経常収支赤字でも国債国内消化可能

貿易収支が赤字になったことを受けて、近い将来に経常収支も赤字になるとか、それが国債の国内消化を困難にするといった議論がなされている。この議論は誤りであることを以下に述べよう。

後で述べるように経常収支は簡単には赤字にならないと考えられるのだが、仮にそうなったとしても、国債の消化に影響が及ぶわけではない。

経常収支が赤字になり、資本を輸入しなければならなくなったとき、日本がまず行うのは、対外資産の取り崩しである。日本の対外資産は2010年末で564兆円ある。このうち273兆円は証券投資であり、外貨準備が89兆円だ。これらは、売ろうと思えばすぐにでも売れる。さらに貸し出しなどが130兆円ある。これは証券ほどの市場性はないが、返済を求めることはできる。以上の合計は490兆円を超える。仮に年間の経常赤字が5兆円であるとしても、100年近く賄える勘定だ。89兆円ある外貨準備だけでも、18年間持つ。

対外資産の売却によって国内に還流する資金は、国債購入に充てることができる(ただし、国債国内消化の大部分は、これまでと同様、金融機関が対企業貸し出しを減少させることで行われるだろう)。だから、経常収支が赤字になったからといって。ただちに国債の海外消化が必要になるわけではない。

なお。資金が国内に還流するため、為替レートは円高になる。「経常収支が赤字になると円安になる」と考える人が多いのだが、そうはならないのだ。

対外負債残高が312兆円なので、資産残高がこれ以下になれば、対外純資産はマイナスになる。しかし、そうなったとしても、対外資産の売却が困難になるわけではない。日本が自ら保有する資産を売ることには、なんの支障も生じない。新しく借り入れを起こすこととは違う。日本はこの点において、ギリシヤはもちろん、イタリアとも大きく異なる条件下にある。

ただし、資産売却が外国の金融市場に混乱をもたらすことはありうる。日本が保有している対外資産の多くは米国債なので、売却速度が急であれば、米国債市場に影響が及ぶだろう。ただし、アメリカの長期政府債務残高は、10年末で11.8兆ドルあるので、日本の売却額が年間5兆円程度であれば、あまり大きな影響にはならないだろう。

経常収支は簡単には赤字にならない

以上で述べたのは、「仮に経常収支が赤字になった」場合のことである。しかし、経常収支は簡単には赤字にならない。

その理由は、所得収支が巨額だからだ。対外資産残高はそう大きく変動しないし、市場利回りが低下しても、すでに保有している国債の利子収人には関係がないので、所得収支は簡単には減らないのである。

所得収支は、06年以降、毎年10兆円を超えるオーダーである。11年には、15兆円程度になると考えられる。11年の貿易収支が2.5兆円、サービス収支が2兆円の赤字なので、経常収支は10兆円を超える黒字になるはずである。20兆円を超えていた07年に比べると減ったのは事実だが、まだかなり巨額の黒字だ。

もちろん、将来の貿易収支赤字に不確定要囚はある。特に、原油価格の動向によって赤字が拡大する可能性がある。他の条件が変わらず、10年で約2兆円あった原油輸入額が12兆円になれば、経常収支は赤字になる。しかし、そうなるには、価格が現在の6倍にならなければならない。こうしたことが近い将来に起こるとは考えにくい。他方、LNG(液化天然ガス)価格は11年には上昇したが、今後は供給拡大で安定する可能性が強い。アメリカは、16年にLNGの輸出国になるとされており、それが実現すれば価格が下がる可能性もある。したがって、貿易赤字が急激に増大する可能性は低い。

以上は貿易面からの検討だが、国民経済計算の資金過不足(貯蓄投資バランス)の観点から見ると、どうか。10年の金融勘定で国内各部門を見ると、家計が17兆円の純貸出、企業(非金融法人企業)が22兆円の純貸出、一般政府が37兆円の純借入である。概念上の差などがあるので、これらの合計は国際収支統計の経常収支には一致しないが、時系列的な変化を見ることはできる。家計の純貸出が徐々に縮小するなかで、政府の純借入が拡大し、これを企業の純貸出の増加によって吸収してきた(詳しくは、拙著『消費増税では財政再建できない』、ダイヤモンド社、12年を参照)。

これらが将来どうなるかを予測するのは難しいが、一般政府の純借入の増加と企業の純貸出の増加が釣り合い、国内の貯蓄投資差額はほぼ不変に保たれる可能性が強い(高齢化の進展で家計貯蓄が減少するとの意見があるが、家計貯蓄率はすでに非常に低い水準に落ち込んでいる)。

経常収支が黒字であれば、対外資産は増え続ける。したがって、所得収支も増え続ける。上では、経常収支が赤字になって対外資産取岔朋しに追い込まれるような事態を想定した。しかし、近い将来にそうなるとは、考えにくい。

求められるのは資産大国としての行動

貿易収支が赤字に転じたからといって、あたふたすることはない。それより重要なのは、対外資産の運用を効率化することだ。なぜなら、日本の対外資産の運用利回りは決して高くないからだ。

10年について見ると、所得収支受け取り(15.2兆円)を対外資産で割った値は2.7%だ。国内で運用する場合と比べると高いように思われるが、それは表面上のことである。なぜなら、金利平価式が示すように、為替レートは内外金利差に等しい率で円高になってゆくはずだからだ。

為替損を帳消しにするには、内外金利差を最大限に活用する必要がある。ところが、日本の実績はこの水準に達していない。実際、円建てで評価した日本の対外資産は、経済危機後の円高によって大きく目減りした。したがって、運用利回りの向上が急務である。

まず手をつけるべきは外貨準備だ。現在は短期米国債運用が大部分を占めているが、これを少なくとも10年債にする必要がある。

いま一つ重要なのは、証券投資や貸し付けなどの受動的運用から、直接投資へのシフトを図ることだ。日本の対外資産のうち直接投資は68兆円で、対外総資産に占める比率は12%でしかない。この比率を上昇させることが必要だ。

現在進行中の生産拠点の海外シフトは、これに沿う助きだ。海外移転を「空洞化」だとして否定するのでなく、活用することが必要だ。ただし、海外に投資すれば必ず収益が上がるわけではない。適切なビジネスを展開することが必要だ。

日本は、世界一の金持ちであることを忘れている。唸るほどの金を持ちながら、その使い方を知らない愚かな金持ちである。資産大国としての生き方を、今後真剣に探るべきである。

さらに言えば、経常収支が赤字になっても。産業が強ければ、海外から安定したコストで資金調達できる。実際、アメリカ、イギリスは巨額の経常収支赤字を記録し、アメリカでは国債の半分程度、イギリスでは3割程度を外国人投資家に保有されているにもかかわらず、金利は暴騰していない。先端的な金融業やIT関連サービス業は未来的な産業であるからだ。日本は、こうした国を見ならうべきだ。

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