい事業を始めようとする人や企業にとっては、これまでにも増してチャンスに溢れた年になるだろう。

私は、講演で地方都市に行く機会が多い。そこで地元企業の方々と話す場合がある。業種は、圧倒的に製造業の方々が多い。伝統的な地場産業というよりは、何らかの形で大企業の系列と関連している企業である。「昔からの地場産業が強いはず」と想像される地域においてもそうだ。

それらの方々から必ずと言ってよいほど聞かされるのは、「円高が何とかならないか」という声だ。そして、「政治が混迷しているので、日本が駄目になる。強い政治家が現れて、われわれを助けてほしい」という意見である。

「成長戦略」ということの意味は、このことだ。つまり、成長ではなく、補助や保護が欲しいのである。新聞等で報道される大企業経営者とほとんど変わらないこのような意見を、日本のどの地方でも聞かされる。

これらの人々の話を聞いて、私か強く感じるのは、次の2点だ。

第1に、この人たちは、これまでやってきた事業を変える気持ちをまったく持っていない。新しいビジネスを始めようとも思わないし、ビジネスモデルを変更しようとも考えていない。これまでの事業を、これまでの形態で続けたいと望んでいる。

第2に、この人たちの頭には、04~07年ごろの円安期の記憶が残っている。「あのときには、輸出が伸びて、利益も増えた。その状況をもう一度再現してほしい」という幻想に取りつかれている。「デフレ脱却」ということの具体的な意味は、「超円安の再現」ということである。

このときの円安がバブルにすぎず、したがって永続できるものではなかったという認識はない。また、シャープやパナソニックをはじめとして、現在の日本の電機産業の大赤字は、そのときの過大投資の後遺症であることも、理解されていない。

従来方向を続ける限り行き止まりしかない

13年の日本で、製造業にとっての逆風は、これまでにも増して強いものになるだろう。中国への輸出は簡単には増加しないだろう。国内では電気料金が上がり、それに押される形で生産拠点の海外移転が続く。親会社が移転してしまうので、糸列部品メーカーの受注が減る。

だから、右に紹介したような要求が強くなる。実際、市場はすでに、安倍晋三政権の金融緩和政策を先取りして、円安・株高の方向に向かっている。

「円安になればすべてがよくなる」という幻想に応えるために、新政権は金融緩和策をさらに拡大するだろう。総選挙前の安倍自由民主党総裁の金融緩和発言が注目されたが、どの政治勢力が政権を取っても、同じような政策が取られるだろう。事実、民主党政権は、これまで何度も円安介入を試みた。

しかし、金融緩和をしても、04~07年と同じような円安を再現することはできない。なぜなら、先進諸国の金利がその当時に比べて低下してしまったために、円キャリー取引(円を売って、高金利通貨を買う取引)が起こりにくいからだ。

アメリカの景気が回復し、ユーロ危機が解決に向かえば、世界的な資金の流れが逆転し、日本からの資金流出が起これば、円安が進む。しかし、そうなると、今度は金利が上昇し、国債を大量に保有する金融機関に損失が発生する。

他方で、貿易赤字はさらに拡大し、財政赤字も拡大するだろう。だから、客観的に見れば、冒頭で述べた地方企業経営者の期待に応えることは極めて難しい。

われわれは、今、次のことをはっきりと認識する必要がある。

1.これからの日本で、これまでと同じビジネスを同じように続けようとしても、できない。

2.金融緩和と円安政策で日本経済を活性化することはできない。

日本の経営者が考えを大きく転換するのは、本当に切羽詰まった状況に追い込まれたときだろう。韓国の人々の意識は、1990年代末の通貨危機で、大きく変わった。他力本願では活路は開けないことを知ったのだ。そのため、教育熱が高まり、若者がグローバルにチャンスを求めるようになった。日本では、まだそこまで危機が深刻化していないために、意識が変わらないということだろう。

しかしチャンスはいくらでもある

こうして、13年には、日本経済の閉塞状況がますます強まるだろう。しかし、このことは、日本経済に未来がないことを意味するものではない。考え方、見方を変えれば、チャンスはいくらでもあるのだ。

第1に、サービス関連では、強い規制が残っている分野が多い。例えば、保険業、通信業、医療・介護などがそうだ。これらの分野で規制緩和を進めれば、ビジネスチャンスは大きく拡大する。

もちろん、これは政治的には容易な課題ではない。しかし、情報関連では、技術進歩によって、チャンスが広がっている。

例えば、クラウトサービスが広範に利用できるようになった。これは、強力な大型コンピュー・夕のサービスを、インターネット経由で低コストで利用できるサービスだ。無料で利用できるサービスも多い。

また、「プラットフォーム」と呼ばれるものが提供されている場合もある。例えば、グーグルマップやグーグルカレンダーは、無料でビジネスに使うことができる。それに何らかのサービスを付け加えて、自分の事業とすることができるのである。それを用いれば、大きなビジネスチャンスが生まれる。

金融市場では、「明らかに利益を得られる機会」があれば、裁定(=サヤ取り)取引によって即座につぶされてしまう。だから、「こうすれば株式投資やFXで1億円もうけられる」といった類いのアドバイスは、すべて「ウソ」なのである。

しかし、金融市場の外には、「明らかに利益を得られる機会」が残っている場合がある。今の日本の社会では、とりわけそうだ。最初に述べたように、新しい可能性を試そうとする人が少ないことは、逆に見れば、非常に大きなビジネスチャンスが手付かずで放置されていることを意味する。

30年前であれば、新しいビジネスを考え付いても、「それを実現するための資金がないためにできない」という場合が多かった。しかし、今では、必要資金の障壁は著しく低下している。クラウトのような強力なサービスを低コストあるいは無料で利用できるのも、その例だ。極端に言えば、必要なのは、新しいビジネスのためのアイディアだけであると言ってもよい。

20世紀の産業社会は、工場での大量生産を中心とするものであったため、大組織と大資本を必要とした。しかし、90年代後半以降、この傾向に大きな変化が生じている。それは、新しい事業のチャンスを生む。

そうしたチャンスが日本ほど手付かずに転がっている国はない。やる気のある人にとっては、よだれが出るほどの「黄金の国ジパング」だ。13年は、それらが掘り起こされ、日本を変えるために起動する年になることを期待しよう。

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