日米で株価が上がるが実体経済はまったく違う

株価が上昇している。実体経済面では何も改善は見られないのだから、いかにも奇妙な動きだ。

「改善が見られない」というより、むしろ事態は悪化している。前回述べたように、3月期決算では家電企業が巨額の赤字に陥る。輸出は増加せず、1月の貿易収支赤字は、1兆円を超える過去最高値を記録した。電力不足が予測され、今年の夏には生産活動がかなり制約される恐れがある。

株価上昇のきっかけは、日本銀行の金融緩和政策発表だ。しかし、詳細に見れば、格別のことを行ったわけではない。これまで「理解」と言っていた物価上昇率を「目途」と言い換え、長期国債購入限度額を引き上げただけだ。

この措置によって貨幣供給量が実際に増加しているかのような論評が数多く見られる。市場もそのように受け取っているのだろう。しかし、引き上げたのは限度額であって、実際の購入額ではない。これまでのルールだと、日銀はあと21.5兆円だけ長期国債を購入することができた。今回の決定で、それが31.5兆円まで引き上げられた(これについての詳しい説明は、ダイヤモンド・オンライン遠載の「経済大転換論」を参照)。言うまでもないが、限度額の引き上げと、実際の購入額の増加とはまったく別のものだ。

将来、仮に国債価格の暴騰等が起こった場合に、それに対処する能力は高まったことになる。だから、金融機関が安心して国債を買い進めることができる。しかし、それだけのことであって、それ以上のものではない。今回の措置で拡大したものは、単なる期待でしかない。

円高が収まったから株価が上昇するのだともいう。しかし、輸出は増えていない。中国輸出の減少は、中国経済の減速によるもので、仮に円安になってもどうにもならないものだ。が増加するから株価が上がるのだ。アメリカの株価上昇は、根拠のない期待に基づく日本の株価上昇とはまったく異なる。

現在のダウ平均は、07年の10月に記録した史上最高値の93%程度にまで回復している。つまり、企業の利益や株価で見る限り、アメリカ経済は金融危機を克服したことになる。

金融危機直後、「アメリカの没落」とか、「資本主義の終焉」などと盛んに言われた。しかし、事態はまったく逆だったことになる。

08年にアメリカ金融業が大赤字に陥ったとき、多くの人が、「アメリカ式金融主義が、強欲を追い続けた結果、破綻した」と言った。

しかし、実際に駄目になったのは、先端的金融業ではなく、古いタイプの製造業だったのである(10年におけるアメリカの製造業の利益は、06年の7割程度でしかない。これは、自助車産業の利益が減少したことによる)。

そして、古いタイプの製造業に依存する度合いの高い日本が駄目になったのだ。それにもかかわらず、多くの日本人が、そうした事態を理解できないでいる。

現在の状況が続くとどうなるか?

日本は今の状況を脱却できず、アメリカは成長を続けて、日米の格差がさらに拡大することになるだろう。IMFの予測によると、2016年のアメリカの実質GDPは、10年から16.8%増える。しかし、日本は9%増えるだけである。

経済政策の方向づけは日米共通で間違っている

このように、経済実体面で、日米間に大きな違いがある。ただし、日米で共通していることもある。それは、政府の経済政策が方向を間違えていることだ。

前回述べたように、円安によって発電用燃料の輸入額は増えるのだから、日本経済にはマイナスの影響だ。それにもかかわらず、日本政府は、円安介入を続けている。

方向違いの点では、アメリカも大差がない。オバマ米大統領は、今年1月の一般教書演説で、「失われた雇用を回復するため、製造業を米国内に取り戻す」とした。

昨年の一般教書演説では、「35年までに電力の80%をクリーンエネルギーに」というグリーン・ニューディール政策の荒唐無稽さに驚かされたが、今度は、時計の針が80年代まで戻ったかのような既視感に襲われる、救い難いアナクロニズムだ。

オバマの支持層は旧来型産業の多いアメリカ中西部の労働組合だから、大統領選挙を控えて、彼らにメッセージを送りたいのは理解できる。しかし、それにしても、もう少しまともなことを言えないものだろうか。

ただし、ここでも日米の違いがある。日本の産業が政府の補助に頼ろうとしているのに対して、アメリカのIT産業は、政府のアナクロ経済政策を一切無視していることだ。

一般教書演説の3日前の1月21日、「ニューヨーク・タイムズ」は「なぜアメリカはiPhoneの仕事を失ったのか?(How the U.S.Lost Out on iPhoneWork)」という記事を掲載した。

それによると、オバマ大統領が11年2月にシリコンバレーの経営者と会食したとき、スティーブ・ジョブズに「iPhoneを米国内で生産するには何が必要なのか?

その仕事が米国に戻ってこないのはなぜか?」と尋ねた。それに対して、ジョプズは、「その仕事が戻ってくることはない」と明確に答えたという。

アップルは、中国にある工場で製品を安く製造するから巨額の利益を稼げる。もし工場をアメリカに移してアメリカ人の高い賃金で生産をしたら、アップルは日本のエレクトロニクスメーカーと同じように、巨額の赤字を抱え込むことになるだろう。

オバマがこのことを理解できなかったのと同じく、日本の経営者を理解できていない。日米経済の大きな格差の底にあるのは、このような違いだ。

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