円高で赤字増加は競争力がないから

日本の製造業が巨額の赤字に落ち込むのは、円高のためだと言われる。「これはどの円高では、日本国内でのものづくりはできない」との声が、さまざまな経営者から聞こえる。

しかし、こうなるのは、競争力がないからである。以下では、その理由を述ベよう。

円高が生じたとき、企業には、二つの対処法がある。第1はドルベースの価格を一定に据え置くこと、第2はドルベースの価格を引き上げることだ。

多くの日本企業は、第1の対処法を取っている。こうするのは、「仮に価格を引き上げれば、競争相手に負けて、売り上げが減ってしまうからだ」とされる。

ドル建て価格を据え置けば、ドルベース売上高は一定にとどまる。したがって、円ベースの受け取りは為替レートの変化率に等しい率で減少する。これは、中学生でも理解できる算術だ。

日本の輸出は、実際にこうした姿になっている。すなわち、ドルベースで見た日本の輸出総額は、経済危機前のピークである2008年に7759億ドルであったが、10年にはその98.9%である7670億ドルとなり、11年には5.8%増である8209億ドルになった(ドルベースの輸出額は、日本貿易振興機構が算出したデータによる)。

ところが、11年の日本の輸出を円建てで見ると、08年の80.9%にしかなっていない。

ドルベースと円ベースでこのような乖離が生じるのは、円高が進行したためだ。08年6月のレートは1ドル106.1円で、11年6月のレートは80.5円だ。したがって、仮にこの間にドル建て価格が不変で輸出数量がドルベースの輸出額増加率に等しい5.8%だけ増加したとすれば、円ベースの受収額は80.3%に減少することになる。

これは現実の値にほぼ等しい(実際には80.9%に減少しているので、数量またはドル建て単価が0.8%程度増加または上昇したことになる)。

つまり、大ざっぱに言えば、¬輸出量、あるいはドル建てで見た輸出額は、08年とほぼ同じ水準にまで回復したが、ドル建て価格がほぼ不変だったので、円建てで見ると、円高になったぶんだけ減った」ということである。

以上は日本の輸出全体についてのことだ。国別に見ると、どうか? 中国に対する輸出をドルベースで見ると、08年の1240億ドルから10年の1491億ドルへと20.2%増えた。しかし、円建てで見ると4.8%の増でしかない。これは、円か人民元に対して増価したためである。

アメリカに対する輸出は、ドルベースで見ても87%に減少している。その原因は、乗用車の輸出が大きく減少したことだ。それに加えて円高の効果があるので、円ベースの対米輸川額は大きく減少した。

製品に競争力があれば価格を引き上げられる

ところで、円高が生じたとき、企業は、ドル建て価格を引き上げることもできる。価格を据え置けば上述のように円ベースでの受け取りが減ってしまい、国内でこれまでと同放の従業貝にこれまでと同じ給与を支払うことはできない。あるいは、利益が減って株価が下がる。こうした事態に陥らないように、ドル建て価格を引き上げるのである。

もちろん、価格を引き上げれば販売量は減る。ただし、どれだけ減るかは、価格弾力性に依存する。仮に弾力性がゼロなら(すなわち、価格を引き上げても販売量が不変なら)、売上高は価格引き上げ率と同率で増加する。したがって、円の増価率に等しいだけの値上げを行えば、円ベースでの受け取りを一定にすることができる。

その場合には、日本国内での人件費削減や利益減少という問題を回避することができるわけだ。

弾が性がゼロでなくとも絶対値が1より小であれば、価格引き上げによって売上高は増加する。したがって、十分な率の価格引き上げを行えば、円べースの売上高を減少させないですむのである。この場合にも、円高によって状況が悪化することはない。

製品に競争力があれば、価格を引き上げても収入を減らさずにいられる。あるいは、積極的に増やすことができるのである。「そんなことは机上の空論であって、現実は厳しいのだ」と言われるかもしれない。しかし、そうしたヶIスは事実存在する。

日本から中国に対する輸出を08年と11年で比較すると、総輸出額では0.35%の減少を示している。しかし、品目によっては、著しい増加を示しているものがある。これは、元建ての価格を引き上げているからだ。たとえば、ベアリングは、数量が58.4%増で、額が56.4%増だ。バス・トラックは、数量が81.6%増、額が102.9%増。医薬品では、数量が31.0%増、額が30.2%増である。これらは、数量を増加させると同時に、円建ての単価がほぼ不変になるように元建て価格を引き上げたケースである(バス・トラックの場合は、円建て単価が上昇している)。自動車部品では、数量が44.1%増、額が32.8%増だ。円建て単価はやや低下しているが、低下率は低い。これは、元建ての価格をそうとう引き上げている結果だ。

こうした製品がもっと多ければ、円高になっても、日本の輸出は円建てで減らないだろう。

じつは、欧州車にこれと同じことが起こっている。ユーロ安にもかかわらず、円建ての価格は変わらない。これは、「欧州車はコモディテイ化していないから、価格を下げたところで販売台数が格別に増えるわけではない。これまでの価格でも、台数は増える」との判断に基づく戦略であろう。実際、欧州車の売り上げは伸びている。競争力があればこうなるのだ。

「円高だから」は言い訳にすぎない

以上で述べたのは、製品価格の引き上げである。対処法はそれだけではない。

原料や材料を輸入で手当てすれば、輸入量が変わらなくとも、円高によって輸入額は減少する。だから、企業利益に貢献する。

「いくら原材料の輸入を増やしたところで、原材料購入額は製品販売額より少ないのだから、円高になって利益がふくらむことはない」と考えられるかもしれない。しかし、生産をEMSと呼ばれる海外の受託生産者に委託してしまうこともできる。このようにして製造過程をなくしてしまった製造業の企業は、「ファブレス企業」と呼ばれる。そうなった企業は、自国通貨が強くなることによって、利益が増えるのだ。「自国通貨が弱いほうがよい」と考えるのは、従来型の加工貿易から脱却していないことの証拠である。

アップルは、実際にこうしたビジネスモデルを採用している。製品生産を中国で行っているので、ドルが元に対して強くなれば、輸入する価格は低下するから、アップルにとっては望ましいわけだ。こうしたビジネスモデルに移行すれば、自国通貨が強くなることで、企業の利益は減らず、むしろ増えるのである。

以上をまとめよう。「円高だから売り上げが伸びない。利益が滅少する」と言うのは、価格を引き上げられないこと、すなわち、製品がコモディティ化したことの告白である。あるいは、国内の生産設備に見切りがつけられないからである。変化する情勢に対応できず、責任を他に転嫁しようとしているだけのことだ。「円高で日本がつぶれる」というのは、言い訳にすぎない。

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