日本とギリシャはどこが違うのか?

ギリシャでは、総選挙後の連立交渉が決裂し、6月17日に再選挙が実施されることになった。財政支出の削減が強行されているので、社会の混乱が深まっている。

医療関係予算が4割もカットされ、医療が危機的な状況に陥っている。警察官を有料で派遣するという前代未聞の事業開始が決定された。軍や警察の車両を動かすことができない事態になる可能性もあるという。緊縮財政案に反対するデモ隊と警官隊が衝突し、銀行に火炎瓶が投げ込まれて、銀行員三人が死亡するという事件も起こった。一方、日本では、このようなことは一切起こっていない。

ところが、財政状況を見ると、日本とギリシャに大差はないのである。財務省の資料によれば、2011年度における財政赤字(国・地方ベース)の対GDP比は、ギリシャが9.1%であるのに対して、日本は8.8%だ。確かにギリシャのほうが比率が高いが、それほど大きな差ではない。

それにもかかわらず日本がギリシャのような混乱状態に陥らない理由として、ギリシャには観光や漁業以外に目立った産業がないのに対して、日本には国際競争力を持つ現代的産業があると指摘される。また、日本では消費税の税率が低いので、増税の余地があるからだ、とも言われる。

産業や増税余力の違いは事実だ。しかし、産業があつても、また増税余力があっても、実際に増税できなければ、ないのと同じことだ。日本では、消費税率5%の引き上げさえままならぬ状況だ。だから、財政赤字について、日本はギリシャと同じ状態にあると考えるべきなのである。

国債に対する信頼の低下が悪循環をもたらす

ギリシャ問題を放置できないのは、ギリシャ国債が債務不履行になる可能性があるからだ。ところが、日本国債についての債務不履行は、少なくとも当面は考えられない。

では、何かこの違いをもたらしているのだろうか? 政府債務残高の対GDP比を見ると、ギリシャ160.8%に対して日本192.6%であり、日本のほうが高い(日本の債務残高は、国・地方を合わせた長期債務残高)。大きく違うのは、金利水準である。ギリシャの10年債利回りは30%程度だが、日本では1%未満だ(10年債で0.9%程度である)。両者の間には、33倍もの差がある。ギリシャの場合、国債残高と金利の積は、GDPの48%を超える(クーポンレートは30%より低いと思われるので、実際の利払いはこれより少ないだろう。ただし、長期的には発行利回りは流通利回りに合わせざるを得ないから、この程度の利払いが必要になる)。

それに対して日本では、1.7%程度にしかならない(ちなみに、イタリアの政府債務残高はGDPの120%程度であり、10年債利回りが5.7%だ。このため、残高と金利の積がGDPの6.8%になる。イタリアの財政赤字の対GDP比は4%と日本より低いにもかかわらず、イタリア国債に問題が生じているのは、このためである)。

つまり、日本の財政赤字残高は大きいが、金利が低いので、利払いの負担が小さく、ギリシャのような事態にならないのである。12年度予算における国債費は、一般会計予算総額の24.3%を占める。仮に日本の金利がいまの33倍とギリシャ並みになれば、一般会計の国債費は予算総額の約8倍になってしまい、債務不履行に陥るだろう。

では、なぜ日本とギリシャでは、金利がこのように違うのか?

ギリシャ国債については、利払い・償還が順調に行われない危険が大きいと投資家が考えるから、金利が高くなる。そして、金利が高いから、利払いや償還に問題が生じる。つまり、悪循環が生じているのだ。

それに対して、日本国債の利払い・償還は、順調に行われるだろうと投資家が信じているから、金利が低くなる。そして、金利が低いから利払い・償還費が安くて済む。

こうした事情があるから、日本では、大量の国債を発行しても順調に消化されており、金利高騰といった事態になっていないのだ(それどころか、現在ではむしろ逆に、長期金利は歴史的な低水準にある。これは、ヨーロッパの金融混乱を逃れた投資資金が流入しているからだ。この状態は、「国債バブル」と言うことができる)。

「ギリシヤと日本の違いは、国債保有者が国内投資家か国外投資家かだ」と説明されることが多いのだが、いま日本には、国外から資金が流入している。信頼さえあれば、外国人が買っても金利は上昇しない。また逆に、国債消化が国内だけで行われていても、購入者が減少すれば金利は高騰する。重要なのは、「将来の利払いや償還に関する信頼があるか、ないか」ということなのである。

ユーロ離脱後のギリシャは日本の未来図

ギリシヤは財政赤字を縮小する必要がある。国民がどのような形で負担を負うかは、ユーロ圈にとどまるか、離脱するかで異なる。

ユーロにとどまるなら、為替レートによる調整はできないので、増税か支出削減が必要だ。ギリシヤには目立った産業がないので、増税に期待できない。だから、財政支出を切るしか方法がない。これが現在の状況である。

ユーロを離脱すれば、ギリシヤ通貨ドラクマが減価するため、輸入価格が上昇し、インフレになる。それによる実質所得の低下という形で国民は負担を負う。

もちろん、ユーロ離脱といっても、移行がスムーズにいくわけではない。ドラクマが減価することは明らかなので、離脱前に資産をユーロ建て(あるいはドル建て)にしようとする動きが激増するだろう。このため、資本逃避が起きる可能性がある。それをどうコントロールできるだろうか?。

他方、日本で国債消化が順調なのは、右に述べた「期待」だけによるものではない。その期待に従って投資を行う主体が現実に存在するからだ。それは、主として金融機関である。

ただし、預金の増加によってではなく、貸し出しの減少によって国債を購入している。

ところが、現在の状態を今後も永遠に続けられるわけではない。第1に、ヨーロッパの金融混乱が解消すれば、投資資金はヨーロッパに戻り、日本国債のバブル的低金利状況は終わるだろう。

第2に、国内での消化にも限度が来る。「ポートフォリオの入れ替えによる国債購入」には、いつか限度が来るからだ。限度が来れば、金利が高騰し、先に述べた好循環の連鎖は断ち切られることになる。

そうなれば、財政赤字の削減は、避けられない課題になる。国民は何らかの形で負担を負わざるを得ない。

消費税の増税や財政削減が政治的にできなければ、為替レートでの調整にならざるを得ない。具体的には、日銀引き受けによって国債が消化され、他方で資本が海外に逃避して円安になる。そのため、国内でインフレが起こる。つまり、ギリシャがユーロを離脱する場合と同じことになるわけだ。

そのときに、どのような問題が生じるだろうか。円安になっても国内物価が上昇すれば実質レートが円安になるわけではなく、日本の輸出が増えることにはならないだろう。ギリシャでこれから起ころうとしていることは、日本の未来にとって重要な参考になる。だから、われわれは、注意深く見守る必要がある。

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