スペインとイタリア 大き過ぎて救えない

6月17日のギリシャ再選挙で支援策支持派が過半数の議席を獲得したが、これでギリシャ問題が解決できたわけではない。本当の解決のためにはギリシャのユーロ離脱が不可欠なので、解決への道のりはむしろ長くなったと言える。

しかも、ヨーロッパ危機の本当の問題は、スペインやイタリアにある。なぜなら、ギリシャは小国であるのに対して、これらの国の経済規模は大きいからだ。

これまで実際に支援がなされたのはギリシャとアイルランドとポルトガルだが、これらは、2011年のGDPがそれぞれ3030億ドル、2177億ドル、2389億ドルという小国である。それに対して、スペイン、イタリアの11年のGDPは、それぞれ1兆0733億ドルと2兆1987億ドルだ。したがって、対処できるのかどうかという問題が発生してしまう。

まず、これまでの経緯を復習しておこう。ギリシャに対しては、今年2月に、130O億ユーロに上る第2次支援で合意した。今回の選挙は、この受け入れで課された財政緊縮化に関わるものだ。

スペイン問題の原因は、不動産バブルの崩壊で生じた銀行の不良債権だ。危機に陥った大手銀行バンキアは、5月、190億ユーロの資本注入を政府に要請した。スペイン政府だけではこの問題に対処できなかったので、ユーロ加盟17力国が最大1000億ユーロを支援することで合意した。

スペインの問題は、アイルランドと同じく、住宅バブル崩壊による不艮債権である。アイルランドの場合は、アングロ・アイリッシュ銀行の資本不足に対して、アイルランド政府が公的資金を注入し、政府の負担がGDP比40%に達した。10年の政府の財政赤字はGDP比で30%超となり、公的債務残高は約100%に悪化した。これもアイルランドだけでは解決できなかったので、10年11月、EFSF(欧州金融安定化基金)とIMF(国際通貨基金)が、3年で850億ユーロの支援を決定した。

その後、アイルランドは順調に回復した。国内にIT、製薬、金融など国際競争力を持つ産業が存在するからだ。

5000億ユーロ程度が支援額の限度?

スペインでもアイルランドでも、住宅バブルが崩壊したきっかけは、08年秋のりーマンショックだ。住宅が売れなくなり、金融機関は巨額の不良債権を抱えた。建設業を中心に失業者が溢れ、経済悪化に伴う税収減で、財政赤字が急激に膨らんだ。

スペインの住宅価格は、ピーク時から約20%下落した。しかし、アイルランドは60%近く下落したので、それとの対比で考えると、これからさらに下落する可能性がある。では、最終的な必要支援額はどこまで膨らむだろうか?

スペインのGDPはアイルランドの約5倍だ。他方、アイルランドは850億ユーロの支援を受けた。必要支援額がGDPに比例するとすれば、スペインの支援に必要な額は、4000億ユーロを超える。

一般には、スペインの銀行が今後必要とする追加資本は、大目に見ても900億ユーロ程度と言われるのだが、これは過小評価ではないだろうか?

ESM(欧州安定メカニズム)の融資可能額は5000億ユーロとされているが、資本金は分割して払い込まれるため、12年中の支援可能額は、EFSFと合わせて3400億~4400億ユーロ程度にとどまる。IMFの支援枠と合わせても7300億ユーロだ。

スペインだけならこれでも何とか足りるが、イタリアにも危機が波及する可能性がある。そうなれば、必要な支援額は1兆ユーロを超えると予想されている。

では、どの程度まで支援できるのだろうか? 次のような簡単な計算で、おおよその見当をつけてみよう。

アメリカで08年秋のリーマンショック後に行われた公的資金注入は、約7000億ドルだった。08年のアメリカのGDPは14.3兆ドルだったので、これは、GDPの4.9%に当たる。

他方で、ドイツ、フランスのGDPの合計は、4.6兆ユーロだ。ユーロ圏全体では9.4兆ユーロである。この5%と見れば、独仏両国だけなら2300億ユーロ程度、ユー口圏全体で行えば4700億ユーロ程度が支援額の限度なのではないだろうか?

1兆ユーロの対応をするには、ユーロ圏全体でもGDPの1割以上が必要なわけで、政治的にはかなり困難だろう。しかも、アメリカの場合は自国の金融機関に対するものだが、ユー口圏の場合は他国の金融機関だ。

また、危機が生じた場合にはただちに対応しなければならないから、「徐々に資金を積み上げる」ということでは手遅れになる。

ユーロの歪みが引き起こした問題

要支援額がこのように巨額になることから、国際的な協力が必要と言われる。しかし、これは、基本的にはヨーロッパの問題だ。なぜなら、ユーロという仕組みがもたらした問題だからである。

スペイン住宅バブルも、ユーロ導入による歪みが招いたと言える。スペインの金利は、ユーロ導入に向け、ドイツやフランスの金利に、急激に鞘寄せした。ユー口導入前の1995年ごろに12%程度だった住宅ローンの金利は、6%程度にまで下がった。このため住宅口ーンが借りやすくなった。また、金利がインフレ率よりも低くなったので、預金の実質価値が目減りする事態になった。そこで、実物資産や住宅の保有が選好されることになった。

この結果、住宅投資が爆発的に増えた。98年から07年までに500万戸以上の住宅が建築された。年間平均で50万戸で、イギリス、フランス、ドイツの合計以上の戸数だ。マドリッド郊外の普通の住宅が、労働者の年収の20倍以上になった。これは、明らかに高過ぎる。不動産バブルに拍車をかけたのは、外国からの投資だ。また、職を求めてやって来る移民も多かった。

こうした事態に対し、本来なら金利を上げバブルを抑える必要がある。しかしECB(欧州中央銀行)が金利決定権を持つので、そうできなかった。

アイルランドの場合、住宅バブルは、アイルランドの経済成長がもたらしたものであり、スペインとはやや事情が違うが、金利を上げられずにバブルをコントロールできなかった点では同じだ。

では、ユーロによって利益を受けた国はどこだったのか?

一般にはドイツと言われる。そうだろうか? ユーロ安で貿易が伸び、輸出産業は恩恵をこうむったかもしれない。しかし、一般のドイツ労働者にしてみれば、それまでは南欧のバカンスで強いマルクの恩恵を享受することを楽しみにしていたが、ユーロでその楽しみを奪われたわけだ。

結局のところ、ユーロで誰が利益を受けたのかは、明らかでない。その意味で、ユーロは失敗であった。これに固執する必要は、政治的メンツ以外には、ない。ユーロ加入を拒否したサッチャーの判断は正しかったと言わざるを得ない。

ユーロが導入されたとき、「共通通貨があるので、国境を越えても両替をする必要がなくなって便利」と言われた。確かにその通りだが、そのために支払ったコストはあまりに大きかった。

いま金融業界でのはやり言葉は、ギリシャがユーロを離脱する意味の「グレグジット「Grexit」だそうだ。次に流行しそうなのは「スペグジット(Spexit)」だと言われる。

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