春の夜の幻たった欧州安定・円安・株高

欧州の総選挙で緊縮派が敗北した。これを受けて円が上昇し、株価も大きく下落した。

2月以降に円安が進行して株価上昇が続き、これを「日本経済の転機」とはやす向きもあったのだが、結局は「春の夜の幻」にすぎなかったわけだ。

経済のファンダメンタルズの改善なしに、株高が続くはずはない。日本経済の基本条件は何も変わっていないのだから、株価上昇などあり得ないことだ。日本経済の状況は今後も厳しいと、再認識する必要があるだろう。

フランス大統領になるオランド氏は、財政再建に慎重とみられる。ギリシャの総選挙でも、急進左派が躍進した。このため、欧州で財政再建は進まないだろうとの見方が強まっている。ただし、これは、新しい政治的事態ではない。これまでの緊縮政策が国民に受け入れられなかっただけのことだ。

しかし、緊縮政策なしに市場の不安は収まらず、支援策を継続するわけにもいかない。支援する側も受ける側も改革を拒否するのでは、事態が進展するはずはない。だから、ユーロという仕組みを維持できないことが、ますます明らかになった。

ユーロはもともと経済的にあり得ない仕組みだったので、それが崩壊しても、驚くに当たらない。むしろ、これまで維持されてきたことのほうが不思議である。

ただし、すぐに解体というわけにいかないから、今後もさまざまな対応策が試みられるだろう。少なくともギリシヤ離脱に至るまで混乱が続き、世界の金融市場では不安定な状態が続くだろう。

もっとも、日本への影響は、国債の暴落という直接的な意味では生じないだろう。日本への影響は、主として為替レートを通じて生じると考えられる。すなわち、欧州から逃避する資金が日本に流入し、円高が続くだろう。

国内生産の条件はさらに悪化する

現在の為替レートは、各国の物価上昇率の差を考慮に入れた実質レートで見ると、過去の値に比べて格別円高であるわけではない。だから、名目レートが今後さらに円高になる可能性は十分ある。

産業界では「円高のために国内生産が困難になっている」という声が強い。しかし、現在の為替レートが異常であるのではなく、日本企業の競争力が低下しただけのことである。2月ごろからの動きは、そうした長期的趨勢からの一時的な乖離にすぎなかった。

「異常な円高」というのは、いつか再び円安になることを期待しての認識だ。しかし、(後に述べる本格的な円安期に至るまでは)そうしたことにはならない。今後、円が高値を更新するたびに介入が行われるだろうが、円高への趨勢を食い止めることはできない。これまでの介入がそうであったように、投機筋に利益を与えるだけの結果に終わるだろう。現実を否定するばかりでは、将来に向けての展望は開けない。抵抗するのでなく、円高を所与として、それに対応することが必要である。

製造業にとっては、もう一つの深刻な問題がある。それは、電力問題だ。

まず、今夏の電力不足がある。政府が5月7日に示した電力需給見通しによると、関西電力管内では、猛暑になった場合の8月のピーク時電力が14.9%不足する。自発的な節電努力だけではこれに対応できず、昨年より強い節電策が必要になる可能性が強い。これは、産業活動を大きく束縛するだろう。また、休日の変更による託児コストの上昇など、目に見えないコスト上昇もあるだろう。

さらに、電気料金の値上げがある。東京電力は、家庭用から産業用まで、すべての電気料金を1キロワット時当たり一律2円60銭値上げしようとしている。値上げ率は、家庭用では平均10%程度、産業大口電力では平均17%程度となる。電力を大量に使用する製造業にとって、これはかなりのコストアップ要因だ。

それに加えて円高で売上額が減少すれば、企業の利益は大幅に減らざるを得ない。電力事情は、原子力発電所の稼働再開に依存する面が大きいことは事実だが、今年の夏で終わるような短期的な問題でないことも事実だ。

以上のどれを取っても、製造業に有利な条件ではない。製造業の環境はさらに悪化し、それに対応するために、生産拠点の海外移転が続くだろう。これによって国内の雇用は減少するので、円高と高い電気料金に対応できる産業構造の構築が急務だ。脱原発は、新産業創出とセットで考えられる必要がある。

日銀による国債購入という麻薬を服用し続ける日本

新しい産業の創出は、政府が経済政策として行つことではない。それは、民間企業がビジネスモデルの改革を通じて実現すべき課題である。

政府がなすべきは、マニフェスト関連政策を見直し、社会保障制度の改革を行うことだ。しかし、今の日本では、政治の機能はほぼ停止しており、経済政策の名に値することも何も行われていない。

現在の日本で、唯一行われている経済政策は、日本銀行による長期国債購入である。これは、国債の貨幣化(日銀による財政ファイナンス)に他ならない。

これによって、第1に、長斯金利の高騰が抑えられている。第2に、本来はもっと進行するはずである円高が抑えられている。これらによって、経済の混乱が未然に防がれているのは、事実だ。

しかし、言うまでもなく、これは問題を解決するものではない。問題の顕在化を抑えるだけのものだ。つまり、日本は本来必要な手術を行わないで、麻薬を服用し続けているのである。

実は、日銀による長期国債の買い入れは、量的緩和政策として2001年以降も行われてきた。しかし、輸出主導経済成長によって税収が増加したため、日銀保有国債残高は、06年ごろをピークとして減少した。それによって恒常的な財政ファイナンスからは脱却できたわけだ。しかし、今後はこのときのような税収増を期待できないので、今回は出口が見えない。

国会で審議中の消費税増税法案の行方はわからない。仮に増税できたとしても、5%程度の税率引き上げでは、毎年度の国債発行額はほとんど変わらない。だから、日銀の国債購入を求める圧力は続く。そして、日本経済のひずみはますます大きくなってゆく。

もっとも、現在の日本では、日銀の国債購入によってマネタリーベースが増えても、マネーサプライは増加せず、したがって、貨幣数量説的な意味でのインフレは生じないだろう。

インフレは、円安を通じて生じると考えられる。そのきっかけは、欧米諸国で景気が回復して金利が上昇することだ。このとき日本の金利が低いままであれば、円キャリー取引が生じて円安になる。それが輸入物価を引き上げて国内にインフレをもたらすのである(なお、このプロセスは、1970年代のイギリスのポンド安と同じものであり、輸出を増大させて経済を拡大するものではない)。

このプロセスは、ハイパーインフレのように破滅的な勢いで進むものではない。だから、経済活動が混乱するほどのものではないだろう。しかし、国民の実質可処分所得が徐々に低下することに変わりはない。明示的な増税を回避し続ければ、そうした形で国民が負担を負うのである。

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