依然として深刻な貿易収支の実態

6月の貿易収支は617億円と、わずかながら黒字となった。しかし、これをもって日本の貿易収支が恒常的に黒字化すると考えることはできない。以下に述べるように、いくつかの要因によって、深刻な実態が隠されているのである。

第1に季節要因がある。6月は冷暖房の電力需要が少なくなるので、例年、発電用燃料の輸入が減る。昨年6月も、貿易収支は645億円の黒字になった。それに比べると、わずかとはいえ、今年の黒字は減少している。そして、季節調整値で見ると、今年6月の貿易収支は、約3000億円の赤字となっている。

貿易収支が楽観できる状態にないことは、2012年上半期の貿易収支が約2.9兆円の赤字になったのを見れば明らかだ。これは、昨年同期に比べて202.7%もの増加だ。上半期だけで、すでに昨年1年間の赤字額約2.6兆円を上回っている。このペースが続くと、12年の貿易収支赤字はかなり大きくなる可能性がある。

このように、6月の貿易収支が黒字になったということよりは、昨年より黒字が減少していること、季節調整値では赤字であること、そして、上半期の赤字がかなり大きいことを重視すべきだ。

次に輸出の内容を見よう。

6月の輸出は5.6兆円で、昨年に比べて2.3%の減少となった。相手国別に見ると、対EU輸出が前年比21.3%減と大きく減少した(ただし、対EU輸出額は約5000億円であり、輸出総額中のシェアは1割に満たない)。

対米輸出は増加している(15.1%の増)が、対中輸出は伸び悩んでいる(7.3%の減)。

品目別には、自動車部品の輸出が前年比22.1%増という高い伸びを示したのが注目される(対米では57.7%の増)。自動車の最終組み立て工程が海外に移転し、そこへの部品供給を行うものだ。

このように、円建てで見れば、輸出は微減である。今年の3月以降高い伸びを示してきたものが、6月になって頭打ちになったわけだ。ただし、前回述べたように、ドルベースで見れば輸出は増えていることに注意が必要である。円高によって円ベースの受け取りが減っているだけだ。円ドルレートは、11年6月には1ドル=80円程度であったのが、今年の6月には79~80円程度なので、1%強円高になったことになる。輸出額の減少は、ほぼこれに見合っている。

増えるLNGの輸入が貿易赤字の主因

6月の輸入額は約5.6兆円であり、昨年6月の5.7兆円よりは(若干ではあるが)減少した。

こうなった大きな原因は、輸入全体の中で16.7%のウエイトを占める「原油および粗油」の輸入額が、9312億円と、昨年に比べて3.6%増という低い伸び率になったことだ。この背景には、原油価格の下落がある(WTIスポット価格は、今年3月の1バレル106.2ドルから、6月には82.3ドルまで低下した)。

他方で、LNGの輸入は4716億円となり、昨年に比べて24.5%も増加した。言うまでもなくこれは、発電の火力シフトに伴うものだ。

11年6月のLNG輸入額は3789億円だったので、額で言うと、約1000億円の増加である。今年の上半期では、昨年同期に比べて49.2%の増加だ。

LNG輸入額と輸入量の推移を見ると、11年3月の大震災後から急激に増加し、その後も着実に増えている。これは、定期検査によって原子力発電が順次停止してきたからである。月間輸入額は、大震災前には月3000億円程度であったものが、最近では5000億円程度になっている。これまでのピークは、12年3月の5700億円だった。昨年に比べると2000億円の増である。

数量の増加が著しいが、価格を上昇してきた。今年の5月を昨年5月と比較すると、数量では16.8%の増加だが、額では44.3%の増加となっている。一般にLNGの取引は長期取引が多く、価格は安定的と言われてきた。価格がこのように高騰しているのは、緊急に数量を確保する必要があり、短期的な取引に頼らざるを得なかったためと考えられる。

原発再稼働は政治的な要因が強く絡むので、将来を見通すのが容易でない。ただし、現在の基本条件が続く限り、高水準のLNG輸入は継続すると考えざるを得ない。したがって、輸入額全体も高水準のまま推移するだろう。したがって、貿易収支の赤字も継続することになるだろう。

原油価格は今のところ落ち着いているが、将来どうなるかはわからない。仮に上昇すると、輸入額が増加し、その結果貿易赤字が拡大する可能性もある。これまでの原油価格の推移から見て、6月の水準はやや低めである。これが2割程度上昇するのは、十分あり得ることだ。そうなれば、月間原油輸入額は2000億円弱増加する。そして、6月の貿易黒字617億円は吹き飛び、1000億円を超える赤字になる。

経常収支は赤字にならない

しかし、経常収支が赤字化するような事態にはならないだろう。なぜなら、所得収支が巨額の黒字を記録しているからだ。そして、所得黒字は簡単には縮小しないからである。所得黒字は対外資産に利回りを乗じたものであり、ドル建ての対外資産額自体は減っていない。欧米諸国の金融緩和で利回りは低下しているものの、さほど大きな変化ではない。

これまでのところ、経常収支は黒字を継続しており、対外資産は増大している。したがって、所得収支は今後もさらに増大する。

所得収支が約14兆円の黒字、サービス収支が約2兆円の赤字という11年の国際収支構造が変わらないとすれば、経常収支が赤字になるのは、貿易収支の赤字が年間12兆円程度を超えたときである。それはあり得るだろうか?

円高が進めば円建ての輸出額は減少するから、貿易赤字も拡大すると考える人がいるかもしれない。しかし、そうはならない。なぜなら、円高になれば同時に円建ての輸入も減少し、そして、現状では輸入額のほうが輸出額より大きいので、円高によって貿易収支の赤字は縮小するからだ。

では、発電用燃料の輸入増で貿易赤字がさらに拡大するだろうか?

LNGの輸入は、量的に言えば、原発がほぼすべてストップした今年春のレベルが、ほぼピークであると考えられる。したがって、LNG価格が大幅に高騰しない限り、(季節変動を別とすれば)発電用燃料の輸入が現在以上に大きく増加することはないだろう。

ただし、原油価格が高騰すると、輸入増は起こり得る。11年における原油の輸入額は11.4兆円である。仮に原油価格が現在の2倍に急騰すれば、輸入は11.4兆円程度増え、経常収支はほぼゼロになる。

こうした事態が絶対にないとは言えないが、近い将来に起こることもないだろう。だから、経常収支は赤字になるとは考えにくい。

経済のマクロバランスから見ても、経常収支の赤字化は考えにくい。経常収支の赤字は、事後的には、必ず国内貯蓄投資差額における投資超過額(資金不足額)に等しくなる。したがって、経常収支が赤字になるのは、国内で投資が貯蓄を上回るときである。しかし、国内の投資需要は低迷しているので、こうした事態になることは考えにくい。

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