貿易赤字拡大をめぐるいくつかの誤った見方

財務省が10月22日に発表した貿易統計によると、2012年度上半期(4~9月)の貿易収支は、3兆2190億円の赤字となった。これは、11年度の上半期に比べて約9割の増加だ。半期ごとの金額では、過去最大だ。

この原因は、LNG価格の上昇によって輸入が増えたことと、輸出が減少したことである。日本の最大の輸出先である中国に対する9月の輸出は、対前年比14%減という大幅な減少となった。日本経済をめぐる環境に、大きな変化が生じていることは間違いない。

しかし、一般に言われることの中には、必ずしも正確でないことが多い。

一つ目は、赤字拡大の原因に関わるものだ。中国に対する輸出減の原因として、反日運動が挙げられる。しかし、この影響は、無視はできないものの、多くの人が感じているほど大きくはない。

そう考えられる第1の理由は、対中輸出の対前年割れは、11年4月から継続していることだ(11年6、8、9月、12年5月を例外として、毎月対前年割れ)。つまり、反日運動が高まる前から、対中輸出は減っているのだ。

第2の理由は、最終消費財の輸出は増えていることだ。9月の前年同月比は、食料品100.7%増、テレビ受像機73.3%増、科学光学機器2.5%増などとなっている(ただし、以上は9月の統計から読み取れることであり、10月の統計でこれらが減少する可能性はある)。

日本から中国への輸出は、以前から中国輸出産業に対する資本財(部品などの中間財や機械などの投資財)が多かった。それが今回大きく減っているのだ。それは、日中関係の悪化というよりは、それとは別に中国経済で生じている変化による面が大きいと考えられる。

ユーロ安による輸出減でなく対中直接投資滅少の影響

では、「中国経済に生じている変化」とは何か? 一般に言われているのは、ユー口安による中国の輸出伸び悩みである。確かに中国の輸出は減速しており、しかも、対EU輸出が他地域より大きく落ち込んでいる。

しかし、中国の輸出産業の生産変化が原因なら、日本からの輸出は、それに比例して変化するはずだ。ところが、現実には、中国の輸出は、伸び率は低下したものの、増加が続いているのだ。それにもかかわらず、日本から中国への輸出は減少しているのである。

したがって、日本の対中輸出の減は、中国輸出産業の生産の変化というよりは、投資の変化の影響を受けている可能性が強い。このことは、日本の対中輸出のうち、原材料、部品などと、機械などの投資財を比べることによって確かめられる。9月の前年同月比を見ると、次の通りだ。

前者のグループでは、原料品7.2%減、自動車部品17.5%減、電算機部品13.2%減、ベアリング18.5%減などとなっている。

これに対して、投資財は、一般機械29.1%減、原動機48.7%減、バス・トラック87.9%減、建設用・鉱山用機械73.0%減、荷役機械53.7%減、ポンプ・遠心分離機33.1%減などと、大幅な減少だ。

このように、原材料や部品など、輸出産業の生産活動に関連する財の輸出は10%台の減少率であるのに対して、機械やトラックなど投資活動に関連する財の輸出は、20~80%台の減少率を示しているのである。

この差は重要である。これから推察されるのは、日本の対中輸出の減少の原因は、中国輸出の伸び悩みではなく、投資活動の減少だということだ。

では、なぜ投資が減少しているのか? その原因として考えられるのは、中国向けの直接投資(FDI)の伸び率が急激に低下していることだ。ただし、それは、中国の賃金上昇などの影響ではない。なぜなら、投資国によって大きな差があるからだ。すなわち、11年においては、欧州主要国やアメリカからの直接投資が前年比20%を超える大幅な減少を示しているのに対して、日本とドイツからの直接投資は増加している(日本49.6%増、ドイツ21.8%増)。前者は、ユーロ危機をきっかけとした投資家の「リスクオフ」行動によるものであり、後者は、安全な投資先国と見なされている両国に資金が流入しているからだ。

このように、ユーロ危機の影響は、為替レートの変化(ユーロ安)を通じる貿易の変化というよりは、リスクオフ行動による世界的な資金の流れの大変動という形で生じている。その一環として新興国への直接投資の伸び率低下があり、それが中国の投資活動を低下させているのだ。

このことの政策的な含意は大きい。なぜなら、為替介入して円安を実現しても、日本の対中輸出が増えることはないからだ(対中直接投資についての詳しい分析は、ダイヤモンド・オンライン第38、39回で行ったので、それを参照していただきたい)。

経常収支黒字縮小は国債消化に影響しない

貿易赤字拡大をめぐる誤解の二つ目は、日本の貿易赤字拡大がもたらす結果に関わるものだ。

「貿易収支の赤字が拡大すると、経常収支の黒字が縮小し、国債消化が困難になる」との意見がある。この意見はかなり一般的であり、大新聞の記事の中にも見られる。

しかし、この意見は誤りである。

これについても、ダイヤモンド・オンラインで論じた。誤りである理由は二つある。簡単に言えば、次の通りだ。

第1の理由は、単年度のフローのバランス(国民経済計算の貯蓄投資バランス)で言えば、経常黒字減と整合的なのは、財政赤字の拡大であることだ(国内の過剰貯蓄は、経常黒字と財政赤字の和に必ず等しいからである)。

第2の、現実的な観点からより重要な理由は、金融取引(資本収支)の存在を忘れていることだ。

経常収支の黒字が縮小しても、あるいは赤字になっても、海外からの資金流入があれば、それによって国債の消化ができる。事実、アメリカは、巨額の経常収支赤字を続けながら、国債の消化でこれまで問題を起こしていない。これは、世界の投資家が、「アメリカ国債がデフォルトを起こすよすなことはない」と信じているからだ。

日本でも、11年に貿易収支が赤字化し、経常黒字は減少した。それにもかかわらず、資本収支は大幅な黒字(資金流入)となったのである。そして、国債利回りは極めて低い水準になっている(さらに、対外直接投資が増えている。11年における日本の対外直接投資の急増は、対中国に限定されたものではない)。これは、ユーロ危機による「リスクオフ」行動で、世界の投資資金が安全な投資対象と見なされている日本国債に流入しているからだ。

「外国人投資家の保有比率が高まると国債市場が不安定化する」との意見がある。しかし、アメリカでも日本でも、少なくともこれまでのところ、そのような現象は起きていない。重要なのは、世界の投資資金を引き付けられる魅力を日本が持つことだ。

それは、「国債は将来も確実に償還される」との信頼を投資家に与えることだ。日本が強い産業を持つことで、それが可能になる。その産業は、輸出産業である必要はない。サービス産業であっても、一向に構わない。新興国との関係を考えれば、その方向を目指すほうが合理的である。

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