日本国債のリスクは確実に高まっている

国債のリスクを評価する指標としては、さまざまなものがある。通常用いられるのは格付けだが、これは不完全な指標だ。ファイナンス理論の成果を取り入れた指標とは言えず、しかも定量的でない。

マーケットの指標としては、利回り、CDSスプレッド、デュレーションなどがある。直接的にリスクを表しているのは、CDSスプレッドだ。これは、投資家が金融商品の価値をプロテクトする手段として川いるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料である。通常は、5年間保証する保証料の額面に対する比率で表示される。

CDSは、比較的新しい金融手段なので、日本ではよく理解されていない。数年前の金融危機の際にも、CDSが金融危機を引き起こしたというような誤った議論が行われた。

「CDSは保険のようなもの」とよく説明されるが、リスク負担の仕組みはまったく異なる。保険は分散投資でリスクを分散させるが、金融資産のリスクは分散化できないので、保険は適用できない。CDSは、オプションの一種であり、破綻した場合の損失はCDSの引受者が負担する(CDSについての詳しい説明は、拙著『経済危機のルーツ』束洋経済新報社、2010年を参照されたい)。

プロテクションを求める投資家は、CDSによってリスクを回避できるなら、保有資産の期待利回りが低下してもよいと考える。つまり、保証料の支払いが、保証額の期待値(損失額×損失の発生確率)を超えてもよいと考える。この差がリスクプレミアムである。

したがって、市場が判断している国債の破綻確率をスプレッドから計算するには、リスクプレミアムのデータが必要である。ただし、リスクプレミアムは対象資産や時点には依存しないと考えられるので、プレミアムが高ければ、破綻確率が比例して高く予想されていることになる。したがって、プレミアムの国別の違いや時間的推移から、市場が判断する損失発生確率の国別の相対的な差や、時間的な推移を知ることができる。

日本国債のスプレッドは、顕著に上昇している。金融危機前は100分の1%台だったのが、金融危機後に数十倍になった。11年3月に過去最高値を付けたが、その後低下した。しかし、秋に再び上昇し、12年1月には一時1.5%になった。イタリアの5%などに比べれば低いが、アメリカが0.6%であるのと比べると、かなり高い。

なぜ日本国債の利回りが低いままか?

他方、日本の10年国債の市場利回りは、ほぼ1%と、きわめて低い。アメリカとの比較では、CDSスブレツドは日本のほうが1%近く高いにもかかわらず、10年債利回りは日本のほうが1%程度低い。

これをどう解釈したらよいだろうか? 一般に言われるのは、「銀行や保険会社などの国内の国債投資者と、海外の運用者とのあいだで、日本国債のリスクに関する見方が異なる」というものだ。しかし、これは国内と海外市場で裁定が働いていないという説明であり、受け入れがたい。

それより、「日本の実質金利がアメリカより高く、しかもリスクの高まりを反映して、格差が広がった」と考えるほうが自然だ。

名目金利=実質金利十物価上昇率の関係があるので、仮に日米の実質金利が等しければ、日米の物価上昇率の差は名目金利の差と同じになるはずである。しかし、実際には前者のほうが大きい(10年において、米名目金利3.21%、日本の名目企利1.15%なので、名目金利差=2.06%。ところが、物価(CPI)上昇率は、米が1.64%、日本が▲0.70%なので、物価上昇率差=2.34%)。これは、日本の実質金利のほうが高いことを意味する(なお、実質金利は、実際には観測できない変数である)。

10年から11年にかけての変化を、次のような簡単化した仮想数値で説明しよう。投資資金の需給の変化見通しから、日米で実質金利が低下したとする。しかし、日本では国債のリスクが高まったことを反映して、低下の度合いが少ないとする。米実質金利が1%から0%に、目本の実質金利が1.5%から1%に低下したとしよう。日米の実質金利の差は、0.5%から1%に拡大する。この拡大幅は、CDSスプレッドの差の拡大にほぼ対応する(10年におけるスプレッドは、米が0.25%、日本が0.75%程度。この差が実質金利の差と考えれば、上式が成立する。これが最近1%くらいに拡大している)。他方、CPI上昇率は、日本0%、米2%で変わらないとすれば、米名日金利は10年の3%から11年の2%に低下し、日本の名目金利は1.5%から1%に低下する。日本のほうが名目金利が低い状態は変わらない。以上のように考えれば、現実に生じている現象を説明できるわけだ。

ただし、この場合には、実質金利の差が変化するので、金利平価式が要求する為替レート変化率(年率1%の円高)と購買力平価式が要求する変化率(2%の円高)が食い違う。現代の世界では、経常収支ではなく資本移助によって為替レートが決まるので、金利平価式が要求する率になるだろう。したがって、購買力平価は満たされず、実質円レートが円安になる。

通常の説明は、金融巾場で裁定が働いていないとするものだが、それより、実物市場での裁定が働いていないとするこの説明のほうが自然なものだ。

要約すると、次のとおりだ。日本の名日金利が低いのは、物価上昇率が低いことの反映であり、リスクが低いことの反映ではない。だから、リスクを判断する指標としては、不適切なものだ。日本の実質金利はアメリカより高く、しかも、国債リスク上昇を反映して格差が拡大している。

短期化する国債のデュレーション

欧州ソブリン危機を理解するに当たっては、短期金利と長期金利を区別することが重要である。

欧州で高騰しているのは、長期金利である。イタリアの国債利回りは、昨年秋に7%を超えた。これに対して短期金利は、1%を下回る水準だ。

この関係は、もっと詳しくは、横軸に償還までの期間、縦軸に年利をとった「イールドカーブ」によって示される。欧州では、イールドカーブが傾斜の急な右上がりの曲線になっているわけだ。これは、金融緩和期、あるいは、将来に対するリスクが高いときに見られる現象である。

短期金利が低いのは、ECB(欧州中央銀行)が金融緩和しているためだ。中央銀行が供給するのは短期資金だから、緩和しているのは短期金融であって、長期金融ではない。長期金利が高いのは、ユーロの行方が混沌としているからだ。これに対処するには、公的機関が長期国債を購入することが必要だが、それは損失につながる可能性が高いために敬遠されているのである。

国債のリスクを表しているいま一つの市場指標は。「デュレーション」である。これは、市場に存在する国債の償還までの平均期間だ。

日本で、これが短期化している。11年3月末での平均残存期間は、6年8ヵ月である。この程皮の期間中には、日本国債の国内消化に問題が起きるとは考えられない。したがって、償還まで持ち続ければ、仮に市場価格が下落しても、損失を被ることがない。ただし、その期間は7年より長くはないと予想されているのである。

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