製造業の利益減少に歯止めがかからない

法人企業統計の2012年1~3月期速報によれば、経常利益の対前年同期比は、全産業で9.3%増、製造業で3.6%増となった。

これだけを見ると、日本企業の利益が順調に伸びているような印象を受ける。しかし、昨年の1~3月期は、東日本大震災の影響で利益が著しく落ち込んだ時期だった。だから、伸び率が高くなるのは当然である。

11年度全体を見ると、経常利益は10年度に対して、全産業では6.9%の増加になったが、製造業では7.3%の減少だ。つまり、製造業と非製造業の間に、大きな差が生じたのである。

製造業の利益が大きく落ち込んだ理由として挙げられるのは、震災やタイ洪水などの自然現象だ。確かにそれは大きな影響を与えた。それは、売り上げが減っていることからわかる。

ただし、これは11年度だけの特殊な要因であって、将来に向かって継続するものではない。利益減少の原因がこうした特殊要因だけなら、利益は今後回復するだろう。だから、あまり心配することではない。しかし、製造業の利益は、より長い期間を取っても減少しているのである。すなわち、11年度における製造業の経常利益14.7兆円は、経済危機前の07年度の23.9兆円に比べると、実に4割近い減少になっている。

これに対して、小売業やサービス業など内需型の業種が多い非製造業では、このような大幅な減少は見られない。実際、11年度における非製造業の経常利益32.1兆円は、経済危機前の07年度の29.6兆円に比べれば、8.4%の増加になっている。

つまり、経済危機後に日本経済に生じた大きな変化は、製造業の利益が非製造業に比べて著しく悪化したということなのである。利益の絶対額で見ると、07年度は非製造業は製造業とほぼ同じだが、11年度には倍以上になっている。

日本経済は、貿易の面で製造業に頼れなくなったことが、貿易収支の赤字化によって明らかになった。それだけでなく、利益面においても、日本は製造業に頼れない構造になったのである(そして、ここでは詳しぐ触れないが、雇用面でもそうである)。

製造業では売上高利益率が低下

製造業についてのいまひとつの問題は、利益率が低下したことである。したがって、仮に将来売り上げが回復しても、利益はさほど回復しない。

ここでは、経常利益の総資本に対する比率(総資本利益率)を見よう。長期的に見ると、製造業の総資本利益率は顕著に低下している。高度成長期には7%程度であったが、石油ショックで落ち込んだ。その後5%程度に回復したが、2000年代から3~4%になった。04~07年ごろは5%を超えたが、経済危機で2%台に落ち込んだ。10年で回復したが、4%程度だ。つまり、長期的な傾向から言うと、04~07年は例外であったわけだ。

投資にはリスクが伴うことを考えると、4%の利益率では低過ぎる。したがって法人部門は投資を減少させ、貯蓄過剰部門になってしまう。経済の長期的な成長のためには、法人部門が貯蓄を超える投資を行い、投資過剰部門になることが必要だ。現在のような貯蓄投資バランスの構造は、日本経済が長期的停滞に落ち込んでいることの反映であり、問題だ。

では、製造業の利益率はなぜ低下しているのだろうか? それを見るために、総資本利益率を、売上高利益率(経常利益/売上高)と総資本回転率(売上高/総資本)の積に分解しよう。

データを調べると、製造業の総資本利益率の低下は、主として売上高利益率の悪化によることがわかる(これに対して、円高の影響をあまり受けない非製造業の場合は、売上高利益率はあまり低下しておらず、総資本回転率の悪化が主たる原因だ)。経済危機前は、5%を超えていた売上高利益率は、経済危機によって2%台に落ち込んだ。その後回復したが、11年1~3月期でも、3.8%にとどまっている。アジア新興国の工業化によってこうしたことが起きているのだ。

アジア展開はソルーションになるか?

企業の利益は、すべての経済活動の根源だから、利益の減少は日本経済にとって深刻な問題だ。

また、株価は長期的な利益を表すから、利益が上がらなければ、当然株価も下落する。6月4日には、ソニーの株価が1000円割れとなった。これは、株式分割を反映したベースで1980年8月1日以来、32年ぶりのことだ。パナソニックの株価も500円を割った。ソニーはグループ全体で約1万人の従業員の削減を決めている。パナソニックは本社従業員7000人を半減するリストラ策を発表した。

売上高利益率が低下するのは、円高のためだと言われる。確かにそれは大きな要因だ。

しかし、競争力があれば、ドル建て価格を引き上げられることにも注意が必要である。

また、現在の為替レートは、各国間の物価上昇率の違いを調整した実質レートで見れば、決して円高とは言えない。90年代中ごろの実質レートは、現在より5割程度高かった。だから、今後さらに円高になることはあっても、経済危機前のような円安に戻ることは、(少なくとも当分の間は)考えられない。だから、円高でも利益が上がる事業モデルを確立しなければならない。

日本企業の利益を減少させる要因としては、円高の他に、「法人税が高い」と言われることがある。しかし、日本の法人の約7割はそもそも法人税を負担していない。実際、財務省の資料によれば、11年におけるGDPに占める法人関係税収の比率は、日本では1.9%だが、これは、韓国3.9%、イギリス3.6%、フランス2.9%などに比べると著しく低く、中国2.1%より低い。

それに、法人税というのは、利益にかかるものだから、利益を減らす要因にはそもそもなり得ない。

利益率が低下する基本的な原因は、ビジネスモデルにある。従来のモデルを続けようとするから、世界経済の大きな変化に対応できず、利益率が下がるのだ。

ビジネスモデルが不適合であることは、電機産業の場合に明らかだ。いつまでもテレビやパソコン、半導体で、韓国サムスン電子をはじめアジア企業と競争してきた結果が、家電業界の今日の巨額の赤字の基本的原因である。

今後を見通すと、条件はさらに悪化する。特に円高と電気料金の問題がある。電気料金引き上げは、現在提案されているものだけでは済まず、今後さらに引き上げられる可能性が高い。このため、国内生産の利益はさらに減らざるを得ない。では、アジア展開が答えだろうか? しかし、そうすれば、激烈な値下げ競争に巻き込まれ、利益はさらに減るだろう。

われわれは、ともすれば、中国企業の実力を過小評価しがちである。「安いことは事実だが、品質は悪い」「効率の悪い国有企業が残っている」等々だ。そして、先進国企業だけで中国市場を独占できるかのような錯覚に陥りがちだ。しかし、中国企業の躍進は著しい。すでに製造業でも、高い技術水準を持つ企業が現れている。ITでは、進出した外資系企業は中国企業に押され気味だ。楽天が撤退を決めたのは、それを象徴する出来事だったと言えよう。

日本の産業は大きな転換を要求されている。

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