中国成長鈍化の原因は輸出でなく投資の減速

中国経済の減速が目立つ。中国国家統計局が発表した2012年4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、前年同期比7.6%と、6四半期連続で鈍化し、リーマンショック後の09年以来、約3年ぶりに8%の大台を割り込んだ。

その原因として一般に言われているのは、輸出の減速である。しかし、この解釈には疑問がある。その理由を説明しよう。

中国の輸出が減速しているのは事実である。今年上半期の輸出は、前年同期比9.2%増と、1桁台の伸びにとどまった。最大の貿易相手である欧州連合(EU)向けの輸出は、ユーロ安のために0.8%減と低迷した。

しかし、GDPの伸びに影響するのは、輸出総額ではなく、貿易黒字(ネット輸出)だ。これも減速しているのは事実である(11年は前年比4.2%減)。しかし、貿易黒字が名目GDPに占める比率は、11年で3.3%にすぎない。したがって、仮にそれが4.2%減少しても、名目経済成長率を0.1%程度押し下げる効果しかない。

中国の場合、経済成長に最も大きな影響を与えるのは、GDPの半分近く行年は48.3%を占める投資支出である。そして、実質資本形成総額の伸び率は低下している(09年の8.4%から10年の5.6%へ。さらに11年には5.0%になった)。

したがって、投資支出にかかわる乗数をaとすれば、経済成長率は10年の5.6a%から11年の5a%に低下することになる。aが2程度の値であれば、成長率は1.2%ポイント落ち込むわけで、これは現実に起きていることと一致する(実質経済成長率は、10年の10.4%から11年の9.2%に減速した)。

資本形成についての最近の数字はわからないのだが、経済成長率の落ち込みは、投資の成長率が引き続き低下していることによって引き起こされた可能性が高い。

投資支出が減速しているのは、第1には10年以降行われてきた金融引き締めのためである(利上げは10年10月以降、預金準備率の引き上げは、10年11月以降に実施)。第2には公的投資の減速のためだ。

経済成長率が低下しているので、中国人民銀行は、今年の6月、約3年半ぶりの利下げに踏み切り、さらに追加の利下げを実施した。政府も、エコ家電やエコカー購入補助策を実施したり、公共投資の前倒しを指示するなど、景気の下支えに動いている。しかし、かつてのような大規模な景気浮揚策は取れない。それは、次に述べるように、景気浮揚策の後遺症があるためだ。

2000年代3大バブルはいずれも崩嫌した

08年のリーマンショツク後、中国は4兆元(約50兆円)という巨額の景気浮揚策を行った。その結果、世界各国の景気が大きく落ち込む中で、中国は8%を超える実質経済成長率を実現してきた。しかし、それは中国経済に大きなひずみをもたらした。

第1は、不動産バブルだ。大都市の住宅価格は、年収の10倍超と、普通の勤労者の所得で購入できる限度をはるかに超えて高騰した。

第2は、不良債権の増加だ。景気刺激のための投資の多くが、地方政府が設立した都市インフラ開発公社によって行われ、資金の多くは銀行借入れによって調達された。したがって、不動産バブルが崩壊すると、債務償還が履行されず、銀行が不良債権を抱え込む。中国政府は、これが大きな問題ではないと繰り返し表明している。しかし、事態は深刻である可能性もある。

仮に不良債権が重大でないとしても、拡張政策を際限なく続けられないことは明らかだ。だから、金融引き締めは解除するにしても、かつてのよすな大規模な金融緩和はできない。

中国の投資が減速するいまひとつの原因は、ヨーロッパソブリン危機の影響で、世界の投資マネーが「リスクオフ」に走り、新興国から資金を引き揚げていることだ。

実際、中国の株価の動向はさえない。上海総合指数は、07年に6124という最高値を記録したあと下落し、リーマンショック後には2000を割り込んだ。その後回復したが、11年初めごろから再び下落し、最近では2000に近づいている。

振り返れば、21世紀になってから、世界に三つの大規模なバブルが発生した。

第1は、アメリカの住宅バブルだ。アメリカの住宅価格は、07年夏にピークになり、その後下落した。それに伴って、サブプライムローンの証券化商品の市場のバブルも崩壊した。これが、リーマン・ブラザーズの破綻に至るアメリカのバブルとその崩壊だ。

第2は、スペインやアイルランドなど、ヨーロッパにおける住宅価格バブルである。それが崩壊したため、銀行に不艮債権が発生し、それが両国の国債金利を高騰させた。そして第3が、中国における不動産バブルである。

これらは、独立に起こったものでなく、相互に関連している。そして、これら三つのバブルは、いずれも崩壊した。

中国成長減速の日本への影響は?

中国経済の減速が日本に与える影響は何か?

第1は、対中輸出の減少だ。貿易統計によって日本の対中輸出を見ると、12年上半期は5.8兆円であり、い11年上半期より8.6%ほど減少している。

第2は、市場拡大の減速、とくに自動車市場のそれだ。12年上半期の新車販売台数は、前年同期比2.9%増にとどまった。これは、東日本大震災の影響で生産に支障が出た昨年同期の伸び率(3.4%)を下回っている。いまや日本の自動車メーカーにとって中国市場は生命線なので、これも大きな問題だ。

以上はしばしば指摘される。それらに加えて、次の二つも大きな問題だ。

第1は、中国の成長が鈍化するため、投資資金が中国に流れ込まなくなることだ。他方で、世界的な金融緩和は続いている。したがって、投資資金はどこかに流れる。いま起きているのは、アメリカと日本、ドイツの国債に対する投資の増加だ。

これらは安全な資産と見なされている。確かに、国債は満期まで保有すれば、額面通りの償還がなされるという意味で、安全だ。その点で、住宅や証券化商品に対する投資とは違う。しかし、短期資金でファイナンスされている場合、市況が変化すると、売却が急増する場合がある。イタリアで起きていることが、まさにそれだ。

現在までのところ、日米独には資金流入が続いているので、金利は低下し、問題は起きていない。しかし、これは、明白に「国債バブル」だ。何らかのきっかけで国際的な資金の流れが変調すれば、バブルが崩壊して金利が暴騰する危険がある。ここ数年のレンジで見た場合には、これが日本経済における最大の問題だ。

長期的な観点から重要なもう一つの点は、中国での失業増加に伴う社会不安の増大である。薄煕来氏の事件で、指導者層の権力を用いた私財蓄積が暴露されつつある。所得格差の拡大は、極めて深刻な問題だ。しかし、中国の場合、それが中国政府に対する抗議の形では顕在化しにくい。不満のはけ囗は、対日感情の悪化となって表れる。すでに日本大使車の襲撃事件、尖閣諸島事件のような形で発生している。

中国の指導者は、今年秋、交代する。新しい指導者には、極めて困難なかじ取りが要求されるだろう。

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