欧州金融危機より日本の問題が心配

ヨーロッパの金融危機は、日本経済にとって大問題なのだろうか?

週刊誌等には、「ヨーロッパの国債が暴落するので、日本の国債も暴落して日本経済は大混乱に陥る」という類いの記事がしばしば掲載される。「これはリーマンショックの再来であり、対岸の火事と思ってはならない」というのである。

しかし、なぜ日本国債にそうした影響が及ぶのかの説明はない。実際には、「日本国債に資金が流入して価格が上昇する」という、まったく逆の現象が起きているのだ。また、日本の銀行がヨーロッパの国債を大量に保有しているということもない。だから、銀行が大きな損失を被ることもない。

リーマンショックのときにも資本移動の大きな変化が起きたが、それは円キャリー取引(円を売ってドルを買う取引)の急激な巻き戻しであり、それによって急激な円高が生じた。そして輸出が減少した。さらに、世界的な規模で金融機能がまひし、貿易が止まってしまうほどの急激なショックが生じた。

このため、輸出、なかんずくアメリカ向けの乗用車の輸出が急減したのである。それは、日本経済の中枢を直撃する大きな衝撃であった。さらに、中国の輸出が減少し、その影響で日本の対中輸出が減少した。対米輸出と対中輸出を合わせると、2008年の日本の輸出の34%を占めていたので、極めて大きな影響があったのである。

今回のヨーロッパ金融危機の余波で、円はユーロに対して増価している。しかし、日本からヨーロッパへの輸出は、EU27力国をとっても、10年において輸出総額の11%程度だ。対ユーロ圏では、8.3%しかない。だから、リーマンショックのときのような大きな衝撃にはならない。

日本の貿易収支が赤字を続けているのは、事実である。しかし、その主たる原因は、対ユーロ圏輸出が減ったことではない。最大の原因は、発電の火力シフトによって燃料輸入が増大していることだ。家電産業の大赤字も、新興国との競争によって生じたものであり、ヨーロッパ金融危機とは関係がない。

このように、日本ではヨーロッパ金融危機とは別に、経済問題が深刻化している。これらは、仮にヨーロッパ危機がなかったとしても、進行していたはずのものである。

結局は産業カの差がモノを言う

経済危機以降の世界経済を見ていると、「危機を克服できるかどうかは、結局は産業力の違いによる」ということを痛感する。

ギリシヤ問題を解決できないのは、同国に見るべき産業がないからだ。そうであるのに、福祉支出等を増やして財政赤字を拡大させた。増税したくとも、産業がないので税収が上がらない。だから、支出カットにならざるを得ない。そのため、受益者から強い抵抗が起きるのだ。

イタリア、スペインは、ギリシヤとはだいぶ事情が違う。しかし、両国の産業が強い国際競争力を持っているとは言い難い。

それに対して、アイルランドにはITや製薬などの強い産業があり、それらは住宅バブルとは無縁だった。このため、金融や財政は危機に陥ったが、経済は回復した。だから、増税すれば税収が上がる。そして、経済も回復する。

アメリカには先端産業がある。金融危機を起こした張本人なのに、回復した。金融機関は公的資金を返済した。IT関連の産業は絶好調だ。

アメリカの問題は、経済の弱さではなく、格差である。先端企業の利益が歴史的な高水準を記録する半面で、失業率は高いままだ。したがって、経済のエンジンは強力なのだが、それによって利益を得るのが一部の人々になっているのだ。

では、日本はどうか? 国債は順調に消化されているが、貯蓄が増えているからではなく、貸し付けが減っているからだ。これは、長期的に見れば、衰退への道である。日本の産業が強いと思っている人が多いが、テレビ事業の大赤字を見れば、基幹部門が稼げなくなっていることがわかる。そして、貿易赤字は拡大している。電力問題は経済力をさらにそぐ。

こうしたことが示すように、経済のエンジンが不調なのである。ある意味では、イタリア、スペインより問題が深刻だ。しかも、危機に陥っても、ユーロ諸国の場合と違って支援してくれる国はない。

ヨーロッパのことを心配するのもいいのだが、日本はもっと自分のことを考えるべきだ。そして、強い産業を持つ努力をすべきだ。

国債はバブル では円高はバブルか?

アメリカの経済危機もヨーロッパのソブリン危機も、1990年代の繁栄の反動である。アメリカやスペイン、アイルランドでは、90年代に経済が活況を呈し、それが行き過ぎて不動産バブルを起こした。その崩壊が経済危機であり、ソブリン危機である。

それに対して、90年代の日本は停滞を続けた。だから、バブルも起きなかったし、その崩壊という問題も起きなかった。衰退が続くため資金需要が発生せず、そのため貸し出しが減って、国債が順調に消化された。財政が破綻的状態になっても、ギリシヤやイタリアのような状態に陥らなかったのは、このためだ。

かくして、日本国債は、「安全な資産」と見なされる。そして、いま、ヨーロッパを逃れた資金が日本に流入し、日本国債の購入に向かっている。このため、円高が進行し、国債の利回りが低下している。

その結果、現在の利回り水準は、資金調達コストを下回るまでに低下した。したがって、現在の国債購入は、値上がり益だけを目的として行われている。ところで、国債の価値を担保するのは将来の徴税能方だけである。しかし、今回の消費税騒動が示すように、日本政府の増税能力には大きな疑問がある。こうした事情の下で国債価格が上昇しているのは、おかしい。これはバブルである。

では、円もバブルだろうか?

「衰退する国の通貨価値が上がるのはおかしい。だから、いまの円高は経済の実態を反映しないバブルである」という意見は、一見してもっともらしい。「円高が日本経済回復の足かせになっている」という意見は、こうした理解からなされているのだろう。

しかし、この意見は誤りである。円の価値は名目為替レートを見てもわからないからだ。各国間の物価上昇率の差を調整した「実質竒替レート」で見る必要がある。これで見ると、現在が格別円高とはいえない。95年と現在を比べると、3割ほど円安である(07年ごろに比べると実質レートでも円高になっているが、「このころが異常に円安だった」と考えるべきだ)。

次のように説明することもできる。90年代の中ごろと現在を比較すると、日本の物価はほとんど変化していないが、アメリカでは年率2~3%程度の物価上昇が続いた。したがって、円の購買力はドルに比べて3割程度高まったはずである。だから、ドルに対しても、円は当時の3割程度高い価値を持たなくてはならない。しかし、実際には名目レートは95年と同じだ。したがって、円の実質価値は3割ほど下落したことになる。

以上のように見れば、百本経済は長期的な衰退過程にあり、実質為替レートも、長期的に見るとそれに合わせて円安方向に動いている」と解釈することができる。為替レートは経済実態を反映しているのである。

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