社会保険料徴収の体制確立が急務だ

消費税増税問題が注目を集めている半面で、社会保険料については、あまり議論されていない。しかし、社会保障施策の主要財源は、保険料である。

国によって運営されている厚生年金と国民年金について見ると、2010年度の保険料収入は、それぞれ25.5兆円と2.6兆円であり、合計で約28兆円になる。これに対して、同年度の一般会計税収は、当初予算ベースで、所得税が10.2兆円、法人税が6兆円、消費税が9.6兆円で、その他の税を含めた税収印紙収入は37.4兆円だ。だから、国の収入としては、年金保険料が税に比較できるほどの大きさになっているのである。

社会保険料としては、年金保険料に加えて医療保険と介護保険の保険料がある。また税には地方税があるし、税収の中には社会保障以外の支出に充てられている部分もある。これらを調整すると、12年度における社会保障給付費101兆円の負担割合は、保険料が約6割、税が約4割となっている。

社会保険料は、個人と雇用者がほぼ半分ずつ負担している。事業主負担は、利益と無関係にかかる。だから、企業のコストを高め、国際競争力に影響する。しばしば、「日本の法人税率が高いので、日本企業の競争力が落ちる」と言われるが、法人税は利益にかかる負担なので、企業の生産コストに影響することはない。問題は社会保険料なのだ。

額から言っても、社会保険料のほうが大きい。08年における企業の税負担と社会保険料事業主負担は、それぞれ国民所得の5.4%と7.1%だ。公的負担が企業競争力に与える影響を問題にするのであれば、社会保険料をこそ問題にすべきである。

また、社会保険料は主として現役世代にかかる。そして将来、負担がさらに増える。厚生労働省の推計によると、社会保障負担は、25年には146兆円と、現在より5割近く増える。その結果、被用者の1人当たり保険料(事業主負担分も含む)は、年収の3割を超える。

保険料を強制徴収する体制ができていない

これほど重要な社会保険料でありながら、その徴収体制には問題が多い。特に深刻なのは、国民年金だ。納付率は05年度以降継続して低下しており、10年度では59.3%と、ついに6割を切った。

10年度末における未納者は、数で言えば321万人である。ただし、未納者というのは、本来保険料を支払うべきでありながら、支払っていない人だ。この他に、免除者が348万人、猶予者等が204万人おり、これらの人々は、所得が低いなどの理由で、保険料を支払わなくてよいとされている。さらに、未加入者が9万人いる。これらを合わせると、第1号被保険者1938万人の約半分の人々が保険料を支払っていないわけだ(常識的に考えると、国民年金保険料を倍にするか給付を削減しなければ、収支が合わないはずである。こうした措置が行われていないのは、基礎年金制度を通じて、厚生年金加入者が埋め合わせているからだ)。

年金保険料の徴収は、なぜこのように不完全なのか? それは、強制徴収の仕組みが確立されていないからだ。

年金保険料は、1960年代には極めて低かった。本当は当時から高い保険料が必要だったのだが、前回述べた理由で、そうならなかった。それでも問題が生じなかったのは、ある時点までは制度が「未成熟」であり、年金受給者がほとんどいなかったからだ。保険料は徴収するものの、給付はない。したがって、徴収体制が不完全でも、積立金がたまる一方だった。このため、強制的に徴収する仕組みの構築がおざなりにされたのである。

厚生年金の保険料は給与から天引きされるから、格別の努力をしなくても徴収できる。また、健康保険の場合には、保険料を支払わなければ、医療保険の給付を受けることができないから、人々は強制されなくても保険料を支払う。国民年金は、このいずれの条件も満たさないので、事実上の任意年金になってしまっているのである。

もちろん、年金の場合も、保険料を支払わなければ将来年金を受け取れない。しかし、それは遠い将来のことであるし、「保険料を支払っても年金が受け取れるかどうかわからない」という不信感があるので、強いインセンティブにならないのである。

10年度における国民年金保険料納付率を年齢別に見ると、年金を受け取れることが確実な55~59歳は72.6%と高率であるのに対して、年金受け取りが不確実な25~29歳では46.6%でしかないことが、それを示している(そうであっても、今年の改正で、受給資格に必要な年数を短縮したのは問題だ。これでは、納付率はさらに下がるだろう)。

国民年金保険料の徴収は、以前は機関委任事務として、市町村が担当してきた。その時代には、伝統的な地域社会の縁を頼りにして、かなりの徴収実績を挙げてきた。納付率は96年度までは80%台で、01年度までは70%台だった。ところが、地方分権一括法の施行によって機関委任事務の整理が行われ、02年度から保険料の徴収事務が国に移管された。その途端に徴収率が62.8%に低下してしまったのである。

地方によっては、それまで80%台だったのが、国に移管した途端に5割を下回つてしまったところもある。もともと強制徴収を行つ体制にはなっていないのだから、当然のことだ。03~05年度は、一時的に納付率は上昇したが、それは免除・猶予の基準を緩和したことによる見かけ上のものにすぎない。

歳入庁構想はもっともな考えだが……

現在の保険料徴収システムは、制度の体をなしていない。そこで、税と社会保険料を一体的に徴収する「歳入庁」構想が提案されている。2月に閣議決定された「一体改革大綱」にも。これに関して「ただちに本格的な作業に着手する」と明記されている。外国でも税と社会保険料は一体的に徴収されている場合が多い。これは確かに意味がある提案だ。

しかし、実際はそれはど簡単でない。財務省も厚労省もこれを望まないからである。

厚労省の立場から言えば、「自分の財源」がなくなってしまう。もちろん、保険料はそれを徴収した官庁の所有物になるわけではないが、役人の発想からすれば、自分で集めた財源があるからこそ、天下りできる。だから徴収権限を手放したくない。この点がいかに重要かは、社会保険庁OBの厚生年金基金天下りを見るだけで明らかである。

他方で、国税庁にとって「やりがいのある仕事」とは、巨額の脱税の摘発だ。社会保険料のような細かい仕事は、「割に合わない」。また、徴収しても、年金関連機関は国税庁の所轄ではないので、天下り枠を得られるわけではない。さらに、財務省から見ると、徴税権は権力の源泉そのものだから、絶対に手放したくない。

こうした事情があるので、政治家が歳入庁構想を言う場合は、財務省からの分離が主眼だ。それ自体は望ましいことと思うが、実際には、脱税調査を抑止するためのブラフとして使われている側面も否定し得ない。これでは、問題だ。

社会保険料徴収体制の確立は、極めて重要だ。この点が欠けていれば、改革は「一体改革」の名に値するものには、到底ならないだろう。

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