逆進性に対処できぬ欠陥構造の消費税

所得に対する消費税の負担率は、低所得者ほど高くなる傾向がある。これが一般に「逆進性」と言われるものだ(消費税の課税ベースである消費に対しては比例税になっているので、正確には逆進税でないのだが、ここではこの問題は取り上げない)。

これに対処するため、政府の増税提案では、「給付付き税額控除」を行っこととなっている。これは、納税者には所得税額から一定額を控除し、控除し切れない人や所得税を納めていない人には給付金を支払う方式である。

しかし、これはおかしな対処法だ。消費税の枠内で対処できる問題なので、本来はそうすべきである。実際、ヨーロッパの付加価値税では、そうなっている。具体的には、食料品などの生活必需品に対して、軽減税率またはゼロ税率を適用する。

ところが、日本の消費税では、これができない。それは、以下に述べるように、インボイスがないからだ。言い換えれば、現在の消費税が欠陥税であるため、逆進性の問題を消費税の枠内で処理できず、別の税である所得税の助けを借りなければ課税が完了しないのである。

つまり、所得分配に関する公平性の点で、消費税は所得税に比べて劣っているわけだ。そうであれば、消費税を増税せず、所得税を増税すべきだ。「なぜそうしないのか?」という当然の疑問に、政府はまず答える必要がある。

実務的な観点からも、政府提案は不完全だ。とりわけ問題となるのは、納税していない人々の所得を捕捉できないことだ。営業所得や資産所得を得ている人の中には、多額の所得を得ながら納税していない人がいるかもしれない。したがって、非納税者に一律に給付金を交付すれば、所得分配上の問題が生じる。

これに対処するため、社会保障と税の共通番号制度(「マイナンバー制度」)を導入することになっている。しかし、番号制を導入しただけでは、非納税者の実態を把握することはできない。そのためには、綿密な調査が必要であり、それには長い期間を要する。

増税が計画されている2014、15年のうちに非納税者の実態が明らかになるとは、到底考えられない。したがって、給付金の交付は、「バラマキ」とならざるを得ない。

生活必需品の軽減税率にはインボイスが必要

生活必需品に対する軽減措置は、本来は軽減税率を採用することで行うべきだ。つまり、取引の最終段階(小売り段階)で税率を標準税率より低くする(場合によっては、ゼロ税率とする)のである。

ただし、消費税は多段階売上税であるため、最終的な売り手を非課税にしただけでは、仕入れに含まれた消費税の影響で、小売価格は上昇してしまう。そこで、最終段階の課税において、仕入れに含まれる消費税を控除する必要がある。

このためには、インボイスが必要である。インボイスとは、取引の各段階で売り手から買い手に渡される書類で、売り上げに含まれる消費税の額が表示されている。買い手は、消費税納税の際に、インボイスを税務署に提示し、そこに記載されただけの消費税額を、自らの納税額から控除するのである。

日本の消費税にはインボイスがないので、軽減税率方式を取ることができない。そこで、医療サービスなどを非課税にする制度が取られている。しかし、後で述べるように、この方式には重大な問題がある。価値税は、インボイスの導入によって初めて合理的な税となった。それまでは¬前近代的な税」と考えられていた売上税が現代的な税と評価され、EUの共通税とされるほどに受け入れられたのは、ひとえにインボイスのためである。世界で、多段階売上税を導入しながらインボイスを導入していないのは、日本だけだ。

現在の日本の消費税では、「帳簿方式」によって仕入れ税額控除を行っている。つまり、仕入れに含まれている消費税額について、納祝者の自己申告に任せている。これでは、過大申告される危険がある。現在でも過大申告はあるかもしれないが、税率が低いので、あまり深刻な問題と考えられていない。しかし、税率が高くなれば、問題である。

それでも、標準税率が適用される場合には、納税額が減るだけなので、何とか許容できる。しかし、軽減税率の場合には、還付することになる場合が多いので、過大申告は許されない(ゼロ税率なら、必ず還付になる)。仕入れ額を調査することになれば、多大の努力が必要になる。インボイスがあれば、調査しなくとも、正確な納税がなされる。軽減税率を採用する場合には、インボイスは不可欠だ。

インボイスが導入されても、非課税業者が存在すると、うまぐ機能しない。取引の中間段階に非課税業者がいると、インボイスを発行できない。また、最終段階が非課税業者だと仕入れ税額控除ができない。

現在の非課税制度は不合理な仕組み

現在の日本では、医療・介護、住宅家賃などが非課税になっている。しかし、仕入れには消費税がかかっている。例えば、介護の場合には介護器具が必要だが、これには消費税がかかっている。だから、介護のコストはそれだけ上がることになる。

現在の仕組みだと、この分は、消費者に転嫁されるか、そうでなければ、最終販売者が負担している(両者とも生じることもあり得る)。いずれにしても、不都合だ。

転嫁される場合には、「非課税なのに、消費税増税によって価格が上昇する」という問題が生じてしまう。これは、受け入れられないだろう(「便乗値上げ」との批判がされるだろう)。それに、非課税にしているのは、こうした財について消費税の負担を求めるのが適切でないと考えられているからだ。その目的が実現されないことになる。

転嫁されない場合は、販売者が負担することになる。なぜなら、非課税品は消費税の課税がなされないので、仕入れ税額控除を求めることもできないからである。しかし、消費税を取引業者が負担するのは、消費税の趣旨に反する。

どちらの問題も、これまでは5%という低い税率だったので許容できたが、10%ということになれば、そうはいかない。

この問題は、「給付付き税額控除」という方式では対処できないことに注意が必要である。対処するには、現在の非課税方式をやめ、その代わりに、上で述べた軽減税率方式を採用しなければならない。そして、すでに述べたように、そのためにはインボイスが不可欠である。

自民党が給付付き税額控除への対案として軽減税率を提案したが、インボイスなしで軽減税率方式の採用はできないことを認識しているのだろうか?

国会では、こうした議国論が行われず、消費税とはまったく関係のない問責決議などの騒動に終始している。そして、上で述べたような消費税の欠陥構造は放置されたままだ。これは、立法機関の驚くべき怠慢である。

日本の憲法は、「租税の賦課は法律による」という租税法律主義を定めている。これは、国会がそうした議論を行える能力があることを前提にしたものだ。しかし、現在の日本の政治の実情は、租税法律主義を実現するレベルには至っていないと判断せざるを得ない。

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