回復を妨げるのは輸出減でなく投資減

1~3月期のGDPは、前年同期比2.8%の増加となった。2011年1~3月期以来マイナス成長が続いていたのだが、やっとそれからは脱却したわけだ。

しかし、水準を見ると、08年ごろの水準に戻っただけであって、経済危機前の水準を取り戻すには至っていない。12年1~3月期を07年1~3月期と比較すると、実質GDPは5.3兆円ほど減少している。

他の主要先進国と比べても、日本の立ち遅れが目立つ。株価や企業利益についても、同様の傾向が見られる。日本がこのように立ち遅れている原因は何であろうか?。

それを探るために、上記の期間の変化を需要項目別に見てみよう。まず、最大の需要項目である民間最終消費支出は、この期間に約10兆円増えている。

多くの人は、経済を落ち込ませた最大の原因は、貿易収支の悪化だと考えているだろう。確かに、東日本大震災後、貿易収支は著しく悪化しており、これが「日本経済回復の足を引っ張っている」という意見がしばしば聞かれる。

しかし、実際の数字を見ると、意外なことに、そうではない。上記の期間における実質純輸出(貿易収支黒字の実質値)の減少は2.4兆円にすぎない。実質輸出はあまり減っておらず、実質輸入は名目ほどは増えていないのだ。これは、為替レートの変化や原油価格の動向による。

実質輸出は、ほぼドル建ての輸出額と考えてよい。実際、ドル建てで見ると、日本の貿易収支はあまり悪化していないのである。ジェトロが作成する統計によると、日本のドル建て輸出額は、07~11年の間に15.2%も増えている。「円高は輸出を減らすことによって回復の障害になっている」とよく言われる。しかし、それは間違いだ。ドル建ての輸出は減っておらず、円建ての手取りが減っているだけのことなのである。

なお、01~07年の輸出主導景気拡大期には、これと逆のことが起こった。すなわち、名目値で見た貿易黒字はさほど増加しなかったにもかかわらず、実質の貿易黒字が増大したのだ。01年1~3月期から08年1~3月期の間に実質GDPは480兆円から530兆円へと50兆円増えたが、実質純輸出はマイナス5兆円から21兆円へと26兆円増えた。つまり、GDP増加額の半分以上を占めたわけだ。

このときに名目と実質で乖離が生じた主たる原因は、原油価格の動向だ。すなわち、実質の輸入はさほど増えなかったが、原油価格が上昇したために、名目輸入が増えたのである。

投資が大きく落ち込んでいる

GDPの構成項目のうち、実質値で大きく落ち込んでいるのは、投資支出である。上記の期間において、民間住宅投資が5.3兆円(28.8%)減、民間企業設備投資が10.9兆円(14.1%)減、公的固定資本形成が0.3兆円(1.2%)減となっている。

設備投資が減っているのは、前回のこの欄で述べたように、企業の総資本利益率が低迷しているからだ。それは、東日本大震災や夕イ洪水といった一時的要因によるのではない。その大きな原因は円高である。円高は、企業の利益を減らし、投資を減退させているという意味では、間接的に回復の妨げになっているとも言える。

住宅投資の減少は、若年者人口の減少による。

こうして、家計も企業も投資をしないので、「カネ余り」状態になる(正確には、資余余剰または貯蓄投資差額が拡大する)。

企業は、投資をしないために増加する余剰資金を、借り入れの返済に充てている。金融機関から見れば貸し出しが減ることになるが、金融機関は他方で国債の保有を増やしている。現在の日本の民間資産項目で増加している最大の項目は、国債だ。つまり、家計および企業の貯蓄は、資本形成に回らずに国債に回っているのである。

国債の利回りが歴史的な低水準になったのは、一つにはヨーロッパ・ソブリン危機の影響で日本に資金が流入しているためだが、このような国内的要因も無視できない。このために、国債消化に問題が起こっていない。

政府は公共投資を増やしていない。これは、公共事業をめぐる利権が「土建政治」の温床になっているとの批判が強かったためだ。公共事業費は継続的に減らされてきたが、民主党も「コンクリートから人へ」という(奇妙な)スローガンの下、この路線を引き継いだ。昨年の今ごろ、大震災の復興のために投資が増えると私は考えていたのだが、現実にはそうはならなかった。

ところで、公共投資が増えていないとすると、いったい何か増えているのか?

それは、社会保障給付などの移転支出と政府消費である。

GDP統計を見ると、実質政府消費が著しく増えている。12年の値は、07年より7.8兆円増加している。これは医療費などの増加を反映したものである。

「借金して消費する」というのは、これまでアメリカの家計がやってきたことだ。日本ではそれを、財政(赤字国債)を介して行っていることになる。

したがって、経済全体として、投資が減少しているわけだ。他方で貯蓄は正なので、国全体として貯蓄過剰になる。それが、国際収支における経常収支の黒字になる。

右に見たように、実質で見ると純輸出は減っていない。しかも、それに加えて所得収支が巨額の黒字を続けている。こうして経常収支が黒字になるのだ。それは、対外資産の蓄積を増やす。つまり、日本は、国内における資本ストックの蓄積を増やさず、海外での資産の蓄積を増やしているのである。

国内資本ストック減少はなぜ問題か?

投資が増えないことは、日本経済全体の立場から見てどのように評価されるだろうか?

通常は、これまで議論したように、有効需要の観点から問題だとされる。それは確かに問題だが、それだけでなく、資本ストックの観点からも評価する必要がある。これは、経済の長期的な供給能力の問題だ。

住宅投資は大きく減少しているが、1人当たりの住宅ストックは増えるのだから、マクロ的に見る限り、問題は少ない(ただし、現存する住宅ストックが質的な面から最適とは言えないので、その改善のための投資は必要である)。

企業設備投資の減少は、国内の生産力を減少させる。しかし、製造業については、海外に投資して海外で生産し、その利益を国内に還流させればよい。もちろん、これによって国内の雇用は失われるが、新しい産業を興すことができれば、その問題も解決できる。

生産のための資本ストックが国内にあるか海外にあるかは、あまり重要な問題ではないのだ。重要なのは、それが適切に運用されて、未来の日本人の生活を支えてくれることだ。

しかし、道路、鉄道、橋、上下水道などの社会インフラの劣化は問題だ。現在の日本の公共投資の水準では、長期的に見て社会インフラは減耗していく。そのために、快適な生活が実現できなくなる。こうした状況を改善し、生活基盤を充実させることは急務である。

もちろん、日本の財政は巨額の赤字を抱えている。そうした条件下で公共投資を増やすために、移転支出を見直すことが喫緊の課題である。

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