年金制度設計の過ちで国家百年の計を誤った

公的年金も企業年金も、成長率と利回りに関する設定が誤っており、これが基本的問題だとこれまで述べた。このロジックは、わかりにくいかもしれない。しかし、大変重要なことなので、ややテクニカルな而もあるが、以下に説明しよう。

なお、以下のモデルは、現実を記述するためのものではない。したがって、現実を極度に抽象化しており、やや不自然に見えるところもある。その日的は、利回り、成長率、高齢化の定性的な関係を明らかにすることである。

今、「第1期=現時点」と「第2期=将来」の2期間だけを考えることにする。現時点の保険料納付者が、将来時点で受給者となる。受給者と保険料納付者は、現時点ではn人とm人であり、将来ではm人とp人だ。現時点での労働所得(保険料納付者の所得)はyである。所得代替率をq、平準保険料率をcとすると、1人当たり年金額はqyであり、保険料はcyだ。所得成長率をgとすると、将来時点では所得が(1+g)yとなり、年金額と保険料は、それぞれq(1+g)yとc(1+g)yになる。

現時点で徴収された保険料のうち給付を超える部分は積み立てられ、将来の給付に川いられる。利子率はrであるとする(現時点で1積み立てると、将来1+rになる)。年金制度は、第2期で清算される。つまり、第2期においては、積立金と第2期保険料の和で支給を陏う。

最初に、n=m=pりである場合を考えよう。この場合、所得成長率や利子率にかかわらず、c=qとなることが簡単に確かめられる。この場合には、第1期において総額cnyの保険料が徴収され、同額だけ支給されて積立金はゼロ。第2期にも同じことが起きる。例えば、q=0.5、つまり、所得代替率50%の給付を行おうとすれば、保険料率を50%にする必要がある。

第2のケースとして、人囗が一定率で成長する経済を考えよう。人囗成長率をsとすると、m=(1+s)n、p=(1+s)^2 nとなる。この場合には、所得成長率や利子率にかかわらず、c=q/(1+s)となることが簡単に確かめられる。

具体的な収支は次の通りだ。第1期においてcmy=c(1+s)nyだけの保険料が徴収される。支給額は、qny=c(1+s)ny。したがって、積立金はゼロ。第2期における保険料は、c(1+s)^2 n (1+g)y。支給は、q(1+s)n (1+g)y =c(1+s)^2 n (1+g)yとなるので、収支が均衡する。

例えば、s=1(1期ごとに人囗が倍増)する場合、所得代替率50%の給付を行うには、保険料率を25%とすればよい。この場合、保険料納付者が常に受給者の2倍いるので、低い保険料率によって高い給付が得られるのである(ネズミ講の原理が働くわけだ)。

高齢化が進む場合は積立金が生じる

第3のケースとして、m=p>nの場合を考えよう。これは、高齢化が進むケースである。第1期においては受給者を上回る数の保険抖納付者がいるが、第2期においては、受給者と保険抖納付者の数は同数になってしまう。過去半世紀間程度の日本の状況は、このケースによって表現することができる。この場合には、第1期で積み立てをし、第2期でそれを取り崩す。したがって、利子率と成長率の関係が重要になるわけだ。

雌初に、m=p=2nで、ゼロ成長経済(g=0)を考えよう。利子率もゼロだとすると、平準保険料率はc=(3/4)qとなることが、計算の結果わかる、この場合、第1期においては、総額cmyの保険料が徴収され、qny=(4/3)cnyの年金が支給される。したがって、積立金は[m-(4/3)n]cy=(2/3)cnyだ。第2期においては、cpy=cmy=2cnyの保険料が徴収され、(2/3)cnyの積立金取り崩しと合わせて、qmy=(8/3)cnyの年金が支給され、収支が均衡する。

この場合、他のパラメータが一定で利子率だけが高くなれば、第2期での積立金の元利合計額が大きくなることは明らかだ、だから、保険料率を低くすることができる。

例えば、r=1の場合には、平準保険料率は、c=(2/3)qとなって、利子率がゼロの場合より低くできることが計算でわかる。この場合の各期の収支は、次のようになる。第1期においては、cmyだけの保険料が徴収され、qny=(3/2)cny=(3/4)cmyだけの年金が支給される。したがって、積立金は(1/4)cmyだ。第2期においては、cpy=cmyだけの保険料が徴収され、(1/2)cmyだけの積立金取り崩しと合わせて、qmy=(3/2)cmyだけの年金が支給され、収支が均衡する。

しかし、利子率がプラスになるのは、経済が成長するからである。だから、ゼロ成長経済で高い利子率を想定するのは、経済学的に正当化できないことだ。

ゼロ成長を仮定すると高齢化を過小評価

そこで次に、m=p=2nで、所得の成長率がプラスである場合を考えよう。この場合には、c/q=1-(1+r)/2(2+r+g)となる。つまり、gが高いほど保険料率は高くなる。第2期においては、総額cp(1+g)y=cm(1+g)yの保険料が徴収され、qm(1+g)yの給付が行われる。給付は保険料収入を(q-c)m(1+g)yだけ上回る。成長率gが高くなるほど差が拡大する。

高齢化が進展する場合には、このように、第1期で積み立てた資金で第2期の給付の一部を賄う形になる。つまり、第2期の支給総額は必ず保険料総額を上回る。

所得の伸びを低く見積もると、給付も保険料を比例して縮小するが、給付のほうが大きいので、保険料どの差は縮小するのである。つまり、第2期で不都合な事態が起きるのだが、低成長を仮定すれば不都合さは小さくなるのだ。

ところで、低成長経済では利子率も低くなるので、積立金が第2期で果たす役割は小さくなる。だから、保険料率を高く設定する必要がある。しかし、1960年ごろの厚生年金平準保険料計算では、ゼロ成長で5.5%という高い利回りを仮定した。成長率、利回りが整合的でなく、都合のよい仮定をしたのだ。そのために、必要な保険料率を過小評価したのである。

5.5%という利回りは、60年代の経済環境の下では、決して高過ぎるものではない。むしろ、控えめな見積もりと言ってよいだろう。しかし、当時の高い利回りは、経済が高度成長をしていたからこそ実現できたものだ。したがって、高い利回りを想定するなら。所得成長座ぢ当時の現実に合わせて高く見るべきだった。それをゼロ成長としたことが誤りなのである。

「保険料納付者と受給者の比率が将来において悪化する」というのは、「不都合な事態が将来発生する」ということだ。所得成長率が高いほど不都合度は大きくなる。利子率を高く想定すれば、それを過小評価することになるのだ。企業年金の場合には、5.5%という高い利回りを想定したため、必要とされる積立金を過小評価したのである。

経済的に正当化できない仮定をおいて制度設計したことが、根本的な誤りである。この点で、公的年金も企業年金も、まったく同じ誤りを犯している。公的年金の設計ミスは、その後の保険料引き上げ等の修正にもかかわらず、修復されていない。そして、現在の日本の財政が抱える問題の本質は、ここにある。それほどの大きな誤りである。まさに、「国家百年の計を誤った」としか言いようがない。

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