米国法人税改革提案から日本が学ぶべき点

アメリカ財務省は、法人税の改革に関する報告を2007年12月20日に公表した(Approaches to Improve the Competitiveness of the U.S. Business Tax System for the 21st Century)。

これは、1986年のレーガン税制改革以来の、抜本的な法人税制改革を提案したものと考えられている。日本においても法人税を改革すべきだとの議論があるから、今回の報告書は関心を集めるだろう。

財務省の報告は、法人税改革の方向として、次の3つの選択肢を挙げている(ただし、そのいずれを取るべきかについては結論を出していない。なお、この報告が対象としているBusiness Taxは、正確には法人所得税[Corporate Income Tax]と一致しないところもある。しかし、以下では便宜上「法人税」という名称を用いる)。

(1)現在の法人税を廃止し、「ビジネス活動税」(Buisiness Activities Tax:BAT)を導入する。

(2)現在の法人税における特別措置を廃止して課税ベースを広げ、同時に税率を引き下げる。

(3)現行法人税のいくつかの個別的問題に対処する。

「ビジネス活動税」(BAT)は新しい提案なので、若干の説明をしておこう。

BATの課税ベースは、企業の売り上げから財とサービスの購入額を控除したものである。投資支出も控除対象となる。その半面で、賃金は差し引かれない。利子などの金融収支は、受け取りも支払いも含まれない。

したがって、BATの課税ベースは、企業段階での付加価値になる。経済全体では、その総額は消費に等しくなる(企業間の取引は相殺されるからである)。

つまり、ヨーロッパの付加価値税や日本の消費税のそれと基本的に同じである。ただし、付加価値税と違ってインボイスを用いない。この点では、日本の消費税と同じだ。

現在の法人税の課税ベースである「利益」と比べると、賃金だけ拡大し、「投資支出-減価償却」と「受取利子-支払利子」だけ少なくなる。したがって、現在の課税ベースより大幅に増える。このため、税収中立的な税制改革を行なえば、税率は大幅に低下するわけである。

課税ベースを拡大して税率を下げる

法人税の課税ベースを根本的に見直すべしとの議論は、今急に出てきたものではない。税の専門家のあいだでは、昔から行なわれていた。

比較的最近のものとしては、77年のアメリカの「財務省報告」(ブループリント)や78年のイギリスの「ミード報告」がある。これらは、「基本的な課税ベースを所得から支出に転換させる」という考えを提起した。これは「支出税」と言われる考えであり、税理論の観点から大変重要なものである。法人税については、企業の売り上げから支出を控除したものを課税ベースとする「キャッシュフロー法人税」が提案された。

BATは、キャッシュフロー法人税と比較すると、賃金の控除を認めない点が違う。しかも、個人所得税には手をつけない。ただし、課税ベースを大幅に広げるため、税の構造は現在とは大きく異なるものとなる。ある意味では、レーガン税制改革より野心的なものと評価することもできよう。

提案(2)の特別措置の廃止でも、課税ベースはかなり広がる。現在の加速償却をも廃止すれば、税率を現行の35%から28%に下げることが可能としている(加速償却を残す場合には31%)。

このように表面上の税率は低下するが、それは課税ベースが大幅に拡大する結果であることに注意が必要だ。日本では、この報告を引用して、「アメリカでは法人税率を28%に引き下げることを検討している。だから、日本でも税率を引き下げよう」という議論に利用されかねない。

日本で06~07年に行なわれた法人税論議は、課税ベースを現状のままとして税率を引き下げることを狙っていた。そこで目的とされたのは、単なる企業の負担軽減である。

「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という方向は、アメリカ、イギリス等の主要先進国において80年代から実施されてきたものだ。その目的は、中立性の確保と経済の活性化である。

税率だけでなく、税の構造(なかんずく課税ベース)が経済活動に大きな影響を与えるのだ。財務省報告は、BATの改革によってGDPが2.0~2.5%増加するとしている。このように、アメリカの法人税改革の目的は、単なる企業の負担軽減ではなく、経済全体の効率性の向上であることに注意が必要だ。

法人税改革についていま1つ考慮すべきは、法人税率の引き下げが、外国からの投資を増加させられるかどうかだ。資本が増えれば労働生産性が上昇して労働者の賃金は高まるから、外国からの投資は増えるほうが望ましい。

税率を引き下げて外国からの投資を誘引する

ところで、法人税率を下げたときに外国からの投資が増加するか否かは、資本輸出国の税制に依存する。日本やアメリカのように「全世界所得課税プラス外国税額控除」方式を取っていれば、結局は本国の税率になってしまうので、資本輸出には影響が及ばない。

しかし、ヨーロッパ大陸の多くの国は、「国外所得免除方式」を取っている。こうした国からの投資は、受け入れ国が税率を引き下げれば増加する。実際、アイルランドやイギリスは法人税率を引き下げて海外からの投資を増加させ、それによって経済活性化を実現した。

ヨーロッパでは、多くの国で法人税率の引き下げが計画されている(ドイツは38%から30%へ。イギリスは30%から28%へ。フランス、イタリアも法人税率引き下げを計画している)。それは、外資導入の促進という観点から行なわれていると考えられる。

それに比べると、日本の法人税率引き下げ論議はだいぶ違う。そこで求められているのは、単なる企業の税負担軽減であり、海外からの投資を増加させることではない。

実際、日本の企業は、海外からの直接投資に対して強い拒否反応を示している。日本経済団体連合会は、三角合併の解禁に当たって、強い反対意見を表明した。

また、日本企業は、買収防衛のために株式の持ち合いを復活させている。新日本製鐵、住友金属工業、神戸製鋼所が株式の持ち合いを強化すると発表したが、これは、アルセロールミタルによる買収に備えるためだと考えられている。

また、ブルドックソース事件に見られるように、海外のファンドによる買収に対して強い拒否反応を示している。海外からの買収だけでなく、王子製紙による北越製紙への敵対的買収計画に見られたように、国内からの買収も拒否する。

この結果、GDPに対する海外からの直接投資の比率は、日本では2.2%でしかない。イギリスが36.6%であることと比べると、あまりに大きな違いだ。

日本企業がこのように閉鎖的な態度を続ける限り、法人税率を引き下げたところで、海外からの投資が増加することはない。したがって、経済活動が活性化することもないだろう。それは、法人の負担を軽減することになるばかりだ。

日本で法人税率を引き下げるなら、それに先立ち、買収に対しての拒否反応を排除し、海外からの直接投資に関する環境を整えることがぜひとも必要だ。

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