巨額の積み立て不足を抱える厚生年金の惨状

日本の公的年金は、将来どうなるのだろうか? 高齢化の進展に対応して、将来とも給付を続けることができるか?

この問題に答えるため、政府は、少なくとも5年に1度は「財政の現況及び見通し(財政検証)」を作成し、公表することとされている。

最新版は、2009年5月に発表された「平成21年財政検証結果」である。これによれば、厚生年金の場合、積立金が2105年まで持つ。このため、日本の年金は「100年安心年金」であるとされた。

次回の検証は、14年になる。しかし、本来はいま見直す必要がある。なぜなら、08年秋のリーマンショックによって、日本経済は大打撃を受けたからだ。年金財政も大きな影響を受けた。実際、民間の企業年金の積み立て不足が顕在化したのは、09年のことである。

09年財政検証は、発表されたのはリーマンショック後であるが、内容が作成されたのはその前の時点であり、日本経済大変化の影響を反映していないのである。

この点は、消費税増税を議論するとき、真っ先に検討しておくべきことだった。財政支出で最も重要なのは社会保障であり、しかも、その中の公的年金だからである。

10年3月に「平成21年財政検証結果レポート」が公表されているが、本稿で述べるような問題は検討されていない。

これだけの経済の大変動かあり、しかも大きな税制改革を行うのだから、見直しを行うのは当然のことだった。それを行わなかったのは、怠慢としか言いようがない。

「財敢検証」を検証するなぜ巨額の積み立て不足?

では、財政検証の内容を実績と比べると、ど夕なっているだろうか?

厚生年金の場合、財政検証によれば、11年度末の積立金残高は141.7兆円とされている(基本ケース。時価ベース。以下同)。

ところが、8月に発表された11年度決算では、11年度末の積立金は、111.5兆円しかないのだ。財政検証に比べて30兆円以上も不足している。見通しに比べて4分の1近くも不足しているというのは、尋常なことではない。どうしてこうなったのだろうか?

積立金の過去の値を見ると、財政検証の出発点である09年度末の積立金残高は、144.4兆円とされていた。しかし、実績は、120.7兆円だった。

つまり、検証が発表された09年5月の段階で、すでに現実の積立金は、見通しより20兆円強も少なかったのだ。

これは、リーマンショックによって株価が急落したからだ。上に述べたように、企業年金はこれによって積立金不足が顕在化したのである。厚生年金は、企業年金の場合ほど株の運用は多くなかったと考えられるが、それでも影響は免れなかったわけだ。

問題は、それだけではない。フローも影響を受けたのである。具体的には次の通りだ。

財政検証では、保険料収入は、09年度23.8兆円、10年度24.7兆円、11年度26.2兆円と見込まれていた。しかし、実績は、それぞれ22.2兆円、22.7兆円、23.5兆円だった。他方で支出は、検証では35.8兆円、36.7兆円、37.8兆円と見込まれていた。しかし、実績は、それぞれ38.8兆円、40.1兆円、39.7兆円だった。

つまり、保険料収入の実績は検証の見通しより約1割少なく、他方で支出は見通しより約1割多くなったのである。したがって、収支は、検証に比べて単年度で約5兆円も悪化したわけだ。09年度からの3年度だけで15兆円も悪化したことになる。

仮に5兆円の悪化が今後も続くとすれば、積立金は今後急速に枯渇する。「100年安心年金」がすでに看板倒れになっていることは、明らかなのだ。

公的年金は放置して企業年金には拠出強制

将来の見通しを正確に捉えるには、一定の仮定の下でシミュレーション計算を行うことが必要だ。それを行うと、30年ごろに積立金がゼロになるとの結果が得られる(拙著『日本を破滅から救うための経済学』を参照)。「100年安心」が20年も持たないのは、なぜなのか?。

一番大きな理由は、検証における賃金の伸び想定が高過ぎることだ。実際にはそれを大幅に下回るため、保険料収入が不足するのである。

財政検証は、09年度、10年度、11年度の賃金上昇率を0.1%、3.4%、2.7%としている。ところが、実績(現金給与総額の伸び率)は▲3.8%、0.6%、▲0.2%である。

経済危機直後の乖離はやむを得ないとしても、検証は16年度以降の名目賃金上昇率を2.5%としている。これが実現できないことは明らかだ。09年度の積立金の減少は、額は大きかったが1回限りの現象だ。それに対して賃金伸び悩みによる保険料収入の伸び悩みは、これからも毎年継続する。したがって、結果に大きな影響を与えるのである。検証は、「100年安心」という結論に合うように賃金上昇率を設定しているにすぎないのだ(なお、積立金が少なくなるので、運用利回りを上げても、あまり効果はない)。

民間の企業年金は、積み立てが不足すれば強制的に拠出を求められる。そのために倒産に追い込まれる企業も多い。それを避けようとして高利運用を求める。その結果、AIJ投資顧問のように高利を売り物にする運用会社が現れる。運用担当者としては、実現できないとわかっていても、高利を約束してもらえば改善計画ができるので、飛びついてしまう。

ところが、政府の場合には、このような巨額の不足が発生しているのに、何もしていない。それどころか、目を覆わんばかりの粉飾によって、問題の先送りを行っている。

それを象徴するのが、基礎年金国庫負担財源問題だ。これは、企業年金の企業拠出に相当するものだ。04年の年金大改正の際に、恒久財源の確保を前提として、負担率を従来の3分の1から、2分の1に引き上げた。しかし、自民・公明両党は、この問題を棚上げし、財源確保を先送りしてきた。

民主党政権になって、10年度は「財投余剰金」が充てられた。いわゆる「埋蔵金」で穴埋めしたわけだ。11年度は「鉄道・運輸機構余剰金」等で賄われることになった。しかし、これは、第1次補正予算で復興財源に使われてしまった。そして、第3次補正で復興債で手当てされた。

12年度は、当初は、発行時に借金として計上しなくて済む「年金交付国債」で賄うこととし、法案を国会に提出していた。しかし、野党が反発し、6月に行われた「社会保障・税の一体改革に関する3党合意」において、年金交付国債は法案から削除された。

7月、将来の消費増税を償還財源とする「年金特例公債(つなぎ国債)」の発行で賄うよう修正がなされた。消費税を増税したときは、ただちにこれに充当することとされている。しかし、来年度予算では、消費税増税分の税収はない。7月の閣議決定では、再びつなぎ国債で手当てすることとされている。

「恒久財源の確保」は、法律で要求されていた事項だから、10年近くにわたって政府は法律違反を犯してきたことになる。日本の政府は、すでに法治国家の政府とは言えない存在となっているのだ。

Comments

comments

Powered by Facebook Comments