大きく転換しつつある世界経済の構造

2008年の世界経済は、波乱の幕開けとなった。年明けのニューヨーク市場で原油が1バレル100ドルを超え、ドルも下落した。それを受けた東京証券取引所の大発会では、株価が急落した。

これらは金融市場での出来事であり、必ずしも実需の変化によって引き起こされたものではない。特定の財の価格高騰が投機を呼んで価格をさらに高騰させれば、バブルが発生する。アメリカの住宅価格はそうした状態にあったが、原油や資源についてもそうなっている可能性がある。

バブルによる価格の上昇は実需に支えられたものではないので、なんらかのきっかけで急激に崩壊する(アメリカの住宅価格では、それが発生した)。原油価格や資源価格にも、近い将来にそうしたことが生じる可能性がある。

しかし、今起こっているのは、金融市場に限定された投機的現象だけとは言い切れない。なぜなら、原油など資源価格の高騰には、長期的に見れば新興国での需要増大という実需の支えがあるからだ。

中国の1人当たりGDPは2000ドルを超え、すでに大衆消費社会に入っている。モータリゼーションが進展すれば、原油に対する需要は爆発的に増える。インドもいずれはそうなるだろう。

03年において、全世界の原油消費量35億1300万トンのうち、中国が2億5100万トン、インドが1億2100万トンであり、両国だけで全世界消費量の1割を超える。他方で、1人当たり消費量は、世界平均が539kgだが、中国は191kg、インドは114kgだ。中国とインドの1人当たり消費量が現在の世界平均まで増加すれば、需要は9億0800万トン(全世界消費量の26%)増加する。しかもそれで終わるわけではなく、その後も需要増加は続くだろう。

こうした事態がそれほど遠くない将来に生じることは、ほぼ間違いない。

これは、1970年代、80年代に生じたオイルショックとの大きな違いだ。オイルショック時に原油価格を引き上げたのは、供給国のカルテルによる供給制限である。しかし、国際商品に対してカルテルを続けるのは難しいし、原油価格が上昇すれば省エネルギーや代替エネルギーへの転換が起きる。オイルショックへの適応に時間がかかったのは事実だが、結局は世界経済は対応できた。

しかし、中国やインドなどの新興国の発展に伴う需要の増加は対処が難しい。省エネルギーや代替エネルギーへの転換は今後も進展するだろうが、それだけで増加する需要を吸収できるとは限らない。

また、新興国の経済発展によって需要が増えるのは原油だけではない。さまざまな資源、原材料、食料などに対する需要も増加する。また、排出物の増加による環境への負荷も増加する。

新興国成長の影響は供給量から需要量に

このように見ると、世界経済は今、大きな転換点にさしかかっていると考えることができる。新興国の世界経済に与える影響が、これまでの「供給の増加」から「需要の増加」にシフトしているのだ。

90年代においては、中国などの工業化によって、製造業製品の価格が低下した。また、インドなどの低賃金労働を、インターネットを介して利用することも可能になった。こうして、価格低下の圧力が顕著に働いた。しかし、今後は新興国の所得向上によって需要が増えるために、価格上昇圧力が働く。

ここで注意すべきは、以上のような世界経済構造変化から受ける影響が、国によって違うことだ。

まず、90年代における工業製品に対する価格低下や低賃金労働の活用で、最も大きな利益を受けたのはアメリカだ。91年に比べて、現在のアメリカの株価指数が5倍程度になっていることが、それをよく示している。また、アイルランド、イギリス、北欧諸国なども、この変化によって受益した。

しかし、日本はこうした大変化がもたらした利益を享受できなかった。むしろ逆に、新興工業国との競争によって、国内産業が疲弊した。それは、旧来型の産業構造にこだわったからである。日本の現在の株価指数が、91年の7割にしかなっていないことが、それをよく示している。

そして、古いタイプの産業を支えるために、金融緩和と円安政策が取られた。つまり、本当に必要な構造改革は産業構造の変革だったにもかかわらず、近視眼的なバイアスのために、まったく逆の経済政策が取られたのである。

しかも、問題は、古い産業構造が温存されたことだけではない。異常なマクロ政策が長期にわたって継続されたため、それを利用する国際的な投機が発生したのである。それは、日本から高金利通貨国への投資資金の移動だ(アメリカの住宅価格や資源価格の高騰をもたらした「世界的なカネ余り現象」は、日本の金融政策が引き起こした面も、少なからずある)。

インフレに対処しつつ過去のツケを払う

こうした投機がすでに大規模に発生してしまったので、日本は異常な金融政策から抜け出せなくなってしまった。なぜなら、金利を引き上げれば円高になり、輸出関連企業の業績が悪化するので、株価が下落するからだ。07年2~3月にかけては、これが現実化した。このときの経験があるので、日本銀行の利上げはその後行なわれていない。

07年の8月と11月には、外的なショックによって同じ結果がもたらされた。すなわち、アメリカのサブプライムローン問題をきっかけにして投機的な国際資金移動に変化が生じ、円が買われて円高になり、これまで日本企業の収益を支えてきた円安バブルが崩壊し始めたのだ。

こうした事態が生じるのは、古い産業構造維持のために行なわれた経済政策の歪みが蓄積されているからだ。歪みはいずれ清算されなければならない。株価下落は、構造改革を引き延ばしたツケの支払いである。

将来に向かう変化から受ける影響も、国によって差がある。原油価格上昇によるマイナスの影響はどのような国にも及ぶが、製造業の比率が高い国ほど大きな影響を受ける。なぜなら、生産コストの上昇を100%製品価格に転嫁できるとは限らないからだ。企業がコスト上昇を負担すれば、利益が圧迫される。

ところが、製造業の比率は、日本では20%程度だが、英米では10%程度である。したがって日本は、原油価格上昇によって2倍の影響を受けることになる(イギリスのように金融立国に成功した国は、原油価格上昇によって、利益を受ける可能性さえある)。

こうして、日本は、他国よりも深刻な問題に直面する。まず、長期的なインフレ圧力に対処しなければならない。その影響は、他国より大きいだろう。

そして他方では、過去の政策の誤りのツケとして、円高による株価下落の恐怖に直面し続ける。このように二重の問題に直面しているのは、日本だけだ。

このことは、株価の動向にすでに表れている。最近時点での株価指数を昨年の初めと比較すると、アメリカでは約4%高いが、日本では約15%の下落だ。昨年末と今年初めのわずか数日だけを比べても、アメリカでは3.5%の下落にとどまっているのに対して、日本では約4%の下落だ。

日本における経済政策の舵取りは、世界で最も困難なものになっている。

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