消費税を増税すると景気が悪化するか?

消費税増税に反対する論拠として、「景気に対する悪影響」が挙げられることが多い。「デフレ下で増税するとは何事か」「橋本内閣当時の1997年にも、消費税増税のために景気が悪化した」等々の議論である。以下では、こうした議論を評価しよう。

「消費税増税は消費を冷え込ませる」という議論がある。こうした主張をする人は、次のように考えているのだろう。「消費税は消費に課税する。だから、消費をしないこと、つまり貯蓄を優遇する。だから、貯蓄率を引き上げて、消費という有効需要を減少させる」。

しかし、この考えは誤りである。貯蓄をするのは将来時点で消費するためだが、将来も同率の消費税がかかる。だから、現時点で消費せず将来時点で消費しても、格別の利益は生じないのである。経済学の用語を使えば、「消費税は、消費時点の選択(現在消費するか、それとも貯蓄して将来消費するか)に関して中立的である」ということになる。

消費税は原則として、(将来の財・サービスを含めて)すべての財・サービスに一律に課税するので、個別売上税のように消費者の行動に歪みをもたらすことはないのだ。

唯一影響かあり得るのは、「労働するかレジャーを楽しむか」という選択だけである(レジャーには課税されないからである)。原理的に言えば、消費税の課税によってレジャーの消費が他の財・サービスの消費より有利になり、その結果、労働供給が減少することはあり得る。しかし、現在のような経済情勢下で、消費税増税のために労働供給を減らす人はいないだろう。

ところで、以上で述べたことは、「消費税の増税が経済活動に影響しない」ということではない。すべての財・サービスに一律に課税しても、消費者の実質可処分所得は減少するからだ。それによる影響はあり得る。経済学の用語を用いれば、「消費税が経済活動に与える影響は、所得効果のみであり、代替効果はない」。

しかし、ここで次の3点に留意する必要がある。

移転支出が増えて可処分所得を補う

留意すべき第1点は、「右のことは、消費税に特有のものではなく、すべての一般的課税、すなわち、所得税、一括課税、そして社会保険料についても言える」ということだ。

ところで、社会保険料は負担増が予定されている。厚生労働省は、税・社会保障一体改革を実施した場合の2025年度までの医療や介護などの保険料の見通しを3月に発表した。それによると、介護保険料は、65歳以上が月5000円から8200円程度に、40~64歳が2300円から3900円程度に上がる。これは、6割を超える上昇率だ。

医療保険では、市町村国保の保険料が月7600円から9300円程度に、後期高齢者医療の保険料が月5400円から6500円程度に上昇する。協会けんぽの保険料率は、現在の9.5%程度から11.1%程度まで上昇する。年金については、17年度までに国民年金の保険料は月1万6900円に、厚生年金も保険料率が16.766%から18.3%まで引き上げられる。

これらを合わせれば、かなりの負担増だ。厚労省の試算によれば、12年度101兆円の社会保障費が、25年度には146兆円に増加する。社会保障給付の財源の約半分が社会保険料で、消費税は公費のさらに一部だから、社会保険料の負担増のほうが大きくなっても不思議はない。

社会保険料(雇用主負担分を含む)は、40~64歳の会社員の場合、すでに収入の26%を超えているが、これが3割を超えるようになるかもしれない。そうなれば、年収500万円世帯では20万円程度の負担増になる。これに対して、年収500万円世帯の消費額が350万円程度とすれば、消費税が5%上がっても負担増は17万5000円程度だ。「消費増税が家計を直撃する」と言われるが、実は、社会保険料が家計を直撃することは、既定路線なのである。

このような負担増にもかかわらず、なぜ反対が生じないのか?

「社会保険料は払わないと給付が受けられないから」と説明されることがある。例えば年金の場合、「保険料を支払わなければ将来給付を受けられないから払うのだ」と言う。しかし、この説明はまったくおかしい。

税も社会保険料も、強制負担であるから、制度を所与とすれば、個人は支払わざるを得ない。「給付と結び付いているから払う」とか、「結び付いていないから払わない」などという選択は許されないのだ。

ここで議論しているのは、「制度をどうするか」である。経済全体の観点から言えば、税の一部も社会保障給付の財源になっているという意味で、給付と結び付いている。だから、税と社会保険料に差はない。

以上を考えると、消費税増税に対する反対は、「政局に絡んだ、反対のための反対」としか考えられない。

留意すべき第2点は、「消費税増税で実質可処分所得が減少する半面で、社会保障などの移転支出が増加するため、可処分所得が補填される」ことだ。そもそも、消費税の増税は、社会保障費が増加するから必要になるのである。政府は、「増税した消費税は社会保障費に充てる」としている。この意味には曖昧なところがあるのだが、「社会保障費の増加に充てる」という意味なら、消費税の増税による実質可処分所得の減少は社会保障支出の増加で完全にオフセットされ、経済全体の有効需要を減少させることにはならない。

財敢赤学を放置すると経済活動が萎縮する

社会保障支出の増加を所与として、「消費税増税で賄うか、それとも財政赤字を拡大するか」という比較を行えば、前者のほうが有効需要を減らす。これが常識的な議論だ。しかし、これについても、経済学者の間では議論がある。これが、留意すべき第3点だ。

具体的には、「赤字ファイナンスと税(または社会保険料)ファイナンスで、有効需要に与える影響に差はない」という議論が、古くから展開されていた。その理由は、次の通りだ。

赤字をそのままに放置することはできない。遅かれ早かれ、何らかの形で国民は負担を負わざるを得ない。つまり、赤字ファイナンスとは、増税の先送りにすぎないのである。仮に人々が将来の可処分所得減を正しく認識しているとすれば、それを反映させて消費を減少させる。つまり、財政赤字の消費拡大効果はないわけだ。これは、ケインズ政策の有効性をめぐって古くから議論されてきたことの核心である(「赤字は増税の先送りにすぎない」ということは、「リカードの中立性命題」と言われる)。この議論は机上の空論のように思われがちなのだが、現在の日本の状況を考えると、決してそうは考えられない。

今後の日本を考えたとき、最もあり得るシナリオは、国債を日本銀行が購入することによって引き起こされるインフレだ。それによって国民の実質可処分所得が減少し、他方で国債の実質残高が減少する。人々が消費を拡大しないのは、短期的な可処分所得が減っているからではなく、長期的な可処分所得が減少すると考えているからである。

欧州でも、いくつかの国で増税が予定されている。その背後には、「財政赤字を放置することが経済の長期的な安定性の障害になり、経済活動を萎縮させる」という認識がある。いまの日本でも、まったく同じことが言える。

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