絶好調の米企業と低迷する日本企業

8月の鉱工業生産指数は、前月比マイナス1.3%と、2ヵ月連続の低下となった。前年同月比では4.3%の低下だ。

この主たる原因は、対中国輸出が急減少していることだ。2010年10月にピークに達した後、ほぼ傾向的に減少してきた中国向け輸出は、今年8月には9662億円で、前年同月比で約1割の減少となった。

中国の反日運動の影響が表れれば、マイナス幅はさらに拡大するだろう。こうしたことを背景として、9月調査の日銀短観では、大企業製造業の業況判断DIが、3四半斯ぶりに悪化に転じた。

もっとも、日本企業の不調は、最近になって新たに生じた現象ではない。以前から継続していることだ。法人企業統計によると、11年の全産業(金融保険業を除く)の経常利益は対前年比3.5%の増加にとどまった。製造業では、マイナス6.1%だった。営業利益の対前年比は、全産業で0.3%減、製造業では12.8%の減だった。

こうした情勢を反映して、株価は低迷している。最近の日経平均株価は、07年6月ごろ(1万8000円台)の2分のI程度の水準にまで落ち込んでいる。

他方、アメリカ企業の収益が絶好調であることを前回述べた。これは、マクロ的な計数でも確かめることができる。すなわち、国内産業の利益は、12年第1四半期で、対前年比34.9%の増加を示し、過去最高となった(それまでの最高は、06年第3四半期)。注目すべきは、製造業が同68.7%増と、高い伸び率を示していることだ。中でもコンピュータは、91.0%増という極めて高い伸び率だ。

好調な企業利益は、株価を引き上げている。ダウジョーンズ指数は、過去最高である経済危機前の07年秋の水準に迫りつつある。新興企業の動向をより強く反映するナスダック指数は、今年初めにすでに07年秋の水準を超えており、現在ではそれより9%ほど高い(ただし、ナスダック指数の過去最高は2000年に記録されており、現在はそれにはまだ及ばない)。

このように、日米経済のパフォーマンスには、最近大きな差が生じつつある。ところが、この現象は、なぜか日本では注目されていない。そして、「アメリカは駄目になった」という論調が多い。事実はまったく異なるのである。

絶好調のアメリカ企業と日本企業の差はどこに?

なぜ日米企業の間に、このように大きな差が生じているのか?

日本企業が不調なのは、円高、法人税、政府の成長戦略の不在などの「6重苦」のためだと言われる。

しかし、これらに関して、日本企業がアメリカ企業に比べて格別不利な立場にいるとは言えない。まず、ドルは、経済危機後減価してきたが、この1年くらいの期間では増価している(名目実効レートは、09年1月の109から11年6月には95.3まで減価した。しかし、12年6月には102.2になった)。

法人所得課税の実効税率は、日本(東京都、11年度改正後)35.64%に対して、アメリカ(カリフォルニア州)40.75%と、アメリカのほうがかなり高い。しかも、これは法人税を支払う企業の表定税率であり、日本では法人税を支払っていない企業が7割程度もある。そして、租税特別措置を考慮すると、日本の負担率はさらに下がる。

そして、アメリカ連邦政府の成長戦略は、失敗続きだ。オバマ大統領は、選挙時に「グリーンニューディール」政策を公約としたが、実際には太陽光発電会社の破綻が続いている。政府や政治が産業政策に関して無能である点は、日本でもアメリカでもあまり差がない。

もちろん、アメリカ経済は問題を抱えている。前回述べたように、好調な企業業績が雇用改善につなかっていない。ただし、アメリカ企業が目覚ましい成長をしているのは事実なのだから、それを認識し、その理由を知る必要がある。

最大の差は、新興国との向き合い方の差にある。日本は、最初、新興国と製造業の生産の面で張り合おうとした。しかし、コスト面で到底太刀打ちできなかった。そして、経済危機後は、対米輸出の減少を新興国向け輸出で補おうとしている。つまり、新興国の需要に依存する体質となった。本稿の冒頭で見たのは、そのために日本経済が振り回されている姿である。

これに対してアメリカは、新興国を利用している。それは、アップルの生産方式に典型的に表れている。新興国に依存するか、あるいは利用するか。この差は大きい。ビジネスモデルのこの違いこそ重要だ。企業利益の差は、それを反映したものだ。

日本の最近の経済停滞は、中国リスクの顕在化だと言われる。しかし、アメリカにそれと同じ意味での中国リスクはない。アップルの生産が止まって困るのは中国だ。

得意なはずの工学教青でも日本が立ち遅れる

上で見たように、アメリカで伸びているのは、サービス業とは限らない。製造業、特にコンピュータが著しい伸びを示している。しかし、こうした産業は、統計上は製造業とされても、アメリカ国内における業務の実態は、サービス業とあまり変わりはない。事実、アップルは製造業だが、工場を持っておらず、その活動はサービス業とあまり変わりがない。

その半面で、グーグルは広告業だが、従来型の広告代理店とは全く異なるエンジニアリング的活動を行っている。

このように、製造業とかサービス業とかいう区別が、あまり意味がないような新しい経済活動が伸びているのである。

これらの産業における業務の多くは、ルーチンワークではない。だから、人材力が重要だ。特に、ルーチンワークを効率的にこなす能力ではなく、新しいものを生み出す能力が重要だ。

しかし、日本はこの面で大きな問題を抱えている。先日発表されたTHE(夕イムズ(イヤーエデュケーション)の世界大学ランキング(12~13年版)で上位50校に入ったのは、日本では東京大学1校しかない(27位)。ほとんどは、アメリカの大学だ。

大学だけが人材養成の場ではないし、ランキングに一喜一憂するのも問題だろう。しかし、ここに表れている傾向を無視することはできない。

私か特に危機感を持つのは、工学教育だ。伝統的なヨーロッパの大学では、自然科学の研究・教育は大学で行われていたが、工学部はなかった。工学部が大学にあるのは、日本の特殊事情だった。そして、ここに優秀な学生が集まったことが、日本の高度成長を支えた。とりわけ、「科学産業」と言われた半導体において、それが顕著だった。

ところが、THEのランキングでは、「技術・工学」(engineering and technology)の分野で、上位50校に入った日本の大学は3校しかない。この分野でも、ほとんどはアメリカの大学だ。

東京大学が28位だが、アジアでこれより順位が上の大学が4校もある。工学教育でも、いま日本が強いわけではないのだ。

日本の大学がアメリカに大きく立ち遅れる理由は、日本企業が高等教育における教育成果を重視していないことだ(企業は、採用の際の資料として学歴を見るだけである)。

「6重苦」などと寝言を言っている間に、競争力の基本的な源泉がどんどん枯渇しつつある。

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