デフレ脱却すれば銀行に巨額の損失

ギリシャ国債について、「管理されたデフォルト」が実行された。自発的な債務削減に同意しない債権者を含めて、債務が強制的に削減される。先進国では戦後初めての事態だ。

ギリシャ国債の保有者が被った損失に対しては、CDSの支払いがなされることになった。

これまで任意の債務減額か強制的な減額かが問題とされてきた。任意減額だと債権者が負担を負うが、強制的減額はデフォルトと見なされ、CDSの引き受け手が負担する。

ここで、CDSについて少し説明しておこう。これは「保険のようなもの」と説明されることが多いが、保険ではない。一般に、金融資産のリスクは相関しているので、保険は機能しない。国債は、事実上単一の資産なので、なおさらできない。保険なら加入者が損失を分担するが、CDSはオプションの一種なので、引き受け手がすべてを負担する。だから、負担は重い。リーマンショックのとき、AIGが破綻しかかったのは、このためである。

今回の場合、CDSの引き受け手が誰であるかははっきりしないのだが、アメリカの銀行が多いとされる。すると、負担は、ヨーロッパの銀行からアメリカの銀行にシフトするわけだ。

今回の措置によって、ギリシャが抱える約3500億ユーロ(約37兆円)の債務は、1050億ユーロ(約11兆円)削減される。一方、ギリシャ国債関連のCDS残高は31億6000万ドルで、この一部が支払いの対象になるとされている。

これによって混乱は生じないというのだが、そうだろうか?

債務を切り捨てたことでギリシャは当面の国債償還は乗り切れるが、経済を再建するための産業はないし、年金などの財政支出は依然多い。だから、財政再建は難しい。

他方で、今回のようなことが起こった後では、CDSの引き受け手はなくなるだろう。あるいは、保証料が高くなるだろう。それを考えれば、今後はむしろ、危機が深刻化する可能性が高いわけだ。

世界的に株価が上界しているのはギリシャ問題に解決の糸口が見えたからだという。しかし、以上を考えれば、そんなに楽観的になってよいのだろうか?と首をかしげざるを得ない。

身代金を支払わないと景気回復できない日本

ギリシャの事態は、人ごとではない。日本の財政事情は、ギリシャより悪いからだ。

単に国債発行額や残高が大きいというだけでない。銀行や保険会社が巨額の国債を保有しているので、何かのきっかけで金利上外が起きると、国債の価値が下落し、深刻な問題が起きる危険があるのだ。それは、金融機関の存立に関わるほどの大きな問題となり得る(これについての詳細の議論は、「ダイヤモンドーオンライン」を参照)。

この問題は、これまで顕在化していなかった。それは、「幸いにして」景気が回復しなかったので、資金需要がなかったからだ。復興需要も、本来であれば、経済全体の金利を上昇させるほどの規模ですでに生じているべきなのだが、いまだにがれきの処理も済んでいない状態だ。昨年の今ごろ、「復興需要が生じるとクラウディングアウトが起きる可能性が強いので、それを回避するため増税や対外資産の活用が必要」と論じた。その予測は¬幸いにして」はずれた。国債の金利にはまったく上昇の気配がない。

しかし、もし何らかの原因でこれらの条件が変化すると、金利が上がり、国債の評価損が発生して、国債の保有者である銀行や保険会社の危機は現実のものとなる。

日本銀行の白川方明総裁は、2月23日の衆議院予算委貝会で、国内債券の金利が1%上昇すると、債券価格の下落による損失が、大手銀行で3.5兆円になると述べた。

これは、国債以外の債券も含むものだが、「週刊ダイヤモンド」(3月17日号)は、国債だけについての試算を行っている。それによると、金利が1%上昇すると、メガバンクだけで1.7兆円の評価損が発生する。3%上昇すると、4.2兆円の評価損になる。2011年のメガバンクの実質業務純益が9.3兆円であることと比較すると、大変な大きさだ。

つまり、日本が景気回復するためには、その前に銀行が巨額の損失を被る必要があるわけだ。そのハードルを越えてからでないと、成長軌道に復帰することができないのである。

江戸時代の遊女は、巨額の身代金で身請けしてもらわないと、自由の身になれなかった。例えは誠に悪いのだが、現在の日本経済は、これと同じ立場に置かれている。

薄氷の上を歩く恐怖の金利上昇シナリオ

では、金利が上昇する危険は、どの程度あり得るだろうか?

いま実質金利が一定であるとすれば、名目金利は物価上昇率(の期待値)の変化だけ上昇する。

現在の日本の物価上昇率はほぼ0%だ(正確には、12年1月の前年同月比は、総合指数が0.1%の上昇、生鮮食品を除く総合指数が0.1%の下落、酒類、食料およびエネルギーを除く総合指数が0.9%の下落である)。

日銀は、2月14日に、これを1%にすることを目標とした。仮にこの目標が達成されれば、名目利子率は1%上昇してしまう。すると、メガバンクに巨額の損失が発生する。

物価上昇は、外的な要因によっても生じ得る。例えば、原油価格が上昇して物価が上昇すれば、やはり名目金利が上昇してしまう。

景気が回復すれば、事態はさらに「悪化」する。日本経済の潜在的な実質GDP成長率は、2%程度であると考えられる。IMFの世界経済予測でも、今後数年間の実質成長率を2%程度としている。実質成長率が上がれば、実質金利もそれに合わせて上がらざるを得ない。

しかも、日本の財政状況を考えると、国債のリスクはかなり高まっていると考えるべきだ。実際、10年債のリスクを5年問保証するCDSのスプレッドは1.5%程度である。それを考えると、国債利回りが4%とか5%になるのは十分あり得ることだ。現在は、日銀の国債購入によってこうしたリスクの顕在化が防がれているが、それがなくなると金利は上昇し、銀行の損失はさらに人きくなる。

ここで注意すべきは、こうした事態になったとき、日銀が銀行から国債を買い上げて資金供給しようとしても、できないということだ。銀行が国債を売れば、キャピタルロスを被るからだ。だから、銀行は国債を売らないはずである。

日本経済は誠に恐ろしい状態にある。薄い氷の上を歩き続けなければならないのだ。

こうした深刻な事態を考えると、「日本もギリシヤに倣って管理されたデフォルトをしたらどうだろう」と考えたくなってしまう。CDSでどれだけカバーされているかわからないが、損失の一部はCDSを引き受けていると思われるので、損失を外国の金融機関に押し付けることができる。

もちろん、こんなことをすれば、日本の信用はガタ落ちになり、国際社会から追放されてしまうだろう。だから、あり得ない話だ。しかし、「こうした手段にでも頼らない限り出囗が見えない」というのは、冗談でも何でもなく、冷厳な事実である。現在の日本が置かれている状態を、冷静に見つめる必要がある。

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