円高で追詰められた日本は何をすべきか

株価下落と円高が止まらない。株価下落の原因は、「アメリカの景気後退で日本の輸出が減るからだ」と言われる。つまり、「アメリカがおかしくなったので、とばっちりで日本が迷惑している」というわけだ。

確かに、アメリカの景気後退は日本の輸出額を減少させるだろう。過去数年の日本のGDPの伸びが輸出の増加に支えられていたのは事実だから、輸出が減少すれば、景気にも悪影響が及ぶだろう。しかし、アメリカに対する輸出は、日本の輸出総額の23%程度であり、GDPに対する比率では3%程度でしかない。したがって、仮にそれが1割減少しても、GDPの0.3%程度の影響しかないだろう。

株価との関連で問題となるのは企業収益であり、それには為替レートが大きな影響を与えている。日本の株価はこれまでも為替レートに大きく影響されてきたが、昨年夏以降の両者は、ほぼ完全に連動している。

これを具体的なデータで確かめてみよう。「円高が1円進むと、トヨタ自動車の営業利益は年350億円減少する」と言われる。同社の2007年3月期の営業利益は、連結ベースで2兆2386億円だ。ところで、昨年7月初めに比べると約22円の円高が進んでいるから、営業利益は34%程度減少したことになる。他方で、同社の株価は昨年7月の7780円から最近の5200円まで33%低下した。したがって、「為替レートが株価を決める」という関係がほぼ成立していることになる。

インターネットのあるサイトに、「保有しているグローバルソブリン債が暴落してしまった。この基準価格は日本の株価に連動しているのか?」という記事があった。言うまでもないことだが、この基準価格は株価ではなく為替レートに連動している。しかし、日本の株価はほぼ為替レートと同じ動きを示すので、グローバルソブリン債の基準価格が株価に連動しているように見えてしまうのである。

昨年夏以降の株価下落は、サブプライムローン問題が引き金になって国際的投機資金の流れが変わり、これまでの異常な円安が正常なレベルに戻りつつあることによって引き起こされている。つまり、株価下落の主要な原因は、「無理のある円安をこれまで続けてきた」という日本側の事情なのである。

だからこそ、日本株のほうが下落が激しいのだ。現在の日経平均株価は、今年初めの89%の水準まで下落しており、昨年7月初めに比べると69%だ。これに対して、アメリカのダウ平均は、それぞれ93%と86%である。

過去数年間、長期的には継続しえない円安バブルに支えられて、日本はなんとか景気回復を実現できた。しかし、そのバブルは崩れた。現在起こっているのは、バブルがなければ実現していたであろう状態への回帰にすぎない。遅かれ早かれそうなっただろう状態が、サブプライム問題をきっかけにして現実化しているにすぎないのだ。これを「アメリカの影響だ」というのは、「問題は日本の経済政策でない」との責任転嫁である。

以上は、これまで本欄で繰り返し述べてきたことだが、この状況はますます顕著になっている。

サブプライム並みの損失が円高ですでに発生

円高の影響は、貿易だけではない。なぜなら、日本の対外資産の多くがドル建てだからだ。したがって、円高による含み損は、かなり深刻なレベルにまで膨張している。これについては、本連載の第394回で指摘したが、そのときに比べて損失は拡大している。

特に深刻なのは、現在約105兆円に上る外貨準備だ。この大部分は03年頃に行なわれた大量のドル買い介入によって積み上がったものだが、当時の為替レートは1ドル110~120円程度だったので、現在のレートでは10兆~20兆円の含み損が発生しているはずである(17兆円程度との報道もある)。

米財務省の次官補が3月初めに講演したところでは、サブプライムローン関連の全世界の金融機関の損失額は、約2000億ドル(約20兆7000億円。このうち半分が米国の金融機関の損失。なお、OECDは最終的な損失額を3000億ドルと推計している。また、4000億ドルに達するとの報道もある)だ。これに匹敵する額の損失が、外貨準備だけですでに日本で発生していることになる。

それだけではない。対外資産全体について、同様の問題がある。06年末における日本の対外資産残高は約558兆円だが、証券投資278兆円のうち約半分がドル建てだ。この取得原価がわからないので正確な評価はできないが、数十兆円の含み損が発生している可能性は否定できない。

これらは含み損であって現実化した損失ではないから、その影響はただちに目立ったかたちでは表れない。しかし、日本の資産がそれだけ失われたことは事実である。

1990年代のバブル崩壊によって、日本の金融機関は巨額の損失を被った。金融庁の資料によれば、全国銀行の92年から06年までの不良債権処分損の累計は、約97兆円である。この数分の1の規模の損失が、これまでの円高ですでに発生している可能性がある。今後も円高が進めば、損失額はさらに拡大するだろう。

しかも、不良債権処分損は、国全体としての損失ではなかった(金融機関は損失を被ったが、他方で借手は利益を受けたからである)。しかし、対外資産の損失は、日本全体としての損失である。しかも、日本の対外資産の多くが債券だ。

だから、アメリカの金利引き下げは、二重の意味で日本に損失をもたらす。第1に、それが円高を加速する。そして第2に、それによって日本が保有するドル債券の金利収入が減少する。

産業構造を変えるしか方法はない

現在の日本が置かれている状況を、第404回で述べた「ビッグマック指数」の数字を用いてもう一度示してみよう。

東京で276円であるビッグマックが、ニューヨークでは3.49ドルだ。現在の為替レートだと、東京で買ったものをニューヨークで2.7ドルで売れるから、約79セントの利益が得られる。東京都ニューヨークの価格を等しくする為替レートは、1ドル79円だ。

1ドル79円のレートでニューヨークで2.7ドルで売るには、厳しいリストラによって生産コストを切り下げ、日本での価格を213円にする必要がある。こうなれば、当然賃金もカットされる。これが円高不況にほかならない。

こうした状況を避けるために現在の為替レートを維持するには、為替介入する必要がある。しかし、この方策は、これまでのことを繰り返すだけで、本質的な解決にはならない。円安介入に当たって多くの人が心配しているのは、「国際社会の理解を得られるか?」といことのようだが、その前に問うべきことは、「日本経済のためになるか?」ということなのである。

つまり、日本経済は円高によって追詰められていることになる。では、解決策はないのか? そんなことはない。経済構造を転換すればよいのである。じつはこれこそが、90年代以降に著しい発展をした国が行なったことだ。

今、株式市場が発しているメッセージは、現在の産業構造では日本は生き延びることができないということなのである。

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