原発依存度だけの目標設定は無意味

「政策を評価するには、提案者に対して適切な質問をしなければならない」と前回述べた。政策提案者の側から見れば、「政策の策定に当たっては、問題を正しく設定しなければならない」ということだ。

政府が先般決めた原子力発電に関する新戦略は、不適切な問題設定の見本のようなものだ。政府は、「2030年における原発依存度を、20~25%、15%、0%のいずれかから選べ」という形で問題を提起した。しかし、この問いに対する答えは、電力需要の総量がどの程度になるかによって、大きく変わるのである。したがって、依存度をいずれかの値に決めても、そのことの意味は、需要総量によって大きく違うものとなる。

過去のデー夕を見ると、総電力需要は、実質GDPにほぼ比例して増えてきた。仮に実質経済成長率が1%ポイント低くなれば、20年後の経済規模はほぼ2割少なくなるので、電力需要も2割程度少なくなる。

例えば、「原発依存度を15%」にすると決めたものとしよう。その場合には、今後とも原子力発電施設の整備を進めることとなる。しかし、経済成長率の実績が想定に比べて1%ポイント低くなったとすれば、電力需要は約2割減る。したがって、原発が担当すべきとされていた電力は、不要になるわけだ。

だから、原子力以外の発電量を変えなくとも、原発依存度をゼロにすることができる。つまり、脱原発が、格別の努力なしに自動的に達成されてしまうことになる。そして、整備してきた原発施設は、結果的には過剰投資となる。

このように、需要総量についての合意なしに原発依存度だけを目標にするのは、無意味なことである。その目標が経済にどの程度の負担を与えるのか、実現にどれだけのコストが必要なのか、等々は、電力総需要に依存するため、はっきり決まらないのだ。

脱原発は本当に難しい目標か?

政府が決めた依存度ゼロ目標に対しては、経済界が強く反対している。「これでは経済活動に必要とされる電力が得られない」というのがその理由だろう。

しかし、右に述べたことから明らかなように、現実の経済成長率が想定値より1%ポイント低ければ、火力や再生可能エネルギーの割合を15%目標の場合の値にしたままで、脱原発が自動的に達成されてしまう。だから、15%を目標にした場合に比べて、格別の負担増にはならない。

たとえて言えば、日本の経済界は、対岸まで潜水で泳ぐことを求められて、「そんなことをしたら、息が詰まって死んでしまう」と駄々をこねている子どものようなものだ。息が詰まるかどうかは、対岸までの距離による。もし対岸がわずか数メートル先なら、息が詰まる心配はない。日本の経済界は、距離の測定をせずに(つまり、目標達成のための負担を正確に評価せずに)反対しているのだ。

もちろん、基本的な責任は、電力総需要量に関する合意を取らずに、発電比率だけを問題としている政府にある。政府は9月中にもエネルギー基本計画を策定するとされているが、それに対してまず問題とすべきは、「電力総需要量の想定は、合理的と言えるか?」だ。

なお、経済界が原発依存度ゼロに抵抗するのは、もう一つの理由がある。それは、電気料金の上昇を抑えたいからだ。確かに、福島原発事故以前のコスト計算式を用いれば、原発依存度の引き下げによって発電コストは上昇する。しかし、その計算は、原発の安全性確保策を十分に織り込まない時代のものだ。十分な安全対策のための費用や燃料再処理費用を含んだ式で計算すれば、今後の原発依存度引き下げが発電コストを上げるとは限らない。

発電コストが今後上昇するのは不可避である。しかし、それは、主として原発事故の賠償や除染費用など、福島原発の事故処理費から生じるものだ。これは、将来の原発依存度をどのように設定しても、それとは無関係に負担せざるを得ない費用だ。過去の原発費用の見積もりが低過ぎたのを。これから修正するということなのである。なお、負担を電気料金に転嫁せず、公的な負担で行うとしても、国全体で負担が生じることに変わりはない。

今後の日本経済はマイナス成長の可能性が高い

政府は「日本再生戦略」(12年7月31日閣議決定)において、20年度までの平均で、名目3%、実質2%の成長を目指すとした。今回の原発依存度の議論においては、政府のエネルギー・環境会議が6月に公表した選択肢で、実質成長率を10年代1.1%、20年代は0.8%と設定した。この二つは整合的でないが、エネルギー・環境会議の示す成長も実現できない可能性が高いのである。

大きな理由は、労働力が増加しないことだ。日本の15~64歳人囗は、10年の8173万人から、30年の6774万人へと、約17%も減少する。これは、年率で言えば、0.94%の減少だ。したがって、労働力率にかなり大きな変化が生じない限り、労働力人囗の減少は避けられない。資本蓄積や技術進歩の貢献があるので、経済成長率への影響はある程度は緩和されるが、どれだけ期待できるかは疑問だ。

実際、経済全体で年率1%の成長とは、15~64歳人囗1人当たりで言えば、年率約2%の成長である。これだけの成長を実現できるだろうか?

過去のデータを見ると、2000年から10年までの間に、15~64歳人囗は約6.2%減少し、実質GDPは7.7%増加した。つまり、15~64歳人囗1人当たりで言えば、年率約1.4%の成長だ。経済全体の成長率と15~64歳人囗1人当たりの成長率の関係が将来も変わらないとすれば、将来は、経済全体としてはマイナス成長になる。

電力需要に影響を与える要因としては、この他に産業構造がある。製造業は電力多使用産業であるため、その比重が低下すれば、電力需要は減少するのである。過去のデータを見ると、付加価値当たりの電力使用量は、製造業はサービス産業の3.4倍だ。

製造業の比率は、これまで低下してきた。現在も、生産拠点の海外移転が著しいスピードで進んでいる。今後もこの傾向が続き、GDPに占める比率が10%程度まで下がるのは、大いにあり得ることだ。これらの数字を用いて計算すると、GDPが同じであっても、産業用の電力需要は12%程度減少するとの結果が得られる。

また、電力利用に関する構造変化もある。これまで、電力使用量を増加させてきた大きな要因として、家庭用や業務用のエアコンの普及とIT機器の導入がある。今後は、これらに起因する電力需要の増加は頭打ちになるだろう。

さらに、技術進歩による火力発電の効率上昇も期待できる。とりわけ、カスタービンの効率上昇は目覚ましい。これによって、燃料輸入や温暖化ガスの発生を抑えつつ、火力発電量を増加させることも可能だろう。これ以外にも、発電技術の進歩や電力利用の効率化によって原発依存度を引き下げることは可能だ。

なお、以上で述べたこと以外にも、原発について議論すべきことはある。その一つは、使用済み燃料の再処理問題だ。しかし、「再処理が必要だから原発を続ける」というのは、目的と手段を取り違えた議論であり、本末転倒だと思う。これは、原発依存度とは切り離して議論すべき問題だ。

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